イザークは部屋の中に漂う薬品の匂いに気づき、目を覚ました。

でも、体が自由にならない。

何かが体の上に乗っているみたいだ。

 

「お、イザーク目が覚めたか?」

声がしたほうに視線だけ動かすと、ベッドのすぐ側にはディアッカが座っていた。

「大丈夫か?」

「み・・・ず・・」

「水か?」

コクンとうなづけば、ディアッカは側にあった水差しをイザークの口元に運ぶ。

だが急に飲み込んだ水に、イザークは激しく咳き込んでしまう。

体を丸めて苦しそうにするイザークの背を、ディアッカはやさしく撫でる。

「ほらほら、あわてるからだ。ゆっくりでいいんだ、ゆっくりで」

そういうと、もう一度イザークの口元に水差しを差し出した。

今度はゆっくりと、少しずつ飲み込んでいく。

しばらくすると、イザークはもういいというように顔を背けた。

「何で・・・お前が・・・」

「ん?なんでって、お前が俺の目の前で倒れたからだよ。そりゃもう驚いた驚いた」

ふざけた口調で答えながらも、ディアッカはイザークの額に手を当ててみる。

 

大分熱も下がったようだが、イザークはもともと体温低いからなぁ。

やっぱり体はまだだるいんだろうな。

 

「とりあえずドクターが薬打ってくれたから、熱が下がるまで大人しくしてろよ」

イザークはディアッカの言葉に素直にうなづくと、再び目を閉じた。

 

 

ふと、側で小さな話し声が聞こえたような気がした。

鬱陶しげに目を開くとディアッカと誰かが話しているのが見えた。

「ディ・・・ア?」

「イザーク、起こしちまったか?」

イザークが声をかけると、相手はまた部屋の外に出て行ってしまった。

「ど・・・した?」

「ああ。もうすぐ作戦会議の時間なんだ。俺は行くからこの場をドクターに・・・」

ディアッカの言葉をさえぎるように、イザークはディアッカの軍服の端を掴む。

そして、だるい体を無理やり起こそうとした。

ディアッカはあわててイザークの体を元のように寝かせる。

「こらイザーク、無理するんじゃないって」

「俺も・・・行く」

「あ?」

「会議、俺も行く」

「何言ってるんだよ、そんな体で。無理だって」

「行く」

イザークは頑固にそう言い張ると、また体を起こそうとする。

だが、すぐに力が入らなくて、ベッドに倒れこんでしまう。

でも、掴んでいるディアッカの服から手を離そうとはしなかった。

「大人しく寝とけって」

「・・・は、嫌・・・だ」

「はい?」

「一人は・・・嫌だ」

それだけつぶやくと、驚いたことにイザークはボロボロと涙をこぼして泣き出してしまった。

いきなりのことに、ディアッカはイザークを凝視する。

過去何度、イザークの泣き顔などを見たことがあっただろうか。

ふっとため息をつくと、イザークの体を支え、ギュッと抱きしめてやる。

ポンポンと背をあやすように叩いてやれば、安心したように力を抜いてしがみついてくる。泣き顔を見られないように肩口におしつけて。

「どうした?俺はここにいるぞ?」

「一人になるのは嫌だ」

いつもなら決して弱音をはかないイザーク。

病気のせいで、気が弱くなっているのかもしれない。

「なに弱気になっているんだよ。らしくないぜ、イザーク」

「うるさい」

言葉はいつもと変わらないのに、態度はひどく弱弱しくて、かわいらしい。

「ほら、それじゃ寝るまで側にいてやるから、な?」

「やだ」

「あのな〜」

普段だったら我侭などは適当に流してやることができるのだが、今のようなかわいくわがままをいわれたりしたら、むげに突き放すこともできないではないか。

ディアッカはイザークの体を離すと、ゆっくりと体を横たえた。

イザークはそんなディアッカを不安そうに見上げる。

「ちゃんと体を休めるんだ。でないと、治るものも治らないだろ」

「・・・・・」

「んな泣きそうな顔しなくたって、俺はここにいてやるって」

「・・・・・」

ディアッカの言葉を信用していないのか、イザークはじっとディアッカの顔を見上げている。

ディアッカはそっとイザークの手を握った。

「こうしとけばさ、俺がいなくなったらすぐに分かるだろう?だから、眠れよ」

「本当だな」

「ああ」

「嘘じゃないな」

「もちろん」

イザークはディアッカとつないでいる手を引き寄せると、両手で包むように握り締めた。

そのまま、安心したように目を閉じる。

しばらくすると、イザークからは静かな寝息が聞こえてきた。

「ったく、こんな寝顔見せられたんじゃ、離れたくても離れられねぇよ」

そうつぶやくと、ディアッカはイザークの髪を梳いてふっと微笑んだ。

 

 

〜おまけ〜

「会議に来ないと思っていたら」

「こんなところにいたんですね、この二人」

「ディアッカめ〜、おいしい役目独り占めにして〜!」

あくまで小声で話す3人。

その目の前にはベッドで眠るイザークとその横で手を握られて座って寝ているディアッカの姿があった。

病人を起こすわけにもいかないので、3人は心の底からディアッカをうらやましがったという。

 

 

〜あとがき〜

イザーク病気ネタでディア看病です。
なんとなくディアイザを書いてみたのですけど、なんか・・・変?
でも、病気になると涙もろくなるとか、気弱になるとかってありますし。
これでいいかなぁなんて。

あ、イザークは病気だからしかたがないんですけど、ディアッカはこのあと会議をサボった罰として、船艦内の掃除を命じられたそうです(笑

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