彼は今どうしているのだろうか。

たった一人、ザフトに残してきてしまった、彼は・・・・。

 

 

想い人は遥か彼方

 

 

アスランはエターナルの最終調整を手伝うために、ジャスティスとともにエターナルに来ていた。

エターナル、クサナギ、アークエンジェルが合流してはや3日。

目的としているオーブのコロニーはまだ先だ。

本当に、今思えば不思議なのかもしれない。

敵対していたザフトの軍人であった自分が、ナチュラルとともにいるなんて。

それだけ、自分も、自分の考え方も変わった証拠かもしれないが。

 

「アスラン」

 

声をかけられて振り向くと、キラがこちらに近づいてきた。

さきほどまでラクスとともにいたと思ったのだが。どうやらキラの方の仕事も終わったらしい。

 

「おつかれさまキラ。そっちはどう?」

「うん、なんとかね。あとはバルトフェルドさん達に任せておけば大丈夫だと思うよ」

 

一緒に戦うべき仲間。

同じ方向を目指し、背中を預けることができる人々。

今のザフトは、自分の敵。

 

「どうしたの?ボーっとして、めずらしいね」

「あ、うん・・・・。まぁ、ね」

 

気づかないうちにいつも考えるのは、ただ一人ザフトに残してきてしまった彼のこと。

今頃どうしているのだろうか。

自分の裏切りは、すでに彼にも伝えられているのだろう。

軽蔑、されているのだろう。

それとも、少しは自分のことを心配してくれているのだろうか。

 

「アスラン、本当にどうしたの?具合悪い?」

「あ、ごめん。ちょっと・・・、ザフトに取り残してきた人のことを思い出してね」

「ザフトに?・・・・同じクルーゼ隊の人?」

「うん、そうだよ」

「そう・・・。どんな人?」

「そうだなぁ」

 

彼は・・・、いつも気高くて、綺麗で。

本当は弱い部分もあるのに、それを人に見せまいと一生懸命で。

だからこそ、美しかったのかもしれない。

 

「へぇ。アスランの、大切な人なんだ?」

「大切・・・か。うん、そうだね。なによりも、誰よりも大切な人」

 

でも、今はどうなのだろうか。

自分は今でも彼のことを想っている。

それはこれまでもこれからも、変わることはないだろう。

でも、彼は?

裏切り者の自分のことを今でも想ってくれているのだろうか。

 

「じゃ、どうしてその人を置いてきてしまったの?」

「どうして、なんだろうね」

 

できることなら、彼も連れてきたかった。

でも、それを彼は承諾してはくれなかっただろう。軍人気質の彼のことだから。

 

「多分、俺の我侭なんだと思う」

「我侭?」

「そう。彼のことを連れてきたかったのは本当。でも、いざってときに拒否されるかもって思うと、怖かったんだと思う」

「拒否されるのが怖いほど、その人のことが好きなんだ・・・」

「俺にとって、唯一無二の、大切な人だよ」

 

そう、大切な人。

だから、彼には幸せになって欲しいんだ。

自分がどうなろうとも関係ない。ただ、彼だけが幸せであってくれたなら、それでいい。

 

「大丈夫だよ、アスラン」

 

キラがばしっと背中を叩いてそういった。

結構力が入っていたのか、ジンジンと叩かれた背中が痛む。

恨めしそうに振り返ると、にっこりと笑ってキラは言った。

 

「大丈夫って、何が?」

「アスランと、その大切な人のこと。今は敵なのかもしれないけど、いつかは分かり合えるはずだから」

「そんな保障はどこにもないじゃないか」

「保障はなくても、確証はあるじゃない?」

 

キラが俺と自分を交互に指差して言った。

キラと俺?

それが確証?

 

「僕達、大切な友達だったのに、再会したときはすでに敵だった。でも、今はこうして肩を並べることができている。また友達に戻れたんだ」

「そう・・だな」

「だから、きっとその人とも大丈夫だよ。アスランなら、ちゃんと乗り越えられる」

 

本当にそうなのだろうか?

確かにキラと俺は元通りの親友に戻ることができた。

でも、それが彼とも当てはまるとは限らない。

もし、彼と分かり合えることができなかったら、どうしたらいいのだろうか。

 

「そんなに心配していると、そのことが現実になっちゃうよ」

「現実・・・・・」

「そう。嫌な結果は考えない。自分が望み願う未来だけを考えるんだ。それは力となり、現実となるはずだから」

「自分が望み願う未来・・・・」

「今はただその未来を実現させるために、この戦争を早く終わらせようよ」

「そうだな」

 

自分が望む未来・・・。

コーディネーターやナチュラルなんて関係なく暮らしていける、そんな世界。

争いも憎しみもない。

そんな理想郷があるはずはないけれど、それでも望んでしまう。

彼とともに生きていける未来を。

 

「がんばらなきゃ。今それができるのは、多分この宇宙上で僕達だけなんだから」

「ああ、がんばらなければ・・・・」

 

許してもらえるかじゃない。

分かってもらえるか、だ。

自分のこの気持ちは、絶対に彼にも伝わると信じているから。

俺の気持ちも伝わっていると、信じていたいから。

 

「アスランとその人が、またともに歩める日が、必ず来るよ」

 

そういうと、キラはにっこり笑ってその場から立ち去った。

再び宇宙空間に目を戻すと、なぜだろう、変わらないはずの宇宙空間が、なぜか変わって見えた。

絶望に映る宇宙が。

希望に満ちた宇宙へ。

 

 

ねぇ、イザーク?

君とはいつ会えるのだろうか。

どうしてだろう。

今、無性に君に会いたいよ。

 

 

 

〜あとがき〜

秘めさまからいただきました、「アスイザ前提アスキラ」です。
といっても、この話の流れ上、イザークは出てきません。

というか、イザークという名前が出てきたのもラストだけ。
これは、なんとなくアスランの心理上の問題かなぁと思います。
名前を呼べない苦しみが、アスランの中にあるのではないかなぁと思いまして。

秘めさま、遅くなりましたが、いかがでしょうか?
感想、お待ちしております。