「だって、行くんでしょ?彼のところへ」

「いいの?」

「君の自由だよ。僕達は、君を拘束する権利なんてありはしないんだから」

「ありがとう!」

イザークは部屋の窓から外へと飛び出した。

元軍人なだけあり、二階の窓だったにもかかわらず、怪我一つなく着地する。

そのまま一目散に走っていくイザークを、キラはただ見つめていた。

「てっきり、止めに入ると思ったよ。・・・・・アスラン」

その言葉に、アスランはゆっくりと部屋の中に入ってきた。

彼がこの部屋に来たのは、キラのほんの少しだけ後だった。

アスランはキラの横に並び、もう姿も小さくなってしまったイザークをじっと見つめた。

「行かせたくなんて・・・・なかったのに」

「・・・・うん」

「今度手を離したら、もう二度と戻ってはくれないような気がして」

「うん」

めったに人に弱音をはかない彼が、自分に弱い部分を見せてくれている。

キラは、それを静かに受け止めた。

 

 

イザークがたどり着いたそこは、大きな森だった。

いや、森というのは正確ではない。シャニに教えてもらったのは自然公園と名のつくこの森の一角。

木々に囲まれた小道をしばらく歩けば、開けた場所へとたどり着く。

そこには大きな湖があった。

『中でも、ここが俺のお気に入り』

『湖?』

『そう。春は回りに花が咲くし、夏は心地よい風が吹く。花の季節は本当に綺麗だから。その季節になったら、また一緒に来ような、イザーク』

『ああ』

もう、花の季節は過ぎてしまった。

約束を、していたはずなのに。

約束を守らなかったのは、はたして自分だったのか、シャニだったのか。

湖の周りをくまなく探しても、シャニの姿はどこにもない。

ここには、いないのか・・・。

だったら、今彼はどこにいるのだろうか。

力が抜けたかのように座り込み、膝に顔を埋めた。

もう、会うことも叶わないのだろうか。

「シャニの・・・バカ・・・・」

俺は、こんなにも会いたいのに。

 

「誰がバカだって?」

 

聞こえるはずのない声が、聞こえてきたような気がした。

怖くて、顔を上げることもできない。

だって幻聴かもしれない。

いや、幻聴なのだろう。


顔を上げたらシャニがいないかもしれない。

いや、いないだろう。


「イザーク?顔ぐらい見せたらどうなの?」

ぐいっと上を向かされる。

そこには以前と同じ、シャニがいた。

少しからかっているような、でも優しい表情でイザークを見つめてくれている。

「シャニ・・・?」

「うん」

「本当に、シャニなのか?」

「そうだよ。だから何?」

イザークは、自分の行動がよくわからなかった。

ただ涙があふれて、そのままシャニに思い切り抱きついた。

いきなりのことにさすがのシャニも驚いたようだが、引き離したりせずに

「なんなのさ、一体」

とつぶやきながら、泣いているイザークをぎゅっと抱きしめてくれた。

 

 

 

イザークがようやく泣き止むころには、すでに太陽は空高く上っていた。

シャニが教えてくれたように、湖の周りには心地よい風が吹いていた。

「イザーク、なんでここに来たの?あいつらと何かあったんだ?」

座っているシャニに背中を預けながら、イザークは静かに首を振った。

自分の胸の前で組まれているシャニの手に、イザークは自分の手をそっと重ねる。


あたたかい・・・・。


背中でシャニの体温を、手でシャニの感触をイザークは懸命にさぐった。

シャニがここにいる。ここにいてくれる。

そのことを確かめるために。

「ならなんで来たのさ。イザークは俺が嫌いなはずだろう?」

「ち、違う・・・・・っ!」

イザークは体を反転させ、シャニを正面から見た。

「何が違うの?だって、俺の手を振り払ったってことは、そういうことでしょ?」

「あ・・・あれは・・・・」

あれは、ただなぜかシャニが怖かったから。

でも、言葉ではうまく表現できない。

だから、せめてこの気持ちだけは分かって欲しくて、イザークはぎゅっとシャニに抱きついた。

「あのさ、やめたほうがいいよ、こういうの。じゃないと俺、何するか分からないし」

「・・・いいよ、何をしても」

ぐいっとイザークの体を離し、顔を覗き込む。

「本気?」

コクリ。

それを確認するかしないかのうちに、シャニはイザークを引き寄せ強引にキスをしてきた。

一瞬体を硬直させたが、腕をシャニの首に回し、自分からもシャニを求めた。

 

長かったような、一瞬だったような、そんな感じだった。

今までのキスとは、どこか違うような。

唇を離せば、シャニはぎゅっと抱きしめてくれた。

イザークも大人しくシャニの胸に顔をうずめる。

「行方不明になったって、オルガって人が言いに来た」

「オルガが?ふ〜ん、なんでだろう?」

「いろいろ言ってたけど、やっぱり心配していたみたいだ」

「あいつがねぇ」

オルガとはそんなに親しかったわけじゃない。

ただ、最近会うことが多かっただけ。そんな心配されるなんて思わなかった。

「シャニは、なんで家に戻らなかったんだ?」

「ん〜、イザークに嫌われたの、自分で思った以上にショックだったみたいでさ。気づいたら、ここにきていた」

嫌ったわけじゃない!と訴えるイザークを落ち着かせ、シャニは続きを語った。

ここにくれば、すぐに忘れることができると思っていた。

でも、それは無理だった。

日に日に、イザークへの気持ちが高まるばかりで、1ヶ月もここにいてしまっていた。

もしかしたら、イザークが来てくれるということを心のどこかで待ちのぞいんでいたのかもしれない。

「シャニ、帰ろうよ・・・」

「イザーク?」

「俺も、帰るから・・・。あの家へ、お前のいる場所へ」

「・・・・・・うん。帰ろうか、イザーク」

「うん」

もう二度と、この手を手放したりなんかしない。

たとえ、どんなことがあろうとも。

この手を離しては、自分は生きていくことができないと知ることができたから。

 

もう・・・、離れない。

 

 

〜あとがき〜

香坂ユヅユさまの続きを失礼ながらに書かせていただきました。

シャニの性格、かなり変わってしまっています。
でも、イザはかわいくかけたかなぁ。

ユヅユさま、いかがでしょうか?