「で、どうするんです?」

「別に、任せてくれたんだから好きにするだけさ」

それだけ言って、ディアッカはなにやらコンピュータに向かい作業を始めてしまった。

普段は誰よりも早く何か言うイザークがいまだ黙っているということは、ディアッカに逆らうのはやめた方がよさそうだ。

「やっぱり模擬戦か」

「え?」

「明日の訓練、Gとザクの模擬戦な」

「!?何を言ってるんだ!いくら訓練を受けているとはいえ、まだ無理だ!宇宙空間に出たこともないアカデミー生なんだぞ!しかも彼女たちだって・・・」

「そ、あいつらがいるから模擬戦にするの」

平然とそう告げるディアッカになにやらめまいを感じるアスランとニコル。

だがそれとは反対にイザークはディアッカが今向かっているディスプレイを覗き込む。

「で、どうするんだ?模擬戦といってもいろいろあるだろう?」

と、次の話に進める始末。

「ちょ、ちょっとディアッカ!イザークも、本当に模擬戦をするつもりですか?」

「別に問題はないだろう?アカデミー生でパイロットクラス。そりゃ宇宙に出たことなんかないかもしれないけど、シミュレーションは嫌って程やってるだろうし、いずれは出るんだ。今出てもいいだろうが」

「そういう問題じゃないだろう」

「・・・・・キラの実力を見せ付けるのは、これが一番早いんだよ」

「「え?」」

思わず聞きかえすアスランとニコルだったが、ディアッカはそれ以上何も口にすることなくもくもくと何かの作業を続ける。

こうなってはもう何も言わないだろうと考え、二人の視線は隣のイザークに集まる。

イザークも分かっているのか、その視線を受けて答えた。

「キラは確かに優秀だ。だが、ナイフ戦、銃、体術。こういうものは俺たちの方が得意だ。キラが俺たちより実力が上なのはプログラミングとMS戦。プログラミングだとあいつらは納得しないだろうから」

「模擬戦、ということですか?」

「そういうことだ」

後ろからディアッカの打ち込むデータを覗き込むと、どうやら明日の模擬戦のためのデータらしい。









次の日、キラはいつもより早い時間にたたき起こされた。

昨日は夜遅くまで考え事をしていたからちょっとだけ睡眠不足ぎみ。

「ん〜・・・もう朝?」

「あと30分でね。ちょっと用があって先にでるけど、ちゃんと起きるんだよ。いいね?」

連絡してきたのはアスラン。

いつもはキラが起きるまで通信をきらないのに。

ということはよほど急いでいるか、何かあたっということだろうか?

そんなことを考えながらキラは体を起こした。いまだ薄暗い部屋の中、ため息が漏れる。

今日、また彼女たちに会うと思うと、キラは自然と胸が重くなるのを感じた。

昨日クルーゼと話して大分気が楽になったとはいえ、根本的な解決をしたわけではない。



それに・・、もう一つ。



「謝らなきゃ・・・ね」



ディアッカに。

アスランやイザーク、ニコルたちにも・・・・。
















「おい、本当にザク借りるのか?」

「当たり前だろ。じゃなきゃどうやってやるんだよ」

「上の許可も取りましたし、使うのは実弾ではありません。僕達が使っていたペナント銃、まだあったんですね」

ディアッカたちの居るこの格納庫には彼らの機体の他に約10台のザクが並べられていた。

といっても、このザクは軍使用のものを改良してつくられたアカデミー用のザク。

その証拠に、通常1機に1席しかないコックピットだが、このザクには操縦席のほかにもう1席設けられている。

アカデミー生にはまだ戦闘用ザクの使用許可は下りないけれど、10台演習用のザクを確保することができた。

「で、チーム分けはできたんだな?」

「おう、これだ」

ディアッカが見せたのは14人のアカデミー生と、6名の知らない名前。

登録済みになっていたアカデミー生以外の名前ということは・・・

「これが昨日のやつらか?」

「そういうこと。このケイトってやつがこの6人のリーダーみたいな感じだな。気位高くて、こいつと付き合うと苦労するぞ」

「・・・ということは、お前こんなやつにも手をだしたのか」

「俺が?出すわけないじゃん。ただ誘われたから誘いに乗っただけ」

自分から彼女に声をかけたわけじゃない、と言い訳をするが、それでも結果としては同じなような・・・。

「でも、これってやりすぎじゃないか?」

メンバー表のチーム分けを見たアスランが眉を寄せる。

その言葉にニコルとイザークもその紙を覗くが、そのあまりに大胆なチーム構成に度肝を抜かしてしまった。



ケイトを初めとする昨日の6人とアカデミー生4人、ザクにすると5機はAチーム。

残りのアカデミー生10人、ザクにすると5機はBチーム。



それはいいのだ。

ただ、それに配置されるリーダー格となるアスランたちの配属が問題。



キラはAチーム。

残りディアッカ・イザーク・アスラン・ニコルはBチーム。



見た目、圧倒的にAチームが不利だ。

「キラの実力考えりゃ、これぐらいが上等だろう。本当はアカデミー生全部こっちにつけようと思ったぐらいだぜ、俺は」

「キラの実力を考えると・・・か」

「そういうこと」

実際に4対1で戦闘した経験はないが、2対1、1対1ではキラは誰にも負けたことがなかった。

アスラン・イザークが二人組んだある意味最強を意味するチームでも、キラのストライク1機に勝てたためしはない。

まぁ、それはイザークとアスランのチームワークの悪さもあるのだが・・・。

「とにかく、今日はこれでいくぜ。・・・そういや、キラは?」

「とりあえず起こしてきたからもう少しでくるだろう。一応、起きなかったときのために目覚まし用のハロは昨日のうちに渡してある」

「なら問題ないな」

今日の打ち合わせを済ませると、4人はそれぞれ自分が担当するエリアの最終確認へと散った。











案の定、少しだけ寝過ごしたのをハロに起こされ、キラは慌てて着替えてアスランたちの姿を探した。

パイロット用の更衣室に行っても誰の姿もなかった。

どうしようかと思いつつ自分のロッカーを開けると、そこにはディアッカの字でメッセージがおいてあった。




『やっと来たか、寝ぼすけ。着替えたら格納庫に来てくれ、今日のことの説明するから』




ただそれだけ書いてあった。

いつものディアッカらしい言葉に、思わず笑みが漏れる。

昨日のことで絶対に怒っていると思い込んでいたから、こんな些細な言葉でさえ今のキラにはとても嬉しい。

だからこそ、ちゃんと謝りたい。

そして、これからも彼らと一緒に平和への道を歩みたい・・・・・。





「あら、まだこんなところに居ましたの?」

着替え終わって格納庫へ行こうとしたとき、何人かがこの更衣室へと入ってきた。

それは昨日の6人で。

言葉を発したのは昨日と同じくリーダー格のケイトだった。

「他の皆様は朝から忙しく格納庫にいらしてましたのに、あなたは何もしませんのね」

どうせなにもできないのに、とあからさまに表情に出してケイトは嫌味たっぷりに言った。

「・・・・ここはパイロット専用だよ。君たちはなぜここに?」

「今日の参加をクルーゼ隊長が認めてくださったのですわ。あら、そんなことまでお聞きになっていないんですの?」

その言葉にケイトの後ろの5人もくすくすと笑う。

「・・・・僕、行かなきゃいけないから」




相手にしない。

何も考えない。

そう自分に言い聞かせて、キラは出て行こうとした。






「いい加減、自分の立場を理解しなさい。あなたなんか、あの場所にふさわしくないのよ」







扉が閉まる瞬間、言われた言葉。

胸が苦しく、体が震える。

気にしない、気にしなければいい。

みんなの言葉を、クルーゼの言葉を、・・・・・・・・ディアッカの言葉を、今は信じればいい。









「・・・・ラ、おい、キラ!キラってば!」

ぐいっと引かれた腕に、キラはうつむいていた顔をはっと上げた。

そこにはキラと同じくパイロットスーツに身を包んだディアッカの姿があった。

「どこ行くつもりだよ、格納庫はこっち・・・・」

「・・・・・ディアッカ・・・・・・?」

ぼんやりと見上げてくるキラに、ディアッカは眉を寄せる。

「また、何かあったか?」

「・・・・・・・・・・」





言葉はない。

だが、まるで抑えていたものが外れたように、キラは涙を流し始めた。

何も言わず。

泣き声も上げず。

それでもキラはディアッカを見て泣きだした。




「ああ、もう・・・分かったから。・・・・・無理すんなよ」

掴まれていた腕を引かれ、そのままディアッカの胸に顔をうずめる。

慰めるように背中をさすられ、抱き寄せられるままにディアッカにしがみついた。




信じていればいい。

自分ができることを、がんばればいい。

他の人にどう思われようと、気にしなければいい。

そんなこと、分かっていても、どうしてもやるせない想いが溢れてくる。




強く、ならなくちゃいけないのに・・・・




「ごめ・・・、もう、平気・・・」

「本当だろうな?」

「うん」

怪しむように見られて微笑むと、ようやくディアッカも納得したように笑う。

「よし、んじゃ今日の説明するから。そろそろあいつらも終わったころだろうし」

「ごめんね。僕、何もお手伝いできなかった」

「気にしなくていいって。キラにはちゃんとあとで働いてもらうからさ」

「?・・・うん」

ディアッカの言葉に首をかしげつつ、キラはアスランたちの下へと向かった。



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