イザークがふと目を覚ますと、そこは見慣れない部屋の中だった。 「あ、目が覚めた?」 どこからか戻ってきたらしいキラが、イザークの顔を覗き込んでくる。 その顔を見て、ここはキラの部屋なのだと、イザークはぼんやりと知ることができた。 キラは持ってきたものをサイドテーブルに載せると、イザークの額に手を当てて熱を測る。 「まだ熱いね。どこがつらい?」 「全部」 「え〜っと、具体的にはどこなのか、教えて欲しいんだけど・・・」 「頭と・・・、のど。あと、体が動かない」 しゃべるだけでも億劫なのか、ほんの少しで息が切れる。 熱のためなのか、色白のイザークの肌はピンク色に染まっている。 「やっぱり、ドクターにちゃんと見てもらったほうがいいのかなぁ」 廊下で、しかも目の前でいきなり倒れてしまったイザークを見て、あわてて一番近くにあった自室へと運びこんできた。 医務室に連れて行くことも考えたが、イザークの医務室嫌いはヴェサリウス内でもすごく有名で、よほどのことがない限り近づこうともしない。 本人いわく、薬品の匂いがきらいなのだそうだが。 考え込んでしまったキラの服をイザークが引っ張る。 「何?イザーク」 「別に、平気だから。寝ていれば、治るし」 「でもね・・・」 「平気」 絶対に行きたくないと態度で示すイザークに、キラはあきらめるしかなかった。 「でも、せめて薬は飲んでもらうからね。朝食は何時ごろ食べた?」 「別に、食べなくてもかまわないだろう?」 「・・・・食べてないんだね。だろうと思ったよ。おかゆ作ってきたからそれ食べて薬飲もう」 「薬は、嫌いだ」 「でも、飲まなきゃ治らないでしょ?」 「・・・・」 キラはイザークの体を起こすと、おかゆをイザークの正面においてスプーンを差し出した。 だが、イザークは手に力が入らないらしく、スプーンを取り落としてしまう。 「あ・・・・」 「新しいの、持って来るね」 「いらない、食べたくないし」 どうせ新しいものを持ってきたとしても同じことになるだろうことは、自分のことだからよくわかる。 イザークはふいと顔を背けると、またベッドに横になってしまった。 ほんの少し体を起こしただけなのに、こんなに体力を消耗してしまっている。 これでは、食べるよりも寝ているほうが早く治るのではないか。 キラはそんなイザークを見て、ふと考え込んでから新しいスプーンを取りに行った。 「ほら、イザーク起きて」 「嫌だ」 「もう、ほら!」 そういって無理やり体を起こすと、キラはベッドに腰掛けた自分に寄りかからせるようにイザークを座らせた。 はたからみると、キラがイザークを抱きかかえている状態だ。 「な・・・・」 「だってイザーク座っているだけでつらいんでしょう?でも食べないと治らないし。こっちのほうが楽でしょう?」 確かに、ただ自分で座っているよりもずいぶん楽だが。 この格好は、他のやつには見られたくないな。 「はい、イザークあ〜んして」 キラの言葉に、イザークはキラが差し出してくるスプーンのおかゆとキラの顔を交互に見つめる。 「自分で食べれないんでしょう?だから、ね?」 はい、と差出てくるものをイザークは仕方がない、という風な様子で口にした。 ようやく食べてくれたイザークにホッとしながら、キラは少しずつあわてないようにイザークの口元へと運んだ。
少しずつ食べてくれているのだが、やはり半分も食べないうちにもういらないという風に顔を背けてしまった。 「イザーク、もうちょっとだけ食べよう、ね?」 「いらない」 キラはしかたなくあきらめると、おかゆを再びサイドテーブルに戻して薬と水を取り出した。 が、それを見たイザークの顔は嫌そうにゆがむ。 そういえば、薬、大っ嫌いなんだっけ。 だからといっても、飲まないわけにはいかない。 せっかくそのために食事もしたんだし。 「イザーク・・・」 「薬は絶対に飲まないからな」 と、先手を打たれてしまった。 カプセルなんだから、別にどうってことないと思うんだけどなぁ。 イザークはキラから体を離すとそのままベッドに横になってしまった。 少しお腹が膨れてきたので眠くなったのか、瞼をこすっている。 う〜んと考えてから、キラはいいことを思いついた。 イザーク、嫌がるかなぁ。 いや、でも、これもイザークのためなんだしね。 キラはそう自己完結すると、水と薬を自分の口に放り込むと、そのままイザークに深く口付けた。 「ん、んんん〜〜」 いきなりのことに驚いたイザークを尻目にキラは薬をイザークの口に移すと、それを飲み込むまでずっと口を合わせていた。 イザークが飲みこんだことを確認したキラは、そっと唇を離した。 「これで多分、明日にはよくなっているから」 「・・・・・・馬鹿・・・・」 顔を真っ赤にしてつぶやくと、そのまま布団を頭まで被って不貞寝してしまった。 よほど、今の口付けが恥ずかしかったらしい。 そんなイザークに苦笑すると、キラは食器を片付けるために部屋を出て行こうとした。 が・・・。 「どこへ行くんだ?」 その気配に敏感に反応したイザークが言った。 「これ、片付けてくるんだ」 「病人をほうっておく気か?」 イザークの言葉に、キラは耳を疑う。 今のせりふは、言い換えてしまえば側にいて、ということではないだろうか。 おそらく、イザークの顔は今も真っ赤に染まっているだろう。 それも、おそらくは熱のせいだけではなく。 キラはふっと微笑むと、また同じようにベッドに腰掛けてイザークの体を布団の上からポンポンと叩いた。 「確かに、病人を残してはいけないね。僕はここにいるから、眠りなよ」 「ふん、別におまえにそばにいてもらわなくてもいい」 「僕が、イザークの側にいたいんだよ」 ポンポンと一定のリズムで叩いていると、イザークからは小さく寝息が聞こえてきた。 それでもかわらず、キラはイザークの側についていた。
そういわないと、多分君はすねるだろうから。 だから、今は側にいるね、君が眠ってからもずっと。 君が、いつ目を覚ましてもいいように・・・・。 だから、早く元気になってね。 また、君の元気な姿が見たいから。
〜あとがき〜 なんっか微妙! |