「キラ、大丈夫か?」

「なんともありません?」

「まったく、もっと痛めつけておけばよかった」

「ま、無事でなによりだよな」

キラは青年にしがみついたままの格好でアスラン達を見た。

いまだに震えているようだが、めだった怪我なども特にはないようだ。

 

「ありがとう、みんな。でも、なんでここにいるの?」

もっともな質問。

まさか、後をつけてきたなどとはいえなかった。

以前クルーゼ隊長とキラの関係を調べるために後をつけて、キラを怒らせたあげく、もうしないと約束したばかりだったのだ。

また同じことをしたとばれたら、今度こそ本当に許してもらえないかもしれない。

「ぐ、偶然通りかかったんですよ。ね?」

「あ、ああ。そしたらキラの悲鳴が聞こえたものだから」

「そうそう」

「それより、キラ。この人は?」

キラの知り合いらしいし、なにより今キラを助けてくれた人なのだ。

雰囲気からも、なぜか『こいつ』ということはできなかった。

青年の正体が分からないアスラン達に、キラは驚き、次の瞬間吹きだしてくすくす笑いはじめた。

「誰って、みんなよく知っているじゃないか」

「え?」

そういわれて、アスラン達はキラの横に立っている青年を再度見上げた。

肩より少し長めの金髪。

年は20代後半か。

目には小さなサングラスをしている。

見覚えがあるといえば、ある。

だが、一体どこでだっただろうか・・・・。

「みんな、本当に分からないの?」

キラも少しあきれ気味。

「キラ、私はこれから用事がある。ヴェサリウスへはアスラン達と帰りなさい」

「あ、うん。でも、用事って?」

「たいしたことはない。今日中には帰れるさ」

「わかった。でも、気をつけてね」

「わかっている」

青年はくしゃりとキラの頭を撫でると、そのまま向こうに歩いていってしまった。

そのまま雑踏の中へまぎれてしまう。

「じゃ、私達も帰ろっか」

「あ、ああ」

結局、今の時点ではあの人物が誰なのかは、アスラン達には分からなかった。

 

 

ヴェサリウスへ戻ると、キラはすぐに来ていたワンピースから赤服へと着替えてしまった。

いつも来ているこの服も確かにキラに似合っているが、せっかく久しぶりに見た私服なのだからもう少し着ていて欲しかった。

「それじゃ、艦内にでられないでしょう」

今5人がいるのはGパイロット専用の休憩室。

ヴェサリウス内は基本的に制服、整備服での行動が義務付けられているため私服では自室から出ることができないのだ。

「まぁそうだけどさ」

「というか、あの服はどうしたんだ?持っていたのか?」

「ヤマトの母様が送ってくれたの。いつも軍服じゃなくて、たまにはこういう格好もしなさいって。でも、あれ動きにくいしなぁ。やっぱり送り返そうかな」

「「「「いや、そのまま持っていた方がいいと思う!」」」」

「そ、そう?」

「「「「そう!」」」」

手元に持っているということは、いづれまた見られるということだ。

今は無理でも、また着てもらえばいい。

「それよりキラさん、今日は何を買われたんですか?」

キラはあの雑貨店で購入したものをそのままこの部屋に持ってきていた。

ということは、別に聞いてもいいということだろう。

「あ、そうだった。はい、これみんなに」

といって、キラは持っていた紙袋から綺麗にラッピングされた4つの小さなケースをそれぞれに手渡した。

「開けていいの?」

「もちろん、どうぞ」

4人はそれぞれ手にとった箱のラッピングを丁寧に解いて、中身を開いた。

そこに入っていたのは・・・・

「ペンダントか?」

「これ、なにかの石ですよね」

「けっこう綺麗だな」

「でも、どうしてこれを俺達に?」

それぞれの中に入っていたのは、先端に加工され、磨かれている石が着いているペンダント。

小さくて、あまり身に着けていても邪魔にならないデザインのようだ。

よく見てみると、金具のところにそれぞれの名前が掘り出されている。

「お兄ちゃんからみんながクルーゼ隊に配属されてちょうど1年だって聞いたから。それの記念にと思ってね」

キラの話によれば、これは自分達の誕生石だということだ。

今まで自分達の誕生石などはまったく興味がなかったので、みんな手の中にあるものをしげしげと眺めている。

キラはそんな4人をみて微笑むと、まずイザークに近づいてその持っているペンダントを手に取った。

「イザークの誕生日は8月。石はサードニクスで、威厳・情熱という意味があるの。イザークにはぴったりだと思うよ」

そういいながら、キラ自らイザークの首にペンダントをかける。

次は、アスラン。

「アスランの誕生日は10月。石はトルマリンで、寛大・友情などの意味がある。アスランの友達を大切にする心と同じだね」

次は、ニコル。

「ニコルの誕生日は3月。石はアクアマリンで、冷静沈着・勇気・聡明という意味があるんだ。いつでも冷静な対応ができるニコルに合っている石だと思うよ」

最後はディアッカ。

「ディアッカの誕生日はニコルと同じ3月。だけど、石はブラッド・ストーンだよ。これは古来より兵士のお守りとして使われてきた石なんだ。この中で一番喧嘩好きのディアッカはこれで守ってもらえるように」

石の意味を説明しながら、キラは全員にペンダントをかけていった。

呆然とペンダントを見つめて何も言ってくれないアスラン達に、キラは不安になる。

「えっと、余計なこと、だったかな・・・?」

「「「「そんなことない!」」」」

4人は視線をキラへと戻して、

「ありがとう、キラ」

「大切にします」

「ありがとうな」

「気に入った」

といった。それを聞いて、キラはほっとして、どういたしまして、とにっこりと笑った。

「でも、キラさんは買わなかったんですか?」

「僕は持っているもの」

といって、自分の首元から一つのペンダントを取り出した。

だがそれは、アスラン達のような石ではなく、本当の宝石のように見える。

多分、エメラルドだと思うのだが。

「それって、エメラルドか?」

「イザーク見ただけで分かるんだ。そう、僕の誕生日は5月、その誕生石はエメラルドなんだ。お兄ちゃんが入隊して、離れてしまうことになったとき、僕を守ってくれるようにとお兄ちゃんがくれた。それ以来、これは僕の宝物なんだ」

そういって、キラはそのペンダントを手の中に収める。

その雰囲気から、本当にキラがそれを大切にしていることがよくわかる。

それと一緒に、兄弟だと分かっていても、ここまでキラに好かれているクルーゼがうらやましくもなる。

二人の間には、自分達には入れないような絆があるような気がする。

 

 

この日から、このペンダントはどんなときでもアスラン達の胸元を飾っていた。

終戦後、戦争を終わらせることに貢献し、英雄としてたたえられたアスラン達は、TVのインタビューでこう答えたそうだ。

「僕達がこうして無事に帰還し、戦争を終わらせることができたのは、大切な人からの贈り物のおかげです」

と。

 

 

〜おまけ〜

「しかし、見ただけでわからないなどとはまだまだだな、アスラン達も」

「まぁ分からないのも無理ないかも。お兄ちゃん普段は仮面つけてるけどあの時はサングラスだったし、軍服姿しかみんな見たことないだろうから」

「それでも、気配などで感じなければならないだろう」

「そりゃそうかもしれないけど」

「あと、尾行の練習もな」

「え?」

後日、アスラン達の訓練の項目に『尾行』の課題が増えたそうな。

 

 

あとがき

多数のリクエストのがありました、クルーゼの妹話の続編です。
なんか、反響多かったのでこんな話を書いてみましたがいかがでしたでしょうか?
あいかわらず、キラのことになると行動の協力度がUPする面々ですねv

これからもポツポツと続編を書いていこうと思います。
この話でこういう感じのして欲しいというのがあれば、リクエストしてくださいねv

そろそろ誰かとくっつけようかな、とも思っています。
さあ、相手は一体だれでしょう(笑