トリィを探しに外まで出たら、信じられないものを見た。 久しぶりに見る、その姿。 知らず知らずのうちにキラはフェンスの向こう側にいる人へと近づいていた。
今は敵である、アスラン・ザラの元へ・・・・
見えない絆
どうして彼がそこに居るのかキラには分からなかった。 だってここはオーブで。 ザフト兵である彼・・・アスランがこの地にいるはずはないから。 極秘入国をしているキラたちアークエンジェルの行方は、すでに地球軍・ザフト軍共に国内にはいないという通告がでているはず。 なのになぜ彼がここにいる。 信じられないものを見るように、キラは不安げな目でフェンスの向こう側を見た。 キラと目が合った瞬間、その瞳が大きく開かれたことを見逃さなかった。 お互いに視線をはずすことができない。 互いにまだ相手がここにいることが信じられない。 夢幻を見ているようで、それが消えてしまうのが怖いかのようにフェンスをはさんだままじっと相手を見つめている。
「君・・・の?」
最初に沈黙を破ったのは、アスランのほうだった。
「うん・・・・」
キラは返事をすることしかできない。 アスランがトリィを差し出すのに習って、キラも両手を差し出す。 フェンスの穴を通って、トリィがアスランからキラの手のひらへと飛び移った。 そのまま、アスランの踵を返して歩きだす背中に向かってキラは言った。 「昔!」 「・・・・・・」 「むかし・・・、大切な人に、もらったものなんだ・・・・」 「・・・・・そう」 アスランが何かいいたそうにキラを振り返ったが、それを遠くからアスランを呼ぶ声がそれをとどめる。 キラの後ろからもまた、カガリがこちらに向かって走ってくるのが分かる。
二人の間には、フェンス一枚しかないというのに。 二人の距離は、こんなにも遠い。
その夜、すべての仕事を終えたキラは疲れた体を引きずるように与えられている自室へと戻ってきた。 あれから、ずっとアスランの姿・存在が頭から離れない。 この国にアスランが居る。 キラはそれだけで、・・・・たったあの一目あっただけなのに。 アスランにもう一度会いたくて。今度は何も隔てることのない場所で。
トリィ トリィ
「おいで、トリィ」 キラがすっと伸ばした手にトリィが止まる。 アスランにあわせてくれたのはきっとトリィだとキラは思っていた。 アスランがくれたキラの友達。 「アスランに一目合えただけで、よかったと思わなきゃ・・・満足しなきゃいけないんだよね」 会って触れたいと思っちゃ、いけないんだよね。 キラの気持ちを理解しているかのように、トリィはキラの手から飛び立つとその羽で軽くキラの頬を撫でるように掠め、そのまましまっている部屋唯一の窓の方へととんだ。 それからしまっている窓を開けてくれというかのように、かつ・かつ・かつと嘴で窓をたたく。 「トリィ?もう遅いし暗いから外には出られないよ?」 そういっても、トリィはずっと窓をつつき続けた。 さすがにやめさせなければならないと窓に近づいたキラは、ふと叩く音のリズムがおかしいことに気づいた。 トリィが窓をつついているリズムとは別に、窓をつつく小さな音が聞こえる。 もしかして、外に何か鳥が居るのだろうか。 キラは閉じられている扉の鍵を開け、外を確認できる程度に少しだけ開放した。 と、いきなりその隙間を縫うようにして一匹の鳥がキラの目の前へと飛び込んできた。 「っうわ」 驚いた拍子に後ろへと倒れてしまう。
コル コル コル
「え?」 トリィとは別の声にキラは天井へと視線を向けると、そこには見慣れぬオレンジ色のロボット鳥がトリィと仲良く部屋の中を飛び回っていた。 「ロボット・・・鳥?」 なぜ、こんなものがここにいるのだろうか。 キラはゆっくりと手をさしのべると、そのオレンジ色の鳥はキラの差し出した指先へと止まった。 一緒に飛んでいたトリィは、その定番の位置であるキラの肩に舞い降りた。 「すごい・・・。よくできてるね。君のご主人様は誰?早く帰らないと心配してるよ?」 そういって、キラはその鳥の頭を軽く撫でた。 と、そのとき・・・・。
そして、その鳥から聞こえてきたのは・・・。
「キラ・・・」
「う・・・・そ・・・・・」
間違えなく、聞こえてきたのは間違えようもなくあのアスランの声だった。 「キラ、聞こえている?この通信を無事に君が聞いてくれている事を祈るよ」 どうやらアスランが通信で話しているわけではなく、この鳥にあらかじめプログラムで組み込んで録音してあるようだ。 「今日の昼間、一目あえてすごくうれしかった。・・・・でも、どうしようもなく、あれじゃたりない。もっと、君に会いたい、君と話がしたいんだ。もし、君も僕と同じ気持ちならこの鳥に付いてきて。コルが、君を僕のところへと導いてくれるはずだから」 それだけ告げると、コルと呼ばれたこのロボット鳥の目はまた元の色に戻った。 アスランが・・・、アスランもキラに会いたいと思ってくれている。 自分だけが、アスランを必要としているわけじゃなくて・・・・。 キラは思わず、両手を握り締めてそれに額をつける。 どうしようもなく、うれしかった。 そして、ますますアスランに会いたくなった。
コル コル
「君が、アスランのところに連れて行ってくれるの?」
コル コル
「そか。それじゃ、行こう」
アスランの、元へ・・・・ |