「イザーク起きて。朝だよ」 「ん〜」 キラはいつものように朝イザークの家に彼を起こしに来ていた。 イザークとキラは幼馴染で、SEED学園に通っている。 だが、イザークは寝起きが悪く、隣の家に住んでいるキラは毎朝イザークを起こしに来ていた。 といっても、そう簡単におきてくれるわけではない。 一度声を掛けたぐらいでは起きないのだ。 「ほら、イザーク。起きるの。学校遅刻しちゃうよ」 そういって、彼の布団を取りのぞき、体を無理やり起こす。 「ん〜・・・」 「起きた?」 眠そうに目をこすりながら、コクリとうなづく。 「おはよう、イザーク」 「おはよ・・・、キラ」 そういうと、イザークは側にあるキラの頬にちゅっとキスをした。 おはようのキス。 誰にも内緒で、昔から続けている2人だけの秘密だった。 キラは満足そうに笑うと、机の上に置いてあるイザークの鞄の中に必要な教科書などをつめていく。 これもずっと前からの習慣。 次の日必要なものは、前日にイザークと同じクラスの幼馴染、ディアッカに聞いてある。 寝ぼけているイザークに用意をさせたのでは遅刻&忘れ物だらけになってしまうから。 鞄を用意できてイザークの方を見ると、案の定、座ったまま眠っている彼の姿が目に入る。 キラは軽くため息をつきながら壁に掛けられているイザークの制服を手に取った。
「おはようございます」 「あ、おはようキラくん。・・・、また迷惑かけたみたいね」 キラに手を引かれながら食堂に下りてきた自分の息子を前にエザリアはため息をついた。 「まぁしかたないですよ。イザーク低血圧ですし」 「それもそうだけど・・・。イザーク、いい加減に起きなさい」 「・・・・起きてます」 と返してくるイザークだが、目はほとんど開いていない状態だし、今もキラの支えがなければ倒れているかもしれない。 「エザリアさん、イザーク昨日遅かったんです?」 いつもよりも眠そうなイザークを見て、キラはエザリアに尋ねた。 「そう。課題が多かったみたいでね。いつもより遅くまで起きていたみたい。でも、これじゃね」 この調子だと、学校に着いても眠っていそうなくらいだ。 キラはイザークの目を覚まさせるためにコーヒーを手渡した。 だが、それも毎朝やっていることなので、体が慣れてしまったのか、飲み干しても眠そうなのはかわらない。 イザークは朝は飲み物ぐらいしか取らない。本人は朝はお腹がすいていないといっているが、本当は食べるぐらいなら寝ていたいのだろう。 「あ、そろそろ行ってきますね。遅刻しちゃう」 「もうそんな時間なの?じゃキラ君、息子のことお願いね」 「ええ。行ってきます」 キラはイザークの手を引いて家を出た。 そこにはディアッカ、ニコル、アスランの3人が待っていた。 彼らもキラとイザークの幼馴染で、毎朝一緒に登校しているのだ。 「おはようみんな」 「おはよう、キラ、イザーク」 「おはようございます」 「イザーク、今日はやけに眠そうだな」 キラに寄りかかったまま、また眠ろうとして目を閉じているイザークを見て、ディアッカが言う。 その手からは自分の荷物が滑り落ちてしまった。 「ああ、もう。ディアッカ、イザークの荷物持ってあげて」 「ああ」 ディアッカはイザークが落とした荷物をすべて片手にまとめて持つ。 「じゃ、僕はこっちね」 といって、アスランはキラの持っていた鞄などの荷物を持ってくれた。 「ありがとうアスラン。じゃ、行こう」 「ああ」
5人が駅に着くと、駅の中はいつもの2倍は人がいるかというほど人にあふれていた。 「なにこれ」 「どうなっているんだ?」 「・・・・・・」 「あ、きっとあれのせいですね」 「ん?」 ニコルがさした方向にあるのは、一つの旗。 『SEED学園中等部、旅行研究会ご一行様』 今日はSEED学園の中等部の修学旅行の日だったことをすっかり忘れていた。 よく見ると知っている顔がちらほら。 先生達も、他のお客の迷惑になっているのが分かっているのか、必死で生徒達を並ばせようとしているらしいが、中等部の生徒は嬉しいのと興奮しているのでなかなか言うことを聞く素振りがない。 「どうするよ、これ」 この団体を潜り抜けて駅の中に入っていくのはかなり困難といっていい。 目の前には人、人、人。 空いているスペースがまったく見当たらないのだ。 「僕達は大丈夫だけど、イザークは無理、だよね」 ただでさえ寝ぼけているイザークだ。 いくらキラが手を引いているからといって、この人ごみを無事に通過することは困難といってもいい。
5人が声の方を見ると、そこには一台の車があり、中に乗っているのは 「クルーゼ理事長」 「フラガ校長」 おはようございます、と4人は2人に頭を下げた。 「おはようさん。で、何やってんだお前さんら」 「それが・・・・」 ああいう状態で、と駅の方をさすと、フラガもすぐに状況を飲み込めたらしい。 「あ〜、うちの中等部の修学旅行か。でも、あれぐらい潜り抜けられるだろうに」 「いえ、僕達は大丈夫なんですが・・・・」 アスランはそういうとイザークを見た。 イザークはキラの腕を支えに今もゆっくり船をこいでいる。 これはもう完全に眠りの体制に入ってしまっているだろう。これでは駅の中を突破どころか、歩いて学園に行くこと自体、無理のような気がする。 「あらら〜、完璧に寝てるのね」 「ムウ、2人ぐらいならば乗れるだろう」 「あ、ああ。そうだな。キラ、イザーク連れて後ろ乗れ」 「え?」 「そんなイザーク連れていたんじゃ、どっちみち遅刻だろう。5人も連れて行けないが、2人ならなんとかなるし。後の3人はそのまま行け」 すでに決まったことのように言って、フラガは車のロックを解除する。 「え、でも・・・」 いいんですか?と遠慮するキラの背中を押したのはアスランだった。 「キラ、いいからお言葉に甘えなよ。確かにこのままじゃみんな遅刻しちゃうんだから」 「そうですよ、僕達はこのままいつもどおり向かいますから」 「学校でな」 そういうと、3人は車の後部座席にイザークとキラを入れて、一緒に2人の荷物を放り込むとそのまま学校へ行くべく駅の中へと入っていった。 「んじゃ、行くぞ」 「お願いします」 フラガはゆっくりと車を進める。 車の一定のリズムが心地いいのか、イザークは本格的に眠りに入りそうだ。 「イザ、すぐに学園着くんだから眠っちゃだめだよ」 「ん〜・・・・」 だめそうだな。 車の中でなんとか目を覚まさせようとしたが、無理のようだ。 「起きないのか?」 「みたいです。どうしようかなぁ」 「まぁいいじゃないの。そのうち起きるでしょう」 そのうちねぇ。 「・・・・キラ・・・・」 「イザ?」 名前が呼ばれてイザークの顔を覗き込んだが、イザークはずっと眠り続けたままだ。 今まで以上に深い眠りに陥ったようだ。 その証拠に、横にいるキラの腕に両腕を絡ませて抱き枕状態にしてしまっている。 「仲がいいんだなぁ」 「はぁ」 さすがにここまでぐっすりと眠っているイザークを起こすのは忍びなくなってくる。 でも起こさないわけにはいかないし・・・・。 しかたない、学園に着くまでの時間だけは、ぐっすり眠らせてあげよう。 ほんの少しだけでも、彼に幸せな時間を・・・・・。
あとがき 暁 鈴音さまからいただいたリクエスト「キライザ」「幼馴染」ものです。 暁さん、気に入っていただけましたでしょうか? ブラウザにてお戻りください。 |