暗い話題を故意に明るい話題で塗り替えるているかのような、内容の無いニュースの放送に、アスランは早々に飽きてしまった。
けれど、隣で同じようにモニターに視線を向けているイザークにはそうでもないようで、アイスブルーの瞳は静かに画面を捉えていた。
何となく放って置かれている様な気分が気に入らなかったけれど、子供っぽく邪魔をする気にはなれなくて、気分を変えるために席を立った。
とりあえず飲み物でも淹れてきて、イザークの気を惹くのがいいかもしれない。
アスランは自分用にコーヒーを、イザーク用に紅茶を用意して席へと戻った。
それをイザークの前においたが、イザークはそれをちらりと見ただけですぐに画面に視線を戻してしまった。
少しつまらないと思うアスランだが、こういうときに下手に邪魔をしてしまうと怒って手が付けられなくなってしまう。
しかたなく、アスランもまたイザークの隣に腰掛けてコーヒーを啜った。
しばらくして、ようやくニュースが終わった。
イザークも満足したように伸びをすると、アスランが入れてくれた少し冷めてしまった紅茶を口に含む。
「やはり、戦争はまだ終わりそうにないな・・・」
「確かにね」
ポフッと肩に頭を預けてくるイザークの髪を指で梳く。
それが気持ちいみたいで、ゆっくりと目を閉じた。
さらさらと指を滑る銀糸を掬い上げて、冷たい感触に軽く口づける。
紅茶がお気に召したのか、イザークの表情を覗き込むと随分と機嫌いいのが分かった。
そっと伏せられる長い銀糸の睫毛に了承の証しを見て、誘われるように口付ける。
薄い唇はさらさらとしていて気持ちがいい。
「ね、イザーク」
「・・・何だ」
ほんの少し口付けただけで、息が上がってしまったらしいイザークに、アスランは薄っすらと目を細めて見せた。
「明日は訓練ないからいいよね?」
「え・・・・・」
言葉の意味を理解したのか、イザークの顔に紅が走る。
少しの間視線をさまよわせたあと、イザークは俯いたままコクリとうなづいた。
アスランはにっこり笑うと、もう一度イザークの額に口付けると、その見かけよりも細く軽い体を抱き上げた。
イザークは抵抗するわけでもなく、アスランの首に腕を回してだきついた。
ゆっくりとベッドにおろすと、もう一度深く口付ける。
「ん・・・・」
「イザ・・・好きだよ」
「あ・・・、俺も・・・好き・・・」
「うん」
そのまま、少しずつ唇を移動させ、首筋を舐める。
と、くつろげた首筋に小さな赤い点があるところに気づいた。
「コレ・・・」
一瞬、自分の見たものが信じられなくて、アスランは何度か瞬きを繰り返す。
こんな目に付きやすい場所に跡を残した覚えは、アスランには無かった。
誰かに見られたら困ると、イザークが酷く嫌がるから、特に気をつけていたのだから間違いは無い。
「アスラン?」
首筋を見つめたまま動かないアスランを訝しく思ったのだろう、イザークから不思議そうな声をかけられて、息を詰めた。
イザークはこの跡に気付いてないのだろうか。
「・・・イザーク、コレ、何?」
「ぇ、?」
その場所にアスランが触れた。
イザークはなんのことか分からないという風にアスランを見つめかえす。
が、アスランの瞳が少しずつ細められていく。
それが、なんだかわからないけど、怖かった。
「アスラン?」
「イザーク・・・・これ、キスマーク?」
「え?」
アスランが触れている部分に手を添えるが、もちろん手で触ったぐらいでそんなものが分かるはずがなかった。
「これ、どうしたの?僕はつけてない・・・。それじゃ、誰がつけたの?誰につけてもらったの?」
「ア、アスラン?なにを・・・」
明らかに怯えているイザークを冷ややかに見下ろしたアスランは、イザークが着ている服を引き裂くような勢いで脱がせた。
「や・・・アスラン!!」
上着を腕に引っ掛けるようにして、イザークの両腕を捕らえて押さえつける。
「俺じゃなくても、誰だっていいんだ?」
「そんなわけっ・・・!」
身に覚えの無い事を言われて、ただ混乱しているところを力づくで押さえつけられて、酷い言葉をぶつけられて、イザークは目頭が熱くなるのを感じた。
零れそうになる涙を堪えようと、強く目を閉じるイザークに気付かないふりをして、アスランは細い首筋に噛み付いた。
「痛っ」
「じゃぁどうしてこんなものが付いてるんだよ!!」
「し、知らない!俺は・・・っ!」
お前以外の誰ともしていない!と答えたかったのに、涙で言葉を詰まらせた。
どうして、アスランは自分を信じてくれないのだろうか。
こんなこと、アスラン以外の人とするなんて、考えられないというのに。
ぎゅっと目を閉じながら涙を流すイザークを上目で見ながら、赤くなった部分に自分の痕をつける。
唇を離せば、そこにはくっきりと、先ほどよりも赤い痕が付けられていた。
いつも、こんなところにキスマークをつけないのに。
つけたことなんかなかったのに。
これをつけた相手が、憎い。
そして、それを許した、イザークも・・・。
今まで何度か嫌がるイザークを騙すように宥めすかして、強引に抱いた事はあったけれど、無理に抱いた事は無かった。
それだけアスランはイザークを大事にしていたし、これからもそうしていくつもりだった。
なのに、こんな酷い裏切り。
首筋の他にも、忌々しい痕はないかと、くまなく肌を探る。
「あっ・・・」
吸い付くような肌の上を辿り、胸の敏感な部分に触れるのに、イザークは思わず声を洩らした。
ソファに押し付けられた苦しい体勢で、快感を与えられて、息が苦しい。
「ここは、何もされていない?」
そういうと、指でつまむようにして胸の飾りを探る。
「ふぁっ!」
「答えて、イザーク。ここは何もされなかった?」
「されるわけな・・・い!も・・・やめ・・・っ」
「まだだよ」
アスランはもう一つの飾りを口に含むと、舌で全体を愛撫するように動かした。
慣れている感覚のはずなのに、今日はいつもと何かが違う。
気持ちがいいけど・・・怖い。
いつものアスランじゃない、と思うのと、アスランに信じてもらえないという事実が、イザークに重くのしかかっていた。
ふと、胸から頭を上げると、おもむろにイザークの両足を大きく左右に開いた。
「っ!?」
「ここは、何もされていないんだろうね?」
そういうと、まだ濡らしてもいない指を無理やり奥へと差し込む。
「・・・ぁっ!!」
滑りも無く押し入れられた痛みで、視界が白く焼ける。
イザークの掠れた悲鳴は確かに聞こえたはずなのに、アスランは眉一つ動かさずに、狭い部分を指で押し広げた。
「っ痛、い・・・ァス、ラ・・・」
苦痛を訴える声を聞き届けた、というよりも、思うように動かせない事に焦れたのか、イザークの中から指が引き抜かれる。
その事にイザークが息をつく暇も無く、代わりにぬるりと温かい感触が触れた。
「ぁ・・・っ、アス・・・・」
舌で唾液を注ぎ込まれ、再び指が忍び込んできた。
滑りを得た指が中を探り、粘膜が撫で上げられるのに、イザークの身体が小さく跳ねた。
その反応に気を良くしたのか、アスランは更に指を増やす。
何度も抱かれてきたため、慣らされた体はすぐに指を飲み込む。
気がつけば、3本もの指が中を動きまわっていた。
「ふぁ・・・、やめっ・・・・ぁあ!」
ソファの布をギュッと握り締めて、押し寄せてくる快楽の波に耐える。
もういいと判断したのか、アスランはいきなり指を全て中から抜いた。
急に圧迫感が消えて、ほっと息をついて力を抜いた。
しかし、すぐに何か熱いものが入り口に押し付けられる。
「アスっ!?や・・まだ・・・・っ」
「力、抜かないと怪我するよ」
いつもの、イザークを気遣ってくれるアスランの姿など、どこにもなかった。
アスランはイザークの体が逃げないように押さえつけると、一気に最奥まで腰を進めた。
「っぁぁああああああああああ」
あまりの苦しさと圧迫感に、イザークは悲鳴に近い声を上げる。
普段なら、イザークが慣れるまでじっと我慢してくれるのに、今日はひたすらにイザークを求めた。
イザーク自身を見ることは、せずに。
侵入してきた熱に、イザークの身体が跳ねた。
圧迫感と苦痛にから逃れようと震えて逃れようとするイザークを、アスランは強引に捻じ伏せ、腰を推し進める。
乱暴な動きで根元まで飲み込まされたイザークは、呼吸も出来ないほど追い詰められ、見開いた瞳から涙を溢れさせた。
「あ・・・はぁっ、ひ、ぁっ・・・・」
どうして、こんな扱いを受けなければならないのか。
止め処なく頬を伝う涙が悔しくて、堪らなかった。
「アス、ラ・・・も、嫌・・・」
こんなのは嫌だと、イザークが訴えるのに、けれどアスランは暗く笑っただけだった。
「アス・・・ラ・・・」
イザークは涙を流しながら、それでも必死にアスランへと腕を伸ばした。
せめて、アスランを側で感じていたかったから。
だが、そんなイザークの気持ちは、一瞬にして砕かれた。
そのイザークが必死に伸ばした腕を、アスランが払うという行為によって。
「どう・・・して・・・」
「僕じゃなくてもいいんでしょう?だったら、こんなことしなくてもいいじゃない」
「ちが・・・俺は、おま・・え、以外のやつなんか・・・」
「だったら、なんだってあんなものつけていたのさ。見せ付けたかったんだろう?俺にも許してくれなかったもんな、ここへ跡を残すのは」
そういって、もう一度首筋のキスマークに唇を落とす。
すっかり敏感になってしまっているイザークは体をびくびくと震わせながら、涙をこぼした。
「どう・・したら、信じて・・・」
「そうだね。イザークが僕を愛しているって行動で示してくれたらね」
そういうと、アスランはおもむろにイザークの中に入れていたものを一気に引き抜いた。
「ひぁ!」
だらりと脱力したイザークの身体を見下ろして、アスランは口元に笑みを刷く。
血の気のひいた顔を強引に上げさせて、暗い翡翠の瞳で滲んだ蒼氷の瞳と視線を合わせると、イザークの身体が小さく震えた。
息をするのも辛そうにするイザークの髪を、アスランは微笑んだままそっと梳いて、耳元へ吐息混じりに告げた。
「・・・できるよね?」
その声に操られるように、イザークは力の抜けた膝をつき、勃ち上がったアスランへと顔を近づけた。
腕を捕らわれたままの不自由な姿勢で、懸命に奉仕をしようと、顔を埋める。
アスランだけなのだと。
首筋に付いていたという跡は、誤解なのだとわかってもらえるなら、何だってできた。
「ん、・・・ふっ」
躊躇いも無く口付けて、薄い唇で深く咥える。
ぎこちない舌使いで舐め上げると、口の中でアスランが反応して、それが嬉しかった。
けれど暫くするうちに、たどたどしい動きに焦れたのか、アスランに髪を掴まれ、喉の奥まで強引に押し入れられる。
「ぐ、ぅっ!!」
込み上げてくる吐き気に耐えながらも、前後に揺さぶられる動きにあわせて、唇を窄める。
飲みきれない唾液と、アスランから滲む先走りが顎を伝って落ちるのが、気持ち悪かった。
「んっ、んんっ・・・うっ」
口内を隅々までアスランに犯されて、イザークが限界だと呻き声を上げるのに、漸くアスランは髪から手を離した。
唐突に熱を引き抜かれて、酷使した顎がだるいと思う暇も無く、腕を掴まれ、身体を引き起こされた。
急に視界が変わった、と思った。
気がついたら、イザークはアスランにぎゅっと抱きしめられていた。
「アス?」
「ごめんね・・・イザーク」
「え?」
先ほどとはまったく違う、いつもの優しいアスランだった。
力強い腕でイザークを抱きしめ、優しく髪を梳いてくれる。
体を重ねるときに、いつもアスランがしてくれること。
「・・・・アス・・・・ラ・・」
「イザーク・・・ごめん」
「あやまるぐらい・・・なら・・・・」
「うん・・・ひどいこと、した」
涙があふれた。
怖かったという気持ち。
痛い、苦しかった気持ち。
そして、アスランに嫌われたくないという気持ち。
すべてが入り混じって、何がなんだかわからなくなって。
イザークは、アスランに抱きついてひたすら泣いた。
それを、アスランも黙って受け止めてくれた。
しばらくしてようやく泣き止むと、ふとアスランが首もとの、この行為の原因だったところに指を這わす。
途端、イザークの体が大きく跳ねる。
また、先ほどの行為が繰り返されるかもしれないという不安がよぎる。
「これ、本当に知らないの?」
「・・・知らない。そんなのがあったのも、知らなかったし・・・」
「そっか・・・。ごめんね、許してくれる?」
「話ぐらい、ちゃんと聞けよな・・・」
アスランを非難するのではなく、信じてもらえなくて悲しかったのだと、蒼氷の瞳を滲ませるイザークの額に、柔らかく口付けを落とす。
こんなことで許してもらえるわけじゃないと、分かっているけれど、アスランは何度も繰り返し謝りながら、啄ばむように口付けた。
「コレ、もしかしたら、どこかでぶつけたりした?」
まだ濡れているイザークの目許を拭いながら、アスランが問いかけると、イザークは何度か瞬きを繰り返して、小さく声を洩らした。
「ぁ、」
「うん?」
「もしかしたら、夕方のジムで・・・」
機材に引っかかったから、それかもしれない。
そうイザークが告げるのに、アスランは目を見開いて、それからもう一度頭を下げた。
「ごめん!!ごめんね、イザーク・・・」
何度目になるか判らないアスランからの謝罪に、イザークの瞳が再び潤んだ。
「・・・・・・ぅ、俺の・・・」
そして詰まりながらも言葉を紡ぐのを、アスランは銀糸の髪を梳いてやりながら、静かに聞いた。
「うん」
「・・・もう、俺のこと・・・疑わない?」
震える声に強く頷いて、アスランはイザークに口付けた。
そっと唇を離すと、零れている涙を唇でそっとぬぐった。
「全てのものと、イザークへの気持ちにかけて、誓うよ」
「ほんとう・・に?」
「ああ、本当に」
にっこり笑うと、ようやくイザークもほっとしたかのように微笑んでくれた。
ぎゅっとアスランの首に腕を回して抱きつく。
「・・・・・だから」
「え?」
「俺がすきなのは、アスランだけだから・・・、だから・・・・」
「うん、分かってる」
そのままアスランはぎゅっとイザークを抱きしめた。
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