結果、両方ともにかなりの苦戦をしいられたものの、タイムアップの結果キラのチームに軍配が上がった。 アカデミー生率いるキラのチームで生き残ったMSはキラをあわせて5機。 逆にディアッカたちのチームは赤の4人以外の、つまりケイトたちのザクはすべてキラのチームのアカデミー生の手によって堕とされてしまったからだ。 勝利に喜ぶチームメイトを横目に、キラだけが難しい表情で格納庫へストライク収納の指示に従った。
「おつかれ」 「おつかれさまでした」 「ま、とりあえずは思惑通りに進んだな」 バスターから降りたディアッカを待っていたのは、先に収納されていた機体から降りたアスランたち。 ディアッカも深く息を吐き出して、にやりと笑った。 「ま、これでキラの実力をとやかく言う奴らなんていないだろ。・・・にしても、あいつの実力底なしか?」 ディアッカたちとて、決して手を抜いていたわけじゃない。 それなのに、キラはともかくアカデミー生のザクでさえ数機しか落とせなかったのだ。 攻撃を繰り返したが、その攻撃のほとんどをキラが防御し、逆にザクに攻撃を仕掛けられる始末。 間一髪で避けた攻撃も少なくはないし、それこそチームの誰かを気遣っている余裕も途中でなくなってしまった。 もちろん、ケイトたちのザクを庇うわけもなく、彼女たちはキラのチームのザクにあっけなくも落とされてしまった。 「これで、しばらくは面倒ごともないだろうし。結果オーライってね」 「ま、そういうことですね」 「ディアッカにしては、上出来だ」 「あとは・・・・」
「おつかれさま」
4人の元にストライクの収納を終えたキラが戻ってきた。 「おう、おつかれ」 「キラ、おつかれさま。大丈夫だった?」 「怪我とかしませんでした?」 「大変だったが、よくやったな」 賛美の声をかけてくれるアスランたちに微笑みながら、キラはディアッカの前に立った。 「ん?キラ、どうし・・・・!?」
パーン!
渇いた音が格納庫内に響き渡る。 キラが、ディアッカの頬を思い切り叩いたのだ。 「き、キラ?」 驚いたアスランがキラを見れば、キラはディアッカの頬を叩いた手をそのままに目に涙を浮かべていた。 対するディアッカはそうされるのは覚悟の上だとばかりに、そのままキラを見つめる。 「なんで・・・こんなこと、したの?」 「理由はねぇよ。ただ、こうすることが一番よかったんだ」 「何が・・・・・・・なにが・・、よか・・・て・・・・いう・・・・・ぅ・・・・・・・」 「キラ」 涙を流すキラを、ディアッカはそっと胸に抱きしめた。 「み・・なに・・・、敵じゃ・・・ないのに・・・・。戦いたく・・・・ないのに・・・・・」 キラの言葉に、アスランたちははっとした。 ディアッカだけは、わかっているとばかりにキラの背中を撫で、髪を梳いた。 キラのためにと思って、今回ディアッカの作戦に乗った。 だが、キラは有能なパイロットではあるが、決して戦いが好きなわけじゃない。 むしろ、人を傷つけることを極端に嫌う。それでも誰かを守れるならと、パイロットというキラにはもっとも過酷な仕事を引き受けている。 だから、大切な人を傷つけたくないというキラに、今回の模擬戦はキラの心を傷つける以外の何者でもなかったのだ。 「悪かった・・・。だから、もう泣くな。俺たちが敵になるなんて、ありえないから」 「ぅぅ・・・・・うぁあああああああああ」 静まる格納庫の中、キラの泣き声だけがいつまでも響いていた・・・。
「で、あのあとあの女たちはどうなんだ?」 「どうもしないよ。ただ、キラに接触してくることはもうないみたいだぜ」 あれから1週間。 あれほどつらくあたってきていたケイトたちは、模擬戦があったときから1度もキラの、そして自分達の目の前に現れることはなかった。 まぁあれだけ自分達との実力の差をみせつけられて反論できるものなら聞いてみたいものだが。
「あ、みんなここにいたんだ」
先程から姿が見えないと思っていたキラがなにやら分厚いファイルを4冊持って戻ってきた。 「どうしたんだ?それ」 「みんなの分だよ。1冊ずつとって」 そういって手渡されたファイルをパラパラとひらく。 そこにはプログラム解析や戦闘術の基本問題が・・・・優に50ページ続いていた。 「キラさん・・これは?」 「この間の模擬戦での敗者チームに出される課題だよv」 嬉しそうににっこりと笑うキラに何か怖い物を感じながら、キラはいった。 「敗者チームにって、あれは別にあの時言っただけでな・・・」 「お兄ちゃんまだ作ってないっていってたから、僕が作らせてもらったの。提出期限は明日までだって」 「あ、明日ぁ!?」 この問題量をか!? 4人はそれを聞いて目を見張る。 内容はキラが考えたというだけあってかなり困難な問題ばかり。 それを明日までに仕上げろというのか・・・・・。 「例外はなしってディアッカが言ったんだよ?」 「で、でもこれを彼女たちにもというのは・・・」 「ああ、彼女たちは別の問題だよ。これはパイロット専用の問題集になっているから。彼女たちオペレーターだし、そっちはおにいちゃんが作ったんだ」 しっかり計画されていることに、なにやらキラの意趣返しが思い浮かぶ。 「それじゃ、がんばってね。僕はこれからお兄ちゃんと食事に行くから。この間のご褒美だってあのときのみんなも一緒なんだ」 そういって楽しそうに出て行くキラを見つめながら、4人は盛大なため息をついた。 |