「何これ!どういうことなの!?」








キラはディアッカに連れられてイザーク達のまつグリーフィングルームへとやってきた。

すでに準備を終わらせていたらしく、3人は何かを話しながらコーヒーを飲んでいるようだった。

「キラ、おはよ」

「おはようございますキラさん」

「よく眠れたか?」

「・・・・・・おはよ」

アスランたちの言葉にあまり反応を示さず、あきらかに元気のない声を出すキラに、イザークたちの視線が集まり、そしてそれがすぐにディアッカのほうへと向けられた。

だが、ディアッカは首を横に振り、今は何も問うなと目線で語る。

明らかに元気のないキラに心配は深まる一方だが、今はとにかくそうっとしておくことが一番なのだろう。

「それじゃキラ、そろそろ時間ないからこれに目を通してくれ。五分な」

「うん」

パラパラと概要だけを読み取っていくキラ。








そして、ことは一番最初へと戻るのだ。

「ちょっと、ほんとにどうして!?なんでこうなるの?」

キラは手渡された資料をディアッカに広げて説明を求めた。

そこに書かれているのは今日の模擬戦でのチームわけの一覧表。

「なんでって、実力でわけたらそうなったんだよ」

「実力でって・・・」

納得いかないという顔でキラは再び資料を見た。

アスランたち4人が一緒でキラだけ一人というのももちろん納得がいかないが、それ以上に自分のチームにはケイトたち全員が入っている。

この際、実力は関係なかった。

ただ、うまくいきそうな気がぜんぜんしない。

「もう決まったことだ。今更いたって変更きかねぇよ。それよりほら、いい加減あいつら待っているから行くぞ」

ほらと指差される先を見ると、数並ぶザクたちの足元の一角にきちっと並んだアカデミー生の姿が目に映る。

遠目から見てもすぐに分かるぐらいみんな緊張しているのが分かる。

あの子達にとってははじめての本格的な宇宙空間に出ての模擬戦闘になるのだ。

こちらも手を抜かずに、真剣に取り組む必要がある。

「・・・・・わかった」

不承不承、キラはうなづいてみんなと共にアカデミー生が待つ場所へ移動した。







「もう話に聞いているやつも居るかもしれないが、今日は模擬戦を行う。実際ザクに搭乗したことあるやついるか?」

パラパラとアカデミー生の中で手が上がる。

だがやはり全員というわけではないらしい。

「ま、経験者多数ってことか。それならそいつらはザクのコックピットに付け。未経験者はサブシートの方だ。サブって言っても後で交代させるからよく見ておくこと。アカデミーでシュミレーターでの操縦経験はあるだろうが、宇宙空間ではまた微妙に違ってくる。その違いを感じながら実際の戦闘を経験するのが今回の目的だ。誰一人として気を抜くことがないようにな」

ディアッカが話していると同時に今回の資料、さきほどキラに見せたものと同じものが各自に配られる。

アカデミー生は現地で配られる資料の大切さをきっちりと指導されているのですぐさま目を通し始めるが、逆に今回特別参加者であるケイトたちはパラパラと見る程度にしか内容を確認しない。

そんな様子を見て、アスランたちは注意する気も起きないほどあきれてしまった。

どれだけ実力を持つものだろうと、基本ができていないものは誰も動かされない。

それが自分の、そして他人の命を揺らがせるものであるなら、なおさらだ。

やはり彼女たちは言葉だけでまったくそういったものができていない。




そんな彼女たちがキラを侮辱した。




そのことに関して、改めて嫌悪と怒りが湧き上がる。

「よし、各員目を通したな。では自分に割り振られている機体のほうに・・・・」

「納得できませんわ!」

さっそく始めようとしたディアッカの言葉をさえぎったのは予想にたがわず、あのケイトだった。

「んだよ、何が納得できないって?」

「当然です!なぜ私たちがこの方と同じチームなのですの!?こんな負け戦と分かるものに何の意味があるというですか!!」

どうやら彼女たちは昨日ディアッカが言った「パイロットになれるかもしれない」という言葉を本気で取っているらしい。

すでにこういう常に緊張感が必要な場所でのこんな発言からして、彼女たちにパイロットたる資格はないと誰から見ても明らかなのだが。

一方アカデミー生の方も、キラを指指してディアッカに怒鳴りつけているケイトを見て、驚きを隠せずにざわざわと騒いでいる。

ザフトの上下関係は、かなり厳しいものがある。

確かに同じ艦、同じ隊に所属して同じ戦場を駆ける仲間であるならそれなりに態度を崩している者もいるが、大抵は上官や先輩に逆らうことなどまずしない。

それが赤を着ている人物ともなればなおさらだ。

「どうしてこちらはこの方一人で、そちらにはあなた達がそろっているんです?横暴です!断固、私は抗議します!」

「あ〜もう、分かった分かった。それじゃ、Aチームのケイトとこっちの3機分6人、交換な。キラ、いいな」

うるさいとばかりに手を振って黙らせると、ディアッカは数名を指名して交換を申し出た。

「別にいいけど・・・」

ふと、そのディアッカの表情を見てキラは不振な目をディアッカに向けた。




何かたくらんでいる・・・・。




直感的にそう感じたが、キラにはそれが一体何なのか、判断することはできなかった。

「この際だ、どうせならキラの方にアカデミー生全員入れるか」

「え!?」

「こいつらだってアカデミーで過ごしているから少しはチームワークあるだろうし、まとまってたほうがキラも楽だろ?」

「まぁ・・・それはそうだけど」

突発的なディアッカに、ますますわけがわからない。

でも恐らくここでキラが発言したとしても結局は却下されることが分かりきっているので何も言わない。

反論してまかり通るぐらいなら、イザークやアスランがキラと別のチームだということを了承することなどしないはずだから。

「それじゃ、それぞれ搭乗を開始。各員付き次第、順に外に出る」

そういわれて、アカデミー生とケイトたちは与えられた機体へと移動しようとするが・・・。

「ああ、言い忘れてた。この試合に負けた方はクルーゼ隊長直々に課題が出される。例外はないから残らず提出するようにということだ」

課題提出という言葉に、アカデミー生たちは騒然とする。

現役で活躍している兵士の、しかも隊長格からの課題ともなれば相当な困難な問題と量が予想される。

各々、絶対に負けるものか!という気合を入れてそのまま機体へと進んでいった。

「そういえば、おにいちゃ・・・じゃなかった、クルーゼ隊長は?」

「昨日任せてくれるって言ったからな。多分、コントロールルームぐらいから見てるんじゃないか?」

「ふ〜ん」

全員が搭乗終了したのを確認して、キラたちも自分達のMSへと移動する。

「それじゃキラ、がんばれよ」

「ほどほどにな」

「怪我しないようにね」

「負けませんからね」

アスランたちはそれぞれポンとキラの肩を激励代わりに叩きながらそれぞれ散っていった。

「みんなも無理しないでよ!」

キラは一人、ストライクの正面へと移動する。




今から、これに乗るんだ。




じっと見つめて、目を閉じる。




自分にできることを・・・・・。




目を開くと、キラはパンッと自分の両頬を叩き、気合を入れる。




「よしっ、行こう!」



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