消せない狂気と、純情と。

戦争が終わった、それはいい。

でも、でも…自分は、今何故こんなことを続けているのだろう。


と ら わ れ て   は な れ な い





愁傷恋々(しゅうしょうれんれん)






「だーかーら。そんな着飾ってどうしたの、ってば」

「だーかーら。ちょっと出かけてくるだけ」

「出かけるって、スーパー?」

「そんなとこお前が行けばいいだろ、俺にそんな趣味は無い」

「趣味って…それよりさ、そんな格好で外出歩いたらイザークなんてすぐ男に誑かされるよ」

「…男、に限定するな。女かもしれないだろ」

「突っ込んで欲しいのはそこじゃないんだけど」


家の中で1番寝心地のいいソファに陣取って、顔だけ向けて話し掛けてくるシャニに向かって、イザークはわざと大きな溜め息を吐いた。

着飾って、といってもただの黒Tシャツに洗いざらしのジーンズ。

ただ出かけるだけなのに、シャニは一体何が気に入らないのだろう。



「で、どこにいくの?」

「アスランとこ」


アスラン、という単語に過敏に反応したシャニは、がばりと起き上がると呆気に取られている

イザークをぎゅっと抱きしめた。

逃げる間も与えないほどの早業と自分より高い背に、イザークは「不貞腐れました」とでも云わんばかりにそっぽを向いた。判りやすいその仕草に、シャニは頭をぽんぽんと撫でることで答える。…勿論、神経を逆撫でする為だ。


「っ駄目駄目!ぜっっったい駄目だって」

「あ、頭撫でるなっ!…友達に会って何が悪い」

「あのさ、キスマークつけて帰る時点でそれを友達とは云わない」

「…?」

「それに。今イザークは俺のモノでしょ?」

相変わらず底の見えない笑顔のまま、それでもシャニはにやりと口元を歪めた。

「誰が、いつ、なんでお前のモノになった」

「イザークが、戦争終了後、放心状態のときに慰めてあげた。今は熱烈同棲中」

「お前のモノになったつもりはっ…あれは、あのときは」

「あの時は気の迷い?」

「…そうじゃなくて」


困ったように腕の中で首を横に振るイザークの銀糸を梳き分けて、シャニはわざわざ普段隠れているイザークの耳元で囁いた。

「判ってる。イザークはアスランのことが大好きだからね。あのときは、アスランが側にいなかったから・・・」

「違う!!!ちがう違う違う!!!!アスランとは、そんな好きとかそういうのじゃなくて。ただの友達で…」

「アスランは、絶対そう思ってない。イザークがどうやったらそんな勘違いができるのか未だによく判らないんだけどさ、普通「友達」とセックスはしないよ」

アスランとの関係を否定したものの、なにか煮え切らないような、困ったような顔をし続けるイザークに焦れたのか、シャニはイザークの顎をくいと持ち上げた。

自然と、目が合う。逸らそうとさりげなく躯を動かしかけたイザークをそのままソファに押し倒した。イザークの肩が、僅かに震えているのが見て取れても、シャニに解放してやる気は全く無い。

「じゃあ…こう?アスランのところに行く…とみせかけて他の男のところに行ってる、とか」

「女かもしれないだろ…じゃなくて。ちゃんと、アスランのところに行ってる。でも…セックスっていうのは、友達でもするものなんじゃないの?」



イザークは、シャニのあの目がたまらなく好きで、たまらなく嫌いだった。

見透かされているような、馬鹿にされているような、軽蔑されているような。

それでも、とっても綺麗だと思うのだ。…何故かは、全く判らないけれど。

その目で、ずっと見つめられると、イザークはたじたじになってしまう。いつもの、高飛車な口調が、アスランや、ニコル・ディアッカにキラの側にいるときと同じように、少し甘えたような声になってしまうのだ。

そして、それをシャニに「甘ったれ」と評されるのが1番好きだった。

…本当は、シャニの方が甘ったれだと知っているから。



「ふぅん…イザーク、それ騙されてるよ。ま、そのままでもいいけど。それよりさ、イザークはどう俺が引きとめたってアスランのとこ行っちゃうんだろ?」

「明日はニコル」

「…へぇ。激しいね。でも、一応俺は一緒に暮らしてるわけだし?所有権、あいつらに示してもいいと思わない?」

イザークは、殆ど無意識に―――もっと適切に表現するなら、催眠にでもかかったかのように頷いていた。それを見たシャニは嬉しそうにイザークの着替えたばかりのシャツに手を掛ける。

「汚すな、よ…」

「―――それは…保障できないな」







シャニと、イザークが知り合ったのは、ほんの偶然だったのだ。

ただ―――そう、ただ、街をふらふら歩いていたイザークに声をかけたのがシャニ。

ただそれだけ。

浴びるように酒を飲んでいたイザークは、一夜だけの関係を望んできた見知らぬ男に簡単についていってしまった。そのままことに及んで、そのまま朝になったら後腐れなく別れられるような。

イザークに帰るあてが無かった。だから、毎日誰かに買われて、とりあえず雨風を凌いでいたのだ。買われたお金は、全て酒に。

何故、そんな生活に陥ったのか、と言われたら、上手く答えることは出来ない。

―――ただ、家に帰りたくないことだけは確かだった。

家に帰ったら、ニコルや、ディアッカ、キラ、それにアスランの温かい目に迎えられるのが、嫌だったのだ。自分だけが、違う。四人と、根本的に道を違えてしまった。

世界中の英雄になった、アスランやキラにどの顔で会えばよいのだろう。


そんなときに、差し伸べられたシャニの手を取ることに、イザークはなんの躊躇いも無かったのだ。シャニが、元地球軍のパイロットだと聞かされても、別にそれで良かった。

柔らかいベッドと、雨風凌げる部屋、それに温かい食事の出てくる生活は悪いものじゃない。

そしてなにより、自分のことを淫乱、と言って笑うシャニの目に捕らえられて離れない。






シャニはすっかり無抵抗になったイザークのTシャツを捲りあげる。熟れた乳首を抓ると、イザークはか細い声を出した。

イザークがまるで抵抗してこないのに気を良くしたのか、シャニはするりと馴れた手つきでイザークのジーンズを下ろす。その間も、シャニはずっと片手で乳首を弄んでいた。

「先にして欲しい?それともイザからやってくれる?」

「中に入れなければ、なんでも…」

「中入れて欲しくないの?」

「だから、今日はアスランのとこ行くんだって」

「それならなおさら、中だししてもいいくらいじゃん」

「…絶対駄目。腹痛くなるし」

「中だし決定」

「うわっ…やめろってばぁ…ひぁっ」







「ねぇ、君、さ。行くところないんでしょ?毎日こんなところにいてさ。うちにこない?」

「…行く」

そんなに深い意味は無かったのだ。1日抱かれて解放されるのだろうと思っていた。

でも、シャニが云っていた意味は違ったのだ。

シャニは、一緒に暮らすことを望んでいた。どうして、売り専まがいのことをやっていたイザークと暮らしたがったのかは、今でも判らない。それでも、別に良かった。

これからも、訊くつもりは無い。



一緒に暮らし始めたシャニは、見た目に反して家事は完璧だったし、イザークに対して独占欲を露わにすることはあったけれども、基本的にイザークには優しかった。

他の人間には、とことん冷たい、というのも暮らし始めてすぐわかった。イザークに対しても、本当はそんなに優しいわけではないのかもしれない。

毎日のようにセックスをして、だらだらくっついて過ごして。

それでも、イザークにとってはつかの間の幸せを掴むような、時だったのだ。

ただ、シャニがいて、自分がいて、ひっそり暮らしていけたらそれでいい。

そう思っていた。









しかし、其れを神さまは赦してはくださらなかった。

月に二回ほどしか出ない街中のデパートで、イザークはばったりアスランとキラに見つかってしまったのだ。

2人は、イザークのことを死んだと思っていた。そう思われているなら、そのままで良かったのに。

彼らは、イザークの無事を喜んだ。

公衆の面前で、周りから注目されているのなんて、まるで気付かずに。アスランとキラは「戦争を終わらせた英雄」だ。

そんな人と、この女のような銀髪はなんの関係があるのだろう。

そういう周りの、冷たいというか興味本位の視線にイザークは堪えられなかった。

「イザーク!!!生きてたんだね!!!!ずっと探してたんだよ?」

「なんでこんなところにいるの?」

「…成り行き」

「でも!!!帰って来るよね!?今日すぐにでも」

イザークに抱きついたままそう聞いてくるキラに、イザークはゆるく首を振った。

「それは…ちょっと」

「どうして?」

「…一緒に暮らしてる人がいるから」

「イザークは、その人と俺たち…俺やキラやニコルにディアッカよりも、一緒に暮らしてる人を選ぶの?」

じっと自分を見つめてくるアスランの視線に堪えられなくなったイザークは、逃げるように下を向いた。下を向きながらも、視界の端にシャニを捉えないかと願っている自分に、イザークは溜め息をはきそうになる。

そんな、ことできないけれど。









「いや、だって…云ってる…だ、ろ」

「だから、待ち合わせに間に合うように早くやっちゃおうって云ってるだろ」

「だったら、や、め」

「其れは駄目」

話している間にも差し込んだ指をシャニがぐちゃりとかき回すたびに、イザークは肩を震わせる。

熱い吐息が、シャニの肩口にあたった。

シャニはにやりと口の端を歪めると、もったいぶって差し込んでいた指を引き抜いた。

途端に全身を強張らせるイザークの耳元に、シャニは息を吹きかける。びくりと躯が跳ね上がった隙をついて一気にイザークを突き上げた。

「ひっ…ああああああ!!」









「あんたたち、何?イザーク怖がってるじゃん」

アスランとキラに向けるシャニの視線が、今まで見たこともないほどに冷たくて、イザークは戦慄した。

それでも、シャニが来てくれてほっとしている自分に気付いて、イザークはますます自己嫌悪に陥りそうになる。

「お前こそ、何?イザークは俺たちと一緒に来るべき大切なひとなんだ。お前が、一緒にいていいようなやつじゃない」

シャニに言い返したアスランの目も、イザークが見たことの無いほどに冷たくて、イザークは下を向くしかなかった。

それすら、キラによって阻まれてしまったけれども。

「イザーク、こいつがイザークの云ってた『一緒に住んでる人』?」

こくりとイザークが頷くと、キラまで険悪な目つきになってしまって、居たたまれなくなる。

「お前が、どういう手を使ってイザークを誑かしたか知らないけどな、もうイザークはお前のところには戻らない」

「はぁ?云ってる意味が繋がらないんだけど。イザークは自分の意思で俺んちに来たの。これからもずっと俺んちにいるの」

な、と同意を求めてくるアスランとシャニの、どちらにも答えることが出来ずに、イザークはキラに助けを求めようとした。

「キラ…」

そんなイザークを察したのか、キラが2人の間に割って入った。

「ほら2人とも、イザークが喋れないでしょ、ちょっと黙って。で、イザークはどうしたいの?」

「…俺は、みんなのところには帰れない。でも…」

「でも?」

「皆が嫌いなわけじゃなくて」

「で?」

「…身勝手、って判ってるんだけど、時々、みんなのところに遊びに行きたい。…でも、皆が俺と会いたくないなら」

「会いたくないわけないだろ!!??ほんとは…今日今すぐにでも戻ってきて欲しいのに」

「ご、めん」

それっきり下を向いてしまったイザークに、何か言葉を求めるのを諦めたのか、アスランはほっと溜め息をついた。

「じゃあ、さ。俺らが呼んだら…週一回くらいは来てくれる?」

こくこくと頷いたイザークに、やっとアスランは笑顔を見せた。ずっとイザークに袖を掴まれたままだったキラも、優しくイザークの頭を撫でる。

いつもの…前会ったときのままの姿に、イザークも少しはにかんだように笑った。







「ひ…あふっ…あああん!!!」

呆気なく達してしまったイザークを眺めながら、シャニは冷静に訊ねた。

「ねぇ、イザ。中身をさ、そのまま出していくのと、ふさいで行くの、どっちがいい?」

「どっちも、い、や」

「そぅ…じゃあ塞いでいこうか」

いっそう深くに突上げてくるシャニから与えられる快楽に、イザークは嫌ということすらままならない。

そのままシャニも絶頂に達してしまった。どろり、と白濁色の液がイザークの太腿をつたい落ちる。

「うっ…ぃあ・・・」

側の引き出しからシャニが取り出したものを視界の端に捉えたイザークは、もがいて逃げようとする。

…それが赦されるほど、シャニは甘くなかったけれど。

「え?そんなに早く入れて欲しい?」

シャニが手の中に掲げていたのは、以前使われたことのあるピンク色のローターだった。

引き抜かれたと同時に、ローターを埋め込まれて、シャニの精液はそのまま閉じ込められるような形になってしまう。

「鬼じゃないからね、動かしたりしないよ。アスランとこの前まで連れて行ってあげるし?」



それはつまり、アスランのところに行くまでローターを外してしまうのを赦さない、ということで。



脱がされたジーンズを直しているうちに、イザークはまた大仰に溜め息をついた。







ああ、やっぱり逃れられないのだ。
そして、自分はこんな生活を望んでいる。









終わり…?(死)
シャニイザには、常に他の四人の影があります。
シャニはいつも飄々としてるけど、本当はイザークのことを独占したい。
でも、其れを云うと全て失ってしまうことを知ってるから、いえないんですよね。
…独占欲はアスランとタメを張ってると思います(笑)
ってか、続きはないです、この話(多分)この後のアスランとか面白そうですが。(そうでもない)