イザークSide

こんなところにいたのか・・・。

イザークは火をおこす枯れ木などを探すために茂みの中へ入ったとき、その中に隠れるようにしているキラの存在に気づいた。

ここにいたならば、自分がこの島のあちこちを探し回ってみても見つからなかったのはしかたない。

遠目でしか見ることができないのだが、眠っているようだ。

銃はデュエルのコックピットにおいてきてしまった。

仕方なく、イザークは装備していたナイフを手に慎重に近づいていく。

物音を立てないように近づくと、やはり相手は眠っているようでこちらが近づくことにも気づいた様子はない。

先ほどのように抵抗されたなら、厄介だ。

やはり、女であろうとこの場で始末をしてしまったほうが・・・・。

いくらイザークとはいえ、女性に手をかけるようなことはできればしたくはない。

だが、この女が地球連合の人間である以上はいつ助けに外の兵士がこの島に来るかは分からないのだ。


「ん・・・・・・・」


そのとき、眠っている相手からかすかに声が聞こえた。

起こしてしまったのかと半歩下がりナイフを構えるイザークだが、相手は起きた様子もない。

ほっとしたのもつかの間、イザークははっとしたように相手の顔を見た。

その閉ざされた瞳から、たった一筋、涙が零れ落ちる・・・・。


「帰り・・・・たい・・・・・」

イザークはしばしの間、それから目を離すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

キラSide

キラは、自分が今夢の中にいるという確信があった。

なぜならば、今目の前に流れている風景は戦争の中に自分が存在するなんてことを考えることなく平和に暮らしていオーブでの大学生活での風景。

何もしらない自分が、ミリィやトオル、サイたちと笑っている。

あの時は、オーブ以外の国で何が起きているかなんて情報でしかしらなくて。

あんなに大勢の人間が死んでいるなんてこと夢にも思わなくて。

自分と似た年齢の者でも、生死を分けた戦いをしているなんて思わなくて。

浅はか・・・だったのだろうか。

だけど、平和ではあったあのときが今ではとても貴重なものに感じていた。

戦争が終わらなければ、この戦いも終わらない。

だけど、帰りたかった。

あの平和で何も知らなかった、何もしろうとしなかったあのときの自分がどんなに愚かなのかを知っていても。

それでも・・・・。


「帰り・・・・たい・・・・」


言葉に出してしまえば、この夢の中の風景はあっという間に壊れてしまう。

みたくもない、あのストライクに乗って壊した機体がたくさんが現れる。

救うことのできなかった人々が、キラを苛む。


「・・・・・っ」


耳を塞いでも聞こえてくる、無数の声。

どんなに謝っても、許されることのできない、自分の罪。

 

 

ふと、キラの体が温かい何かによって包まれた。

冷え切った体を、優しい熱が包み込んでくれる。

その熱はキラに大丈夫だと、確かに伝えてくれるような気がした・・・・・。

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・」

ゆっくりと意識を浮上させ、キラは目を覚ました。

先ほどまであんなに暗い場所にいたのに、今自分がいるのは洞窟だろうか・・・。

洞窟の真ん中には暖かい火が焚かれており、キラの体には毛布が一枚かけられていた。

「一体・・・」

「気がついたのか?」

「・・・・・っ!?」

はっとしたように振り向くと、そこには先ほどのザフトの兵士が立っていた。

キラは自分が捕まったのだということを知り、後ろに後づさる。

そんなキラのおびえた様子を感じ取ったのか、相手は入れたばかりのコーヒーをキラに押し付けると洞窟の反対側に腰掛けた。

「そう警戒するな。・・・・というのも無理だな。別にお前が抵抗しなければ危害を加えたりはしない。お互いに今日はこの無人島で過ごすしかないんだ。大人しくしていろ」

そういって、彼は自分用のコーヒーと携帯用食料を食べ始めた。

キラはというと、押し付けられたコーヒーを側に置かれていた携帯食料をただじっと見つめていた。

「別に毒なんか入っちゃいないぞ」

自分の考えていたことがあたかも簡単に見通され、キラははっと表情をあげた。

イザークはそれも分かっていたかのように笑うと、キラに見せるかのようにコーヒーをまた一口飲んだ。

それを見てキラも口をつけると、口の中にコーヒーのほろ苦い味と香りが広がり、なんとなくほっとした。

何気ない沈黙が、二人を包む。

向かい合っているのは敵軍の人間だと分かっているのだけど、今は昼間のように理由もなく怖くはなかった。

「・・・名前は?」

「え?」

「お前の名前だ」

「・・・・・・キラ」

「キラ、か」

「あなたは?」

「イザークだ」

「イザーク・・・・・・」

それだけつぶやくと、まるで誘われるかのようにキラは静かに眠気が襲ってきた。

あまり敵の前で無防備になるものではない。

それは分かっていても、キラには今目の前にいる少年が怖いとは、これ以上思うことができなかった。




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