「シャニが行方不明って・・、どういうことなんだ?」

「言葉どおりだよ。大体一ヶ月前から一切姿が見えない」

シャニがアスラン宅に来たのは約一ヶ月前。

ということは、あれからすぐに行方が分からなくなったということだろうか。

忘れたいと願っていたはずなのに、シャニが行方不明と聞いただけでこんなにも不安が広がる。

できることなら、今すぐ探しに・・・。

その考えを振り切るかのように、イザークは首を振った。

もし、迷惑だって言われたら?

もしも見つけることができたとして、伸ばした手を振り払われたら、どうしたらいい?

会いたい気持ちと会いたくない気持ち、そして拒否されるのが怖いという気持ちがぶつかり合う。

「それで、あなたはイザークに何をしろと?まさか、イザークに探せというのではないでしょうね」

アスランが混乱しているイザークの方に手を置いてオルガを睨みつける。

だが、それを気にしている風もなくオルガは答えた。

「そんなの、俺が言うことじゃないんじゃないか?俺はただ、シャニの居所を聞きに来ただけだし」

何で俺が?という風なオルガに、アスラン達は首をかしげる。

本当に、この男はシャニの居所をイザークに聞きに来ただけなのだろうか?

でも、イザークがこの家にいることはごく一部の人間しかしらないはずだ。

それを突き止めたのだから、きっとイザークにシャニを探させるためだと思ったのだが。

「そもそも、なんで俺があいつを探さなくちゃならないんだ!いつもは何かあっても必ず一週間で平気な顔して戻ってきたくせに!行方不明じゃ、なおさら気になるんだよ!見つけ出して一発殴らないと俺のきがすまねぇ!」

ようするに、いきなり行方不明になったから心配なんだな・・・。

探す態度や言葉は違えど、イザークが行方不明になったときの自分達と似ている気がする。

なんとなく、その気持ちは分かる。

「んで、お前、シャニの行きそうなところしらねぇ?」

フルフルと首を振る。

シャニはいつもふらふらといろいろなところに行っていたから、特定のどこか、というのは分からない。

そんなイザークに、オルガも参ったという風にため息をついた。

イザークの居所を突き止める前に、オルガはシャニのいそうなところをくまなくさがした。

だが、それでもシャニの居所を突き止めることはできなかった。

別段仲がよかったわけではないから、シャニの行動というのはいまいち理解できないし、つかめない。

いつも空気のようにふらふらとしていたやつだったから。

だから、シャニを変えることができたイザークというやつならば、シャニのいそうなところを知っていると思っていたのに。

たとえ、その行方をくらませた原因がそのイザークであったとしても。

「ったく、こんなことなら秘密の場所、無理やりにでも吐かせておけばよかったぜ」

「秘密の場所?」

オルガのつぶやきに、キラが聞き返した。

「あいつ、軍にいた頃から、ものすごくつらかったり苦しかったりすると、必ず一週間ほど行方をくらませるんだ。その間、『秘密の場所』に行ってきた、としか言わなくてな。多分、今もそこに行ってるんだと思う」

「昔から行方をくらませるんなら、別に心配しなくてもいいんじゃないのか?」

「一週間や10日だったら別に俺だって探したりしねぇよ。でも、もう1ヶ月たっちまった。絶対におかしいんだ、あいつがそんなに長い間いなくなるなんて」

だから、オルガはシャニを探すという。

 

 

イザークはオルガの『秘密の場所』という言葉を聞いて、思い出したことがあった。

シャニに拾われたばかりの頃、イザークはシャニの家から一切出ようとはしなかった。

なんとなく外が怖かった。

だからシャニがいる部屋に・・・・、シャニの存在が残っている部屋に居たかった。

そんなイザークを、シャニがある場所へと連れ出した。

『ここは?』

『俺の秘密の場所。なんか嫌なことがあるといつもここに来ていた。ここに来ると、不思議と癒されるような気がしてね。でも、ここに人を連れてきたのは初めて』

『それじゃ、なんで俺を?』

『ん〜、なんとなく、かな。イザークにもこの場所を知っていて欲しかった。気に入って欲しかったんだ。どう?』

『うん、綺麗なところ・・・。気に入った』

『そっか。んじゃ、ここは今日から俺とイザークの秘密の場所な。誰にも言うんじゃないぞ?』

『分かった。約束な』

 

「・・・・ザーク、イザーク!」

いきなりの大声にビクリと顔を上げてみれば、心配そうに顔を覗き込みアスランとキラ、ディアッカ、ニコルの顔が見えた。

オルガもどうした?という風にこちらを見ている。

「もしかして、何か思い当たったか?」

「し・・・、知らない・・・・」

「そうか・・・・、ならしかたない。邪魔したな」

そういうと、オルガはここに来たときと同じように唐突に帰っていった。

ただ一言を残して。

「シャニはお前を心底慕っていたぜ?なんたって、あの無関心、無表情のシャニがお前のことを笑って話していたんだからな。あいつを今のあいつに変えたのは、まぎれもないあんただよ、イザーク」

 

 

 

オルガが帰った後、だれもシャニのことを話そうとはしなかった。

無意識なのか、意図的なのか。

無理やり他の話題に切り替えていたようにも思う。

夜も遅くなってから、イザークは一人部屋に戻ってシャニのことを思った。

きっと、シャニは今あの場所にいるんだろう。

だってあの場所は、イザークとシャニしか知らない場所だから。

なぜあそこにいるのかと問われれば、分からないと答えるだろう。

でも、なぜか確信があるのだ。あの場所にシャニがいると。

『あいつを今のあいつに変えたのは、まぎれもないあんただよ、イザーク』

オルガの言葉は本当なんだろうか。

本当に、自分はシャニを変えることができた存在だったのだろうか。

後悔、してもいい。

もう一度、シャニに会いたい!

イザークは立ち上がって窓に近づいた。

普通に出て行けばアスラン達にばれてしまう。そうすると、絶対についてくるというだろう。

だが、イザークは一人で行きたかった。

一人で、シャニに会いたかった。

窓にはまだ、キラ特製の鍵がかかっている。

どうにかして鍵を開けようとするが、まったく外れてくれない。

どうしようか・・・・、いっそのこと、窓を壊そうか。

「何しているの?」

後ろからかけられた声に、ビクリと体を震わせて振り返る。

そこには扉に寄りかかるようにして、キラが立っていた。

「あ・・・・」

「鍵開けて、どうするの?」

ゆっくりと、近づいてくるキラにイザークは窓ぎりぎりのところまで下がる。

「シャニの居所分かったの?」

目線を下げたまま、首を振る。

「シャニが好きなの?僕らより?」

また首を振る。どう答えていいのか分からない。

ずっと黙っていると、よこでカシャンと鍵が開く音がした。

はっとして顔を上げれば、なんとキラが窓の鍵を外してくれていた。

「はい、これで外に出られるよ?」

「なんで・・・・・」

「だって、行くんでしょ?彼のところへ」

「いいの?」