明日、クルーゼ隊はオーヴのヘリオポリスへと潜入を開始する。 それは、ある一部からもたらされている情報で、中立国であるはずのヘリオポリスで地球軍の新型兵器が開発されているという情報だ。 ザフト軍上層部の調べでそれが確かな事実だということが分かり、アスラン達はその兵器を奪取するためにヘリオポリスへと潜入する。 敵の真っ只中に進入するのは大変危険な任務。 だからこそ、今日は体をゆっくり休めておかなければならない。 だが、アスランは一人、部屋の中で天井を眺めていた。 別に、明日のことが不安とか、そういうのではない。 ただ単に眠れない。それだけのことだ。 それだけのことなのに、なぜかそんな自分にいらいらしてくる。
もう消灯時間もとっく過ぎているはずなのに、こんな時間にだれだろうか。 入ろうか、入るまいか、ドアの向こうの人物は迷っているのか、その気配はドアの向こうを行ったりきたりしている。 ドアの向こうにいる人物に想像が付いて、アスランは一人苦笑する。 そっとドアの鍵を解除する。 だが、解除をしただけでアスランは自分からドアを開けようとはしなかった。 どうせ、すぐに自分から入ってくると分かっているから。 案の定、ドアの向こうの人物は鍵が解除されたことで自分がそこにいることに気づかれたことが分かったのか、すぐにドアをノックしてきた。 「どうぞ」 アスランが声を掛けると、すぐにドアが開いた。 入ってきたのは、アスランが思ったとおり、イザークだった。 「どうしたの?こんな時間に起きているなんて」 「別に・・・・」 イザークは基本的に規則正しい生活を送っている。 寝起きは最悪的に悪いが、寝るときは、特に次の日に任務を控えているときは早々に眠るのがいつものイザークだ。 「どうしたの?」 入り口に立ち尽くしたままのイザークにもう一度問いかけながら自分の隣をポンポンとたたき、ここに座れと促す。 以外にも、イザークは素直によってきてアスランの横に腰を下ろした。 だが、別にアスランの方を見ようとも話をしようという素振りも見せない。 ただ、アスランの横に座っているだけ。 そんなイザークにあわせるように、アスランもまた話しかけたりしなかった。 ただ、隣にいて。 ただ、お互いを近くで感じていられればいいような気がした。 「明日は、ヘリオポリスに乗り込むんだな」 「そうだね。今回は失敗するわけにはいかない。かなりの危険度だけど」 「・・・・・分かっている」 黙ってうつむいてしまったかと思うと、イザークはそっとアスランの方に顔を押し付けた。 「イザ?」 どうしたのかと顔を覗き込もうとしても、イザークはそれを拒否するようにぎゅっとアスランにしがみつく。 アスランはイザークをそっと抱きしめると、髪をゆっくりと撫でた。 「イザ、どうしたの?」 「・・・・眠れなかった」 「どうして?」 「アスランが、明日、怪我をしたりしたらどうしようとか・・・、目の前からいなくなったらとか、そんなことばかり頭に浮かんで。・・・・・不安で眠れない」 「イザーク・・・・」 そのとき、ふとアスランは自分にしがみついているイザークの手がかすかに震えていることに気づいた。 アスランにはイザークの不安がよくわかった。 アスラン自身も、イザークの身に何かあったらと考えるだけで、不安で眠れなくなってしまうだろう。 イザークの髪を撫でている手をそのままに、アスランは力強く抱きしめた。 「大丈夫、俺は絶対にイザの前から消えたりしないよ」 「どうして言い切れる?」 俺達は今、戦争をしているのに。 いつ、誰がどこで新でもおかしくないような場所にいるのに。 「言い切れるさ。俺が戦争をしているのは、守りたいものを守るためだよ。でも、死んでまで守り抜きたいとは思ってないからね。残される者の気持ちは痛いほどわかるから」 血のバレンタインデー。 あのとき、アスランの母は死んだ。 それをあの画面で呆然と見ながら、何かがくずれていくような気がした。 今までずっと一緒にいて、これからも一緒だと思っていた人が急にいなくなったときの喪失感はいまだ忘れられない。 「本当に、死なないんだな」 「ああ。イザこそ俺の前から消えないでくれよ?そんなことしたら俺は生きてなんかいられないんだから」 そういってイザークの額にちゅっとキスを落とすと、イザークの顔は耳まで真っ赤に染まる。 いつもしていることなのに、まだまだ慣れないところがすごく愛しい。 「約束して、イザーク。絶対に俺の前から消えたりなんかしないって」 「消えたりなんか、しない。俺は・・・・、俺の居場所はお前の側だけだから」 「うん。俺の居場所もイザークの横だけ」 そう耳元にささやくと、そっと自分の唇をイザークのそれに押し付ける。 軽く触れるだけだったものが、少しずつ深いものへと変わっていく。 角度を変えるたびに零れる声と、呑みきれない唾液がイザークの顎を伝う。 ようやく唇を離すと、イザークはまたアスランの肩に顔をうずめて力強く抱きついてきた。 「あ、そうだ」 イザークを抱きしめたまま、アスランはサイドデスクの引き出しから何かをとりだし、それをイザークの首へとつける。 いきなりの冷たい感触に、イザークはそれを手に取って見つめた。 金のクロスペンダント 「それ、母の形見なんだ」 「え?」 イザークの手に自分の手を重ねてつぶやく。 「母がいつもしていたものだったんだ。母が死んだ時、父は全てを忘れるかのように母の者をほとんど処分してしまった。俺が持っている形見はそれ一つしかない」 「っ!そんな大事なもの、なんだって俺に・・・」 「もちろんあげないよ?大事なものだもの。だから、貸してあげるんだよ」 アスランの意図するものが分からなくて、イザークは首をかしげる。 「この作戦が終わったら、絶対に返してね?」 「?ああ・・・」 「約束があるんだ。だから、俺達は絶対に死ねない。俺はこれを返してもらうために、イザークはこれを返すために生きて帰還しなければならない」 にっこりと微笑むアスランにようやく意図するものがわかり、イザークはふっと笑みをこぼす。 なんとも、こいつらしい。 「だったら、俺は」 「イザーク?」 イザークは自分が付けていた指輪をアスランの中指につける。 「これは、俺が軍に入隊したときに、母上がお守りとして買ってくださったシルバーの指輪だ。だから、今の俺にはこれが大切だ。だから、なくしたり、返さなかったりしたら、絶対に許さないからな」 「・・・・、ああ。分かった、約束な」 「ああ、約束だ」
本当に、約束を守れる自信なんてなかったのかもしれない。 ただ、生きて帰るために何かが欲しかっただけなのかもしれない。 世界中で一番愛しい人の元へ変えるために必要な何かが欲しかっただけなのかもしれない。
それは、絶対に守られるものと決まっているものではないけれど。 必ずあいつは守ってくれる。 必ず自分は守ってみせる。 生きて・・・。 必ず生きて帰ろう。 愛しい人の元へ・・・・。
あとがき 香坂ユヅユさまからのリクエスト「アスイザ」です。 香坂さん、これでいかがでしょうか?感想おまちしております。 ブラウザでお戻りください。 |