愛をください 愛 をください 鉄格子よりも壊れない愛で包んで 愁傷恋々・典雅(てんが) 「イザーク、しんどい?アスランのところに行くの止めちゃう?」 車を運転しながらも、心配そうに気遣ってくるシャニと決して目を合わさないように、イザークはずっと外を眺めていた。 もともと、イザークが必死にお腹に力を入れていないといけなくなったのはシャニのせいなのだ。 さすがに、内腿からシャニの精液をだらだら流しながらアスランの元を訪れる勇気をイザークは持ち合わせていなかった。 「ねぇ、ってば。辛いでしょ、其の状態。出しちゃえばラクになるよ」 「お前のせい、だろ。アスランの家に着く前までには外してくれる、よな?」 「其れはちょっとなぁ。此処でそのままイザークを送り届けるだけだと、確実にイザーク午前様になるし…俺も家まで押しかけようかな」 「だから、互いに干渉しないって決めたんじゃなかったのか?」 「先にちょっかいかけてきたのはあっち。友達云々抜かしといて毎回午前様は無いでしょ」 ふん、と臍を曲げてしまったシャニに、少しイザークは慌てた。 臍を曲げられたままだと、本当にローターの入ったままアスランの家に行かせる、とかほんとうにさせられかねない。 「な、なぁシャニ、シャニだって一応やることやってるし…」 「…だ・か・ら、それを主張する為にやるんだろ。イザ、いっつもくたくたの青―――い顔で帰って来るの、知ってる?本当は、無理にでも引き止めときたいんだよ」 「…ごめん」 「別にイザが謝ることじゃないけど。一度云ってやんないとあの馬鹿は判らないだろ」 「シャニ、あの、さ・・・俺」 「…駄目だよ?イザークが、アスランのこと好きなのは知ってるけど、これだけは譲れない。戻ってきてくれないと、どんなことしてでも連れ戻す」 どこか悲しそうに、そう宣言したシャニに、イザークは何も云えなくなってしまった。 本当は、そんなこと云いたかったんじゃないのに。 シャニは、いつも遠くを見ていた。 どんなに躯を重ねても、一緒にじゃれあって過ごしても。 イザークには絶対に見せようとしない、深淵があるような気がする。 シャニは、いつもイザークに「好きだよ」と言葉をくれる。でも、いつだってシャニが「愛してる」ということは無かった。 会うたびに、躯を重ねるたびに「愛してる」といっぱいの言葉をくれるアスランと違って。 言葉が、愛の量を測るわけじゃない。 でも、イザークにとっては形になった愛、言葉が、必要だったのだ。 シャニからもたらされる愛は、ともすれば崩れてしまうような…波打ち際にある砂の城のように、儚いものだった。 そう、まさに憎しみと紙一重な、愛。 それでも、その危うい愛が、心地よかった。 憎しみすらも、自分に向けられた愛と感じられてしまうほどに、生温かくて心地よい。 愛をください イザークは、いつもどこかシャニの知らないところを彷徨っていた。 どんなに躯を重ねても、一緒に時を過ごしても、其の目はふとした瞬間にシャニの知らないところを見つめている。 其の目の奥に何がいるのか、あのときに出会わなければ、一生判らなかっただろう。 何があるのか全くわからない混沌とした眼が、自分に似ていた。 シャニは、自分のイザークへの思いが、「愛」でないことをうすうす感じていた。 自分の思いは、愛ではなく、ただの独占欲なのだろうと。 それは、ある意味正しくて、其れでいて正しくない。 イザークを独占すること、それが叶わぬことだとわかっているから、これだけ執着するのだ。 きっと、イザークが簡単に自分の物になってしまうような子だったら、きっとアスランが現れたときにそのまま引き取らせていただろう。 自分に全くなびかないような、張り合いの無い子でも、そのままアスランに渡してしまっていただろう。 そんな、微妙な均衡を持った今の関係が、必要だった。 イザークからの、愛が欲しい。自分だけに向けられた愛が。 全てを失うことを覚悟してまでも、欲しいと思える壮絶な愛が。 愛をください アスランの自宅は、イザークたちが住むところとは真逆に位置する、閑静な住宅街だった。 キラやニコル、ディアッカの家も近くにあったけれど、いつもイザークは会う、と約束したひとのところにしか近付かなかった。 皆に、一度に会ってしまったら、ちゃんとシャニの元に帰って来る自信が無かったのだ。 皆、大切な、たいせつなひとだった。 「シャニ…どうしても、外してくれない?」 「駄目。不安だったら付いていってあげるよ」 「…いい。付いてこなくて」 「―――イザーク、ちゃんと帰って来る?」 「…うん。待ってて」 「そぅ…今日は午前様じゃなく戻っておいでよ?」 「うん。わかってる」 何度も手を振りながらアスランの家のほうにかけていったイザークを見送ったシャニは、その道の向こうに意外な人物を見つけて声をかけた。 「…オルガ?オルガ・サブナック!」 IDカードを通して、開いたドアの中に招き入れられたイザークは、玄関に待ち構えていたアスランに突然抱きしめられた。 「ぅあっ!!!??」 「イザーク、約束の時間になってもこないからすごく心配してたんだよ?」 「ごめん…ちょっと用事があって。…怒った?」 「怒ってない、怒ってない。今日も泊まっていけるよね?今日は、キラもニコルもディアッカもうちにくることになってるんだ」 「えっ…そんな」 「そろそろ、限界なんだ…。僕らは、もう君を手放したくない」 強い眼で、そう云い切ったアスランは、イザークのどんな言葉も訊こうとはしないような、頑とした表情をしていた。 そっと目を伏せたイザークの瞼の裏には、「帰っておいでよ?」と云って不満げに、それでも笑いながら自分を見送ったシャニの顔が見えた気がした。 「…お、シャニじゃねぇか」 車ですっと側に乗りつけたシャニの姿を認めて、オルガは驚いたように目を開いた。 目だけで助手席に座るよう促したシャニに、今度こそオルガは驚きを隠せなくてあんぐりと口を開いた。 一緒に戦っていた、と言っても、自分たちはそんなに仲が良くなかった―――というか協調性が皆無に近かったから、戦争が終わったあとは殆ど連絡らしい連絡はとっていなかった。 それでも、全く困ってはいなかったのだけれども。 最後に会ったのは、確か2,3ヶ月前。 偶然買い出しに出かけた先のデパートで、本当に偶然―――シャニを見かけたのだ。 隣に、びっくりするくらい綺麗な子を連れて、楽しそうに買い物をしているシャニを。 一度もそんな邪の無いシャニの笑顔なんて見たこと無かったから、ついつい好奇心で声をかけたのだけれども、その時の変貌ぶりは凄かった。 その綺麗な子をその場から遠ざけたとたんに、いつもの目つきと声で威嚇してきたのだ。 「何の用?用が無いなら近付かないで欲しいんだけど」 「いや、お前があんまり幸せそうに笑ってるから興味があっただけ。あの子何者?」 「…秘密」 「でも可愛かったよな。紹介しろよ。ってか俺惚れそうだし」 「惚れたら殺す」 「はいはい判った判った。でもお前いいのか、あの子一人にしてさ。あっちで絡まれてるぞ」 弾かれたように後ろを振り向いたシャニは、向こうの方で2人の男になにやら話し掛けられている綺麗な子の姿を認めて、慌てたように走り出した。 少し走ったところで止まったシャニは、いかにもついでといった風にこちらを振り向く。 「―――お前今度会ったら覚えとけ?」 「それより可愛い子。さっさと行ってやれば」 「煩い」 最後に会ったのがそれだから、シャニのことだ、会ったら速攻一発はかまされそうだなとオルガは少々身構えていたのだけれども。それは杞憂に終わったらしい。 ただこんなにしおらしい、というか素直そうなシャニのほうが気持ち悪かった。 「お前何があったよ」 「とにかく乗れって云ってるだろ?」 「判ったって」 オルガを乗せた車は、突然猛スピードで走り出した。シャニの運転が荒いのは判るが、ここまで乱暴だった気はしない。 「おいっ…シャニ少しは手加減…」 「煩いってば。此処を抜けたら少しは緩めてやるよ」 シャニの言葉どおり、住宅街を抜けて静かな田園地帯に移ると、途端に車のスピードは緩まった。 (普通反対だろ…) ホッと一息ついたのもつかの間、シャニはどこか思いつめたような顔でオルガに向かって話し掛けてきた。 「あのさ、前会ったときに隣にいた子のこと覚えてる?」 「ああ・・・あの時のとびっきり可愛かった子?」 「そぅ。それでさ、あの子イザークって云うんだけど…絡まれてたのも覚えてる?」 「どっかのナンパ男じゃなかったのか?」 「あれが、さ。違ったんだ…本当は、イザークの大切な親友だったんだって」 「はぁ?いいんじゃないのか、親友と会うくらいなんでもないだろ。あーでも女の子に男の親友ってのもなかなか複雑ってことか?」 「オルガさぁ…基本的なところで間違いを侵してるよね。イザークは、たしかにすっごく肩幅とか狭くなったけど、男。お・と・こ。判る?」 あきれたように溜め息をつくシャニに向かって、オルガは何か投げつけたいような気分に駆られた。 スカートこそ穿いていなかったものの、あの時のイザークの服装はユニセックスで、軍にいたときもシャニがそういう嗜好の持ち主だなんて自分とは違ってついぞ聞いたことが無かったから、勝手に女の子だと想像していたのだけれど。 確かに、男だったら自分が一目惚れしそうになった理由もちゃんとつく。 「へぇ…男ねぇ…でもそれだったらますます親友と会った、とかなんでもないんじゃ」 「甘いね。世の中にはオルガみたいな奴も少なからずいるわけ。イザークとあの自称親友の関係は友達なんてもんじゃない。べったべたの肉体関係アリ」 「で、お前はそこで引き下がったと」 「んなわけ無いだろ。今でも熱烈同棲中」 「じゃあ何の問題も無いだろうが」 「だーかーら。何で俺があんな縁もゆかりも無さそうな住宅街に1人でいたと思ってる?」 「知るか」 「あーだからオルガは思いやりが足りな」 「絶対お前には云われたくねえっの」 「イザークを送ってきたんだ」 「どこに…じゃなくて誰のところに」 「イザークの親友のところに。午前様覚悟で」 閑静な住宅街の中を猛スピードで駆け抜けていく車を呆然と道端で見送っていたニコルは、風が収まるのを待って盛大に溜め息を吐いた。 「全く…非常識な…」 誰が乗っているのか全く見えなかったが、ニコルはその人物に対して人知れず眉を寄せた。 「あっ!!!ニコルだ!!!」 後ろから聞こえて来た声に振り向くと、めいいっぱい手を振りながら走って来るキラが見えた。 ニコルのほうも笑いながら、少し控えめに手を振ると、キラは嬉しそうにスピードをあげる。 「こんにちは、キラさん。お元気でした?」 「んーまぁまぁかな。そういえば、ニコルもアスランに呼ばれたの?」 「ええ。『イザークのことで話があるから』、と」 「アスラン…もう、限界なのかもね。そりゃ、僕も同じだけど…」 「また…前みたいに皆一緒に過ごせたらいいんですけど。それは…もう無理でしょうね」 「無理って…ニコル、それどういう意味」 「そのままの意味です。イザークが、僕たちの元に戻ってきたとしても、それがイコール昔どおり、と言うわけにはいかないでしょう?」 「それは…そうだけどっ。でも、イザークだって本当は」 「シャニの影を消すことは不可能です。僕らがいくらイザークと一緒にいたいと思っても、イザークがそう思っていないのなら、どうすることも出来ないでしょう?最後は、イザークが選ばないといけないんです。この…不思議な関係から抜け出すために」 そっと目を伏せたニコルは、最後に一言、付け足した。その一言だけで、キラは何も云えなくなってしまう。 「僕だってイザークと皆とずっと一緒にいたいんです。でも、その思いがイザークを縛り付けるようなことになってしまうのは…もう、たくさんだから」 ニコルとキラがザラ邸―――といってもアスラン個人の持ち物だが…に着いたとき、二人を中に招き入れたのはアスランではなく、意外にもディアッカだった。 「あれ〜、2人とも遅かったねぇ」 「そういうディアッカは早すぎますよね。アスランはどこにいるんですか?それにイザークも。靴はあったでしょう?」 「アスランはイザークと一緒にお風呂。俺が来たときには凄い顔で『洗ってこないと…!』てイザークを抱き上げて風呂場に入っていったから、なにかあったんだろ?ま、出てきたら判るだろうし」 さして興味無さそうに再びソファに寝転んでしまったディアッカを横目で見つつ、ニコルはじっと浴室の方を眺めていた。ただ、リビングには水音がかすかに漏れてくるだけだったけれども。 「あ・・・アスラン・・・?」 突然ジーンズを脱がせにかかったアスランに驚愕したイザークは、じりじりと壁に向かって後退するものの、すぐに追い詰められてしまう。 いつもと違うアスランの様子に戸惑ったイザークは、アスランと目を合わすことを一瞬躊躇った。その躊躇いが、ますますアスランの態度を硬化させているなんて、全く気付かずに。 「気付いてないと思った?イザーク、普通に歩いてるつもりなんだろうけど、やっぱり歩き方、変だったよ?何を庇ってるの」 「何も、庇ってなんか」 「じゃあ、今すぐそれ脱がしても大丈夫だよね?」 「それはっ…」 アスランは、何もかも判っていて、それで自分に云わせたいのだ。 「それはっ…出来ない」 「どうして?なんにも無いんだったら、脱ぐことくらいいつものことだろ?」 「見られたくない」 「…僕には見せられなくて、シャニには見せれるの?」 「そうじゃないけどっ…」 結局業を煮やしたアスランによって無理やり剥ぎ取られたイザークの太腿には、零れ落ちた白濁液が伝っていて、―――決定的なのは、だらりと垂れ下がった細いコード。 全てアスランにばれてしまった。 「…イザーク。どうして君は自分にこんな仕打ちをする男のところなんかにいるの?僕らは絶対にそんなことしないのに」 感情のこもらない目でそう云ったアスランを、イザークはいままでで1番、「怖い」と思った。 「綺麗に、してあげるね…?お風呂行こうか」 有無を言わさずアスランに抱きかかえられてしまったイザークは、観念したようにおとなしく従った。 其の光景を、ディアッカが堂々と傍観していたことなんて、全く気付かずに。 「アスランっ…止めて…」 「痛い?痛いって云ったら優しくしてあげる」 熱いお湯の噴き出すシャワーを頭の上から浴びせられながら、イザークはひたすらアスランの指から逃げた。 蓋の役割を果たしていたローターはとっくに外されていて、中で留まらされていたモノが一気に太腿をつたう。 それを掻き出すふりをしながら、敏感なところをわざわざ引っかこうとするアスランの指から逃げるすべなんか、すでに無いも同じだった。 痛い、と言えば優しく犯されて、云わなければ乱暴にされる。 どちらにしろ、ここで犯されることは決定しているようなものなのだ。 「痛い、よぉ…痛い…」 「そぅ…ここに「居たい」の?」 「ち、がう…」 「素直じゃないね」 そう云ったときのアスランの顔が泣きそうに歪んでいたなんて、イザークが知る日は、きっと一生来ないのだろう。 アスランは、ゆっくりとイザークの透けるような銀糸を梳いた。 手放したくなんて、なかった。だからもう、何も云えない。 「お前、馬鹿か!?」 「オルガこそ何様?こんなに心を痛めつつ告白したってのに」 心底呆れた、という風に溜め息を吐いたオルガを、シャニがきっと睨みつける。 「いや、お前やっぱり馬鹿だろ。なんだってべったべたの肉体関係アリな親友のところにわざわざ送っていったりしてるわけ!?」 「それは…イザークが望んだから…」 「お前はさ、あの子が望んだらなんでもしてやるわけ?」 「イザークがそうしたい、って云ってるのを反対できるわけないだろ!イザークが望む、数少ないことの1つなんだから…」 「お前さ、やっぱりなにか勘違いしてる。お前は、あの子の望むことを叶えてあげる、という状況に酔ってるんだよ。本当は…あの子のこと独占したいのに、それが叶わないから」 「望みを叶えてやることが、愛してるってことだろ?どこがおかしいんだよ」 「だから、そのまま全部おかしいんだって。独占したいならすればいいじゃないか」 そんなに簡単に行くわけが無いと知っていながら、そう言うオルガをシャニは一瞥した。 壊すことなんて、できるわけないじゃないか。 浴室から出てきたイザークはもちろん、アスランも生気が抜けていて、ニコルたちは様子を問うのを躊躇った。それでも訊かない訳には行かない、と三人を代表してキラが口を開いた。 「アスラン…何があったの?」 「何でもないよ…でも、今日の集まりは止めにしないか?イザーク、疲れてるみたいだから。僕も…今日はもう寝たいし。キラたちは泊まっていってくれてもかまわないよ。適当に使って」 それだけ云ったアスランは、早々にイザークを抱いて寝室に引きこもってしまった。 訳が判らない、と一様に首をかしげたが、答えが出るはずもない。 結局、泊まっていてもしかたがないから、と三人が三人とも夕食前には出て行った。 結局、誰もこのぬるま湯から抜け出すことは出来ないのだ。 独占することが出来るかなんて、誰にも判らないから、踏み出せない。 踏み出したら、なにか道は見えてくるかもしれないのに、 誰もが自分で踏み出すことを拒否しているから 結局終わらない これからもこんな日常が続いていくのだろうよ 終 シャニイザ、だんだん救いがいが無くなってきております。 というか、シャニとアスランの独占欲がうずまいてるだけというか、退廃というか。 でもこの話はここで終わりで御座います。 この話に出てくるキャラたちは、みんな自分で新しいところに踏み出すのを拒否してるんですよね。 責任を押し付けあっているのに、まるで気付かない。 今の関係は決して満足できないけれど、それでも全てなくしてしまうよりはいいんじゃないか。 どこかで、間違えたのだと思います(私が…) あとはオルガ。 好きなんですが、いまいちキャラが掴みきれないと言うか。 私の設定では可愛い子大好きです(男の子限定)女だと大人な色香が好み(おい) なんだかんだいって常夏のなかで1番(少ないながらも)常識を持ち合わせているかと。 このあとシャニの家に強引に押しかけてイザークと知り合います(笑) オルガさま(笑)はきっとシャニイザの仲を変えてくれると。ゴーイングマイウェイ。(え) |