キラサイド

今日は久しぶりの休日。

なので、キラは今日はデートの約束だ。

だが、もうすぐ約束の時間だというのにキラはまだ自室にいた。

その理由は・・・。

「うわ〜ん、何着て行こうかな〜」

普段軍服以外着る機会がないため、こういうときは非常に困る。だが、街へ出るのに軍服を着るのは目立ちすぎるし、相手からも私服で来るようにとの伝言が届いている。

「っていってもさ〜」

キラはベッドの上にいくつかの服を広げていた。

これは全て、プラントにいる母から届いたものだ。

たまには女の子らしい服を着なさいということで送られてきた服だが、どれもこれもスカートやらフリルつきのブラウスやらばかり。

はっきりいって、キラが着慣れないものばかりあるのだ。

「アスラン達に何か服借りようかなぁ」

といっても、みんなキラより大きいので合う服を持っているはずもなく。

「しかたない、これで我慢しよう」

といって、キラが手に取ったのはその中でも一番シンプルなロングスカートのワンピース。タンクトップ型なので上に薄い白のカーディガンを合わせる。

着替え終わって時計を見ると、すでに時間は約束の時間30分前になっていた。

「嘘、もうこんな時間!」

キラはあわてて部屋を飛び出した。

「うわっ!」

「きゃっ!」

扉の前にはアスランがいた。

急には止まれず、キラは勢いあまってアスランを押し倒してしまった。

そのせいで、アスランは頭を床に打ってしまったようだ。

「っっつ〜」

「ごめん、大丈夫アスラン?」

「あ、大丈夫・・・・」

といいながら顔を上げたアスランが、自分を見て急に固まってしまった。

やっぱり、変なのかなこの格好。

みると、アスランだけでなく、周りにいたイザーク、ニコル、ディアッカまでもが同様に固まっている。

「アスラン?」

「あ、ああ。なんだい?キラ」

「なにって、手を離して欲しいんだけど」

転んだ拍子にとっさに支えてくれたのはよかったのだが、アスランはキラの腕を掴んだまま固まってしまったために、キラは身動きがとれなかった。

「あ、ごめん」

「ううん。アスランこそ怪我はない?」

「僕は大丈夫だよ。でもキラ、どこか行くの?」

「あ、そうだった!もうこんな時間!じゃ、みんな行ってくるね」

アスランにぶつかったためにずいぶん時間をロスしてしまった。

走ったら間に合うだろうか。

 

 

待ち合わせの場所を見回すと、そこにはもうすでに相手が来ていた。

約束の時間からはもう10分立ってしまっている。

キラは走って近づくとすぐに相手に頭を下げた。

「ごめんなさい!遅れちゃった」

「いや、それはかまわないが、大丈夫か?」

肩で息をしているキラを心配そうに見る。

「うん。お兄ちゃんは仕事大丈夫なの?」

「ああ、今のところは終わった。後でまた出向かなければならないことになっているがな」

「そう」

キラが待ち合わせをしていた相手はクルーゼ隊長。キラの兄だ。

だが、クルーゼもまた街中ということで軍服は着ておらず、シンプルな皮のジャケットにパンツという、一般的な格好をしていた。

容姿に合いすぎて、逆に目立っていると言ってもよかったが。

「それじゃ、行くか」

「うん」

そう返事をすると、キラはクルーゼの腕に自分の腕を絡ませた。

クルーゼも対して嫌そうな素振りも見せずにそのまま歩き出す。

「その服はヤマトさんからか?」

「そう、ヤマトの母様が送ってくれたものなんだけど、似合ってる?」

「ああ。よく似合っているよ」

「よかった」

クルーゼの感想にほっとしたのか、キラはにっこりとクルーゼに笑いかけた。

それから二人が向かった先は少し大きめの雑貨店。

今回街へきたのも、この店にあるものを買いに来たからだ。

そのままキラとクルーゼは迷うことなく誕生石のコーナーへと足を運ぶ。

この雑貨店のメインとして売り出している売り場なので、多くの人が取り囲んでいる。

彼氏にプレゼントをねだるものや、友人同士でなにやら相談して買おうとしている人。いろいろだった。

だが、やはりこういうものに興味がないのか、はしゃいでいるのは女達だけだった。

一緒にいる彼氏は、早く終わってくれという感じの表情をしている。

「今日買うものは決めてきたのか?」

「もちろん。えっと、サードニクス、アクアマリン、トルマリン、ブラッド・ストーン」

キラが読み上げていくものと同じものをクルーゼが形のよいものを選び手に取っていく。

「それだけか?」

「うん。あとはこれを加工してもらって」

一緒に売り出しているペンダントの鎖を選ぶ。

なるべく軽く、丈夫なものをと並べてあるもの一つ一つ手にとって見る。

「お嬢さん、その石をペンダントにするのかい?」

向かいのカウンターにいた店員がキラに話しかけてきた。

「はい、そうなんです。お願いできますか?」

「おうよ。彼氏へのプレゼントかい?」

「いえ、彼氏じゃないんですけど・・・・。友達なんです」

「名前も一緒に彫って上げられるよ。なんて名前だい?」

「いいんですか?えっと・・・・・」

キラは一つ一つの石を差し出しながらそれに刻み込んでもらう名前を言っていった。

店員はキラからの言葉どおりにペンダントを仕上げていった。

4つも頼んだのに、あっというまにペンダントは仕上がってしまった。

「すご〜い」

「どんなもんよ。で、見たところ君のはないみたいだけど、作らないのかい?」

「あ、私は自分のがありますから」

「そうかい。後ろの兄ちゃんにはいいのかい?」

「私もあるからな」

「2人は兄弟か?」

「はい」

「仲いいんだな。よし、おまけだ。これもやるよ」

といって店員がくれたのは、小さな蒼い石がついたピアス。

「これは俺のオリジナルなんだけどな。売りもんじゃないから価値もないけど、もらってくれ」

「ありがとうv」

キラがにっこりと笑って御礼を言うと、店員も照れたように笑い返してくれた。

「ペンダントの会計はあっちですましてくれ。誰かへのプレゼントみたいだから包装もしておいた」

「うん。本当にありがとう、お兄さん」

「キラ、私は外で待っているから会計を済ませたら出てきなさい」

「はい」

元気に返事をすると、キラは会計所のところへと向かった。

キラの姿が見えなくなると、クルーゼは店員に向き直った。

「本当によかったのか?」

「ああ、あれか。あれは、死んだ妹のためにつくったもんだったからな。あの子、少し面影が似ていたんだ。悪かったな、押し付けたみたいになっちまって」

「いや、あれも喜んでいたしな」

「このことはいわないでくれよ。せっかく喜んでいるのに水差しちまうから」

「わかっている。ありがとう」

つぶやくようにお礼を言うと、クルーゼは店の外へと出た。

 

キラが会計を済ませ店の外にでると、そこにはクルーゼの姿がなかった。

「あれ?」

キョロキョロと回りを見回すが、やはり姿を確認することはできない。

どこにいったのだろうと探しているときに、いきなり後ろから肩を掴まれた。

はっと振り向くとそこにはにやにやと笑いを浮かべている数人の男が立っていた。

「かわいいねぇ、一人ならつきあわねぇ?」

そういって、キラの体をベタベタと触ってくる。

「ちょ、離してください!」

「いいじゃんか、ちょっとくらい付き合ってくれても」

「僕は人と一緒に来ているんです。あなた達と遊んでいる暇はありません!」

「でも今は一人じゃないか。どうせすっぽかされたんだろう?」

「そんなんじゃっ」

「現にこうなっていても誰も来ないじゃないか」

「・・・・っ」

どうして初対面のこんな人たちにこんなことを言われなければならないのか。

キラは掴まれていた手を思い切り振り、腕を解放させるとそのままの勢いで正面にいる男性の頬を思い切り叩いた。

これでもキラは軍人だ。力の配分には自信がある。

相手が呆然としている隙に、キラは輪の中からはいでるようにして逃げ出す。

「この女〜!手加減していればいい気になりやがってっ」

と叫びながら、相手はキラを追いかけてくる。

いつもの軍服なら逃げられたのかもしれないが、今日はロングスカートをはいているため、スカートが足に絡まってうまく走れない。

やっぱり、こんな服着るんじゃなかった。

そう後悔しても後の祭り。

男達はすぐにキラにおいついてしまう。

だめ、つかまる!

そう思ったとき、キラと男達との間に、誰かが割り込んで男達を蹴散らした。

「え?」

「キラ、大丈夫か?」

「平気ですか?」

「もう大丈夫だからな」

「ったく、キラを襲うなんて馬鹿なこと考えたな」

キラを背後にかばうようにして立ったアスラン達にキラは驚いた。

なんでみんながここにいるの?

と聞きたかったが、追いかけてきた男達がそのまま気絶してくれるわけではなく、アスラン達はその男達の相手をするのに忙しいようだ。

キラはアスラン達の方に注意を向けすぎて、背後から迫っている男に気づくのが遅れた。

「この女が〜っ」

「・・・・っや・・・・っ!」

「キラ!」

殴られる!

と、そう思ったとき、ふっと体が軽くなった。そして

「ぐぁっ」

という悲鳴が聞こえてきた。

そろそろと閉じていた目を開くと、目の前にはクルーゼの金髪があった。

「あ・・・・」

「大丈夫か?

キラを抱えたまま、クルーゼは相手を昏倒させていた。

「うん」

キラはホッとしてクルーゼの首に腕を回すとギュッとしがみついた。

キラを抱き返すと、クルーゼは気を失ってしまった男の腹部を思い切り蹴飛ばした。

意識を取り戻した男はもう一度立ち向かおうとしたらしいが、クルーゼを見たとたんに恐怖で後ずさる。

「二度とここへは、そして私達の前には現れるな。でないと、容赦はしない」

男達は蜘蛛の子を散らすような勢いで去っていった。

それを見たキラはこわばっていたからだの力を抜いてクルーゼに体重を預けた。




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