「キラ、どこに行くの?」

重そうな工具をいくつも持って移動するキラに、アスランが声をかけた。

キラが振り返ると、そこにはパイロットスーツを着ているアスラン、イザーク、ディアッカ、ニコルが立っていた。

どうやらMSの訓練後らしい。

「あ、おつかれさま。どうだった?」

「いつもどおり、俺がトップだよ」

嬉しそうに自慢するアスランの後ろで、イザークがくやしそうに顔をしかめる。

それを見たキラは、いつも通り苦笑してしまった。

ニコルとディアッカもまた、後ろで分からないように笑っている。

「ところでキラさん、そんな重いものを持ってどこへ行くんですか?」

「ん?ああ、これはさっきの整備で使ったんだ。今から戻しに行くところ」

といって、持っている工具類を見せる。

複数持っている工具はどれも一つ一つ重いものなのに、それを一度に四つも持っている。

それを見たアスラン達は、何も言わずにキラの持っている工具を取って運び出してしまった。

「え、みんないいよ。訓練後で疲れているのに」

「大丈夫だよ」

「平気ですよ」

「ふらふら歩いているのを見る方が疲れるし、不安だ」

「力仕事は俺達に任せとけって。ほら、おいていくぞ」

先に歩き初めてしまった4人を、キラは慌てて追いかけた。

 

 

「ありがとうみんな、助かった」

ここはパイロット休憩室。

アスラン達はパイロットスーツから赤服に着替えるためにこの部屋に来て、仕事が一段落したキラも一緒についてきた。

「MSの調子はどうだった?」

「僕はいつも通り調子がよかったです:

「俺も、特に異常はなかったな」

「俺も」

ニコル、アスラン、ディアッカはそう答えてくれたが、イザークは何か考え込んでいるようだ。

「イザーク、どこか不安定なところあった?」

「右腕が少し、動きにくかったように思うな。後で見ておいてくれるか?」

「うん、分かった。次の訓練までにはみてみるよ」

「頼む」

キラはMSの整備の責任者の立場にあり、各MSのプログラムを解析することができるのはパイロットであるアスラン達のほかはキラだけなのである。

だから、キラの立場はかなりクルーゼ隊の中でも上になる。

「ねぇキラ。キラはやっぱりストライクに乗るのは嫌?」

キラの整備士の立場も悪いとは言わないが、アスランはもったいないと思っていた。

実力から言えば、キラはパイロットとしても十分に活躍できるだけの能力を持っているのだ。

でも、キラはストライクのパイロットとなることを、ずっと拒否し続けている。

「僕は自分の立場を分かっているよ、アスラン。ストライクのパイロットなんて務まらない」

ストライクのパイロットは、今はない。

イージスなどのMSより、ストライクを操ることが難しいからだ。

優秀なパイロットとして名が知られているアスラン達でさえ、十分に操縦することができないのが現状だ。

当初、ストライクのパイロットの候補に異例中の異例として整備士であるキラが選ばれたのだが、キラは断固としてそれを受け入れなかった。

自分は整備士だから、あれに乗ることはできないといって。

「アスラン、キラさん。そろそろ会議の時間ですよ」

すっかり着替えを終えたニコルが声をかけてきた。

時計を見れば会議まであと10分しかない。

そろそろ移動しないと、確かに間に合わなくなる。

「僕も、行かなきゃ駄目・・かな」

「当たり前でしょ。キラは俺達の整備士なんだから」

会議は各部門の責任者とGパイロットが出席することになっている。

だが、キラはなぜかその会議に出席することを嫌がるときがある。

なぜかと聞いても、キラは理由を言おうとはしない。

完全に拒否するわけでもなく、行こうと声をかければ素直に出席する。

そんなキラに、アスランはいつも首をかしげていた。

 

 

 

その日の夜。

みんなが寝静まった真夜中、一人こっそりと部屋を抜け出す人影がある。


キラだ。

監視カメラのプログラムを調整し、ザフトの本部から出る。

見張りに気づかれないように気をつけながら、キラは近くの森林へと足を踏み入れた。

そして、ある場所へと向かう。


歩いているキラの心の中は、みんなへの罪悪感でいっぱいだった。

自分のこの行為は、アスランへの裏切りだということは、キラには分かっている。

それどころか、キラのことを信じてくれているみんなへの裏切りだとも。

そんなキラのところへ、数人の人間が近づいてくるのが気配でわかった。

近づいてきたのは、地球軍の服を着ている兵士3人だった。

「ごくろうだな、キラ・ヤマト。今日の情報をいただこうか?」

「その前に、父さんと母さんは無事なんでしょうね」

「ふ・・・、当然だ。彼らはわれらの本部で無事におられる。さぁ、早く情報を渡せ」

キラは悔しそうに唇をかみしめながら今日の会議で話された情報を話し出した。

 

キラの元へ地球軍からの連絡が入ったのは今から一ヶ月前。

どうやって通信をつなげたのかは分からなかったが、突然キラの元に舞い込んできた。


両親は預かったと。

ナチュラルである両親は地球軍に、なんの抵抗もできなかったのだろう。

あれから、地球軍はキラの立場を利用してザフト軍の情報を渡せと脅してきた。

そんなことはできないと答えれば、両親を殺すと脅される。

 

「・・・・、以上が今日の会議の内容です」

「そうか」

中心の人物が納得したようにうなづき、その後ろに控えた人物がなにやら書き込んでいる。

いつもならこれで帰るはずなのに、今日はなぜか帰ろうとはしなかった。

一緒にいる義理もないので、キラは早々に引き上げようと身をひるがえした。

「待ちなさい、キラ・ヤマト」

「まだ何かようでも?」

「ああ、ストライクをこちらに渡してもらおうか」

聞いた瞬間、キラはなにを言われたのかが分からなかった。

ストライクを渡してもらう?

あのストライクを地球軍に渡せというのか?

「何を考えているのです?あれはザフトのパイロットでさえ操れない機体です。あなたたちナチュラルが使いこなせるわけがないでしょう」

「たしかに我々では無理だろう。だが、ストライクのパイロットにと推挙されている人物がいれば、話は別だと思うがね?」

キラには、相手の言いたいことがすぐに分かった。

「僕に、地球軍に付けというのですか?」

「簡単に言えばその通りだ。君が地球軍へ来てくれるならば、ご両親はすぐにでも解放しよう」

「・・・・・卑怯だ・・・」

「なんとでもいいたまえ・・・、決めるのは君だからな」

また来週に。

それだけ残すと、地球軍兵は音もなくその場から立ち去った。

ただ一人、キラだけを残して。




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