「なんで出してくれないんだよ!」

イザークは目の前に座ってお茶を飲んでいるアスランへと怒鳴った。

だが、アスランは平然として動じる様子もない。

あの日、シャニにアスラン宅へと送ってもらった日から、イザークはアスランに監禁されていた。

といっても、別に拘束されているというわけではない。ただ、部屋の中に閉じ込められているだけだ。

ドアや窓にはキラが作った特製の鍵がかけられている。これでは、イザークに解除することは不可能だ。

 

「出せよ!俺は、帰らなくちゃならないんだから!」

シャニと約束したんだ、帰るって。


ガシャン!


アスランがカップを乱暴にソーサに置く。

その音に、イザークはビクッと体をすくませて言葉を閉ざした。

「イザークはさ、どこに帰るつもりなの?」

「どこ・・・って・・・」

「あの男の所?でも、あれら一週間もたつんだよ?」

あれ以来、あいつイザークを迎えにも来ないじゃないか。

ゆっくりと近づいてくるアスランにおびえるように、イザークは後ずさる。

「それなのに、どうしてあんなやつのところに帰りたいわけ?」

「どうしてって・・・」

「あいつは、イザークを独占したいだけ。遊んでいるだけなんだよ?」

「そんなこと!あいつは俺のこと『好きだ』って・・っ」

ベッドサイドまで追い詰められたイザークはそのままアスランに押し倒される。

「それじゃ、愛してるって言われたことある?」

「・・・・・・っ!」

「好きだなんて言葉はね、誰にだって言えるんだよ」

アスランの手が服の中に進入してくる。

鳴らされてしまっている体は、すぐに熱く反応してしまう。

「や・・・、やめっ」

「やめていいの?もう硬くなってきているよ?ここも・・・・、ここもね」

「ひ・・・っ」

アスランの言葉が、行動が、イザークの全てをあおっていく。

頭のおくがしびれて、何も考えられなくなる。

「ねぇイザーク、よく考えてみて?」

「や・・・・あぁ・・・」

「イザークはここにいるのが一番幸せなんだよ?ここにいれば俺がイザを守って上げられる」

まだ十分にならされていないイザークの中に、アスランが無理やり進入してくる。

「あ・・・・あああああっ!いや・・抜いて・・・・・っ」

イザークの抵抗も、アスランにとっては些細なこと。

イザークの両手を頭上で一つにまとめると、さらに奥へと突き上げる。

「ん・・・・あ・・・」

「そうだ。もし、あの男が来たら帰らないっていってみなよ。そしたら、あいつはイザークを手放すよ」

「そんな、こと・・・・・。あ!もう・・・・イク・・・・っ」

「イケよ」

耳元でささやかれた瞬間、イザークは自分を解放した。

それと同時に、意識も手放してしまった。


会いたいよ・・・・、シャニ・・・・・・。


一筋の涙を残して。

 

 

 

気を失ってしまったイザークを清め、再びベッドに横たわらせる。

本当は、こんなことしたくないんだけどね。

アスランにはシャニとイザークが互いに惹かれあっていることが分かっていた。

本人たちは、まだ気づいていないようだけれど。

だからこそ、アスランはイザークをシャニの元へと返したくはなかった。

これ以上、イザークがシャニのことを好きになる前に。

これは、ただの嫉妬だ。

そんなことは、わかっているし、自覚している。

でも、それでもイザークは手放せない。

 

『アスラン様、いらっしゃいますか?』

「ああ、何だ?」

『シャニと名乗る男が来ておりますが、いかがいたしましょうか』

「来たか」

イザークを取り戻しに。

自分たちからイザークを奪うために。

手早く身支度を整えると、アスランはシャニがまたされている応接室へと向かった。

絶対に、手放したりするものか。

彼は、ようやく取り戻した至上の宝石なんだから。

 

「何のようだ?」

「いいかげん、イザーク返してくれない?」

挑戦的に睨みつけてくるシャニを冷静に見返しながら、アスランはシャニの向かいに座った。

「イザークはもう、君のところには戻らないよ」

「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないわけ?」

いかにも不愉快、といわんばかりに顔をしかめる。

「なんなら、本人にも聞いてみればいいさ。案内するよ」

アスランはイザークがいる部屋にシャニを案内した。

案の定、部屋の中でイザークはまだ眠っていた。

「イザーク、起きて」

「ん・・・・・。やだ・・・・・、まだ寝る・・・・・」

「少しだけでいいから、ね?起きて?」

体をだるそうに起こしたイザークの目に飛び込んできたのは、不機嫌顔のシャニ。

目が一気に覚めたと同時に、体がうまく動いてくれなかった。

 

会いたかったはずなのに。

ずっと、触れたかったはずなのに。

何か、変だ。

シャニの視線が、存在が・・・恐い。

とても、恐かった。

 

「イザーク、何やってるわけ?」

「あ・・・・・、シャニ・・・」

ゆっくりと近づいてきたシャニを、イザークはじっと見つめていた。

なんとなく、おびえているような瞳で。

不思議に思って伸ばしたシャニの手を、イザークは思い切り跳ね除けた。

「いやっ!」

「・・・・っ!」

突然のことに、シャニは何が起こったのかわからなかった。しかし、イザークのおびえている表情と、痛みが残る自分の手のひらを見て、表情を消していく。

「あ・・・・・・・」

イザークも自分のしたことがわかったのか、自分の手とシャニの手、シャニの顔を交互に見つめる。

「ふ〜ん、あっそ。そういうこと」

「シャニ?」

「ったく、俺のところに帰ってくるのが嫌になったなら早くそう言えばいいのに」

シャニはきびすを返すと、そのまま部屋を出て行こうとする。

「シャニ!?」

「んじゃ〜な、イザーク。もう、会うこともないか」

それだけ言うと、シャニは本当に部屋を出て行き、アスラン邸をあとにした。

残されたイザークは呆然とシャニが出て行った扉を見つめていた。

 

なんで・・・・。

シャニ・・・・・・・、俺のこと、置いていった・・・。

どうして・・・?

迎えに来てくれたんじゃ、なかったのか?

 

「言ったでしょ?イザーク」

「アスラ・・・ン?」

「あいつは、イザークを好きなんかじゃなかったんだよ」

本当に、そうだったんだろうか・・・。

最初は、本当に気まぐれで俺のこと拾ってくれたけど。

本当は、面倒だったのかな・・・。

俺のこと、邪魔だったのかな・・・・。

「イザーク、泣かないで。これから、俺がいつも側にいてあげるよ」

知らずに零れた涙を、そっとぬぐって、きつくイザークの体を抱きしめる。

だがイザークはそんなアスランを抱き返すこともしないまま、ずっとシャニが出て行った扉を見つめていた。

 

 

 

あれから一ヶ月。

最初はショックなどからかひどく落ち込んでいたイザークだが、今では少しずつだが笑えるようになってきていた。

毎日のように励ましてくれているアスランやキラたちの努力の賜物というものだろう。

だが、そんな平和が一人の訪問者によって破られることになった。

 

 

「訪問者?」

『はい、オルガと名乗っておりますが』

ちょうど、キラたちが遊びに来ているときに、その訪問者は訪れた。

「他には何かいっていないのか?」

『それが・・・、「イザークってやつがいるだろう、そいつを出せ!」の一点張りで。いかがいたしましょうか?』

「イザークを?」

みんなの視線はイザークに集中したが、イザークは聞き覚えのない名前に首を振っている。

イザークが嘘をついてもいいことなんてないので、とりあえずアスランはその人物を追い返すように伝えた。

だが、相手は「イザークってやつに会わせろ!」の一点張りで、どうにも引かないらしい。

しかたないので、とりあえずはアスランがあってみることになった。

イザークは死角となる部屋からその訪問者のことを見ることになった。もちろん、ニコルやアスラン、ディアッカと一緒に。

「なんの御用でしょうか?」

「あんたに用はねぇ。イザークっていうやつに会わせてくれればいいんだよ」

「イザークは、あなたのことを知らないと言っていますが?」

「そりゃそうだろうよ、直接会ったことなんてないからな」

「だったら、会わせるわけにはいかないな。お引取り願おうか?」

「ふん、聞くことを聞いたらさっさと出て行ってやるよ」

「聞くこと?」

「ああ、そこの扉からこそこそと覗いているやつに、ちゃんと話が聞けたらな」



  !!!



見えないところにきちんといたはずなのに、オルガはイザークたちがいるところを指差していった。

さすがに只者じゃないことが分かったのか、アスランの目つきが厳しくなる。

なんとなく、警報がならされているような気がするのだ。

こいつを、これ以上ここにいさせてはいけないと。

「どうしても帰らないというのなら、力ずくでも追い返す」

「できるもんなら、やってみな。おい!イザークってやつ、聞いてるんだろ!」

オルガは部屋中に響き渡るような大きな声で叫んだ。

「なにを・・・」

「イザーク、シャニの居場所を知っているか!?知っているならすぐに教えろ!」

「な・・・・っ!」

こいつ、シャニの知り合いか?

それならば、なおのことイザークと彼を合わせるわけにはいかない。

だが、そんなアスランの考えとは逆に、イザークは部屋の中に飛び込んできてしまった。

とっさのことに、キラたちもイザークを押しとどめることができなかった。

「やっと出てきやがったか」

「お前は、誰?なんなんだ?」

「俺はオルガ。シャニの・・・、まぁ、古い知り合いっていうか、昔の同僚だな」