『めずらしいね、イザークから連絡くれるなんて』 「まぁな」 イザークはふと思い立ってザフト本部へと連絡を入れてみた。 すぐにキラ、アスラン、ニコルが画面前へと姿を現してくれた。 だが、そこにはディアッカの姿がなかった。 『やっぱり、まだ戻ってないんだよね』 『ほんとに、なんでだろう』 『いい加減に、つらいですね。イザークにこうまで会えないのは』 と、おもむろにみんなため息をついている。 ほとほと精神的にも参っているようなのだが、それはイザークとて同じである。 「みんな、元気そうだな」 『まぁね。イザークが抜けた穴は大きいし。僕達がしっかりがんばらないと』 「そうか・・・。あの・・・・、ディアッカ、どうしてる?」 どうして、この場にディアッカがいないのか。 もしかすると、本格的に嫌われてしまったのか。 『あれ?イザークも聞いていないんですか?ディアッカ、昨日急に休暇出してどこかに行っちゃったんですよ』 『そう。俺たちは後から知らされたんだ。理由を知ろうにも、クルーゼ隊長も教えてはくださらないし』 『てっきり、イザークなら聞いていると思ったんだけどな』 「知ら・・ない。何も聞いていない」 『そう・・・。あ!もう訓練の時間だ。もう少し話していたいのに』 「そうか。うん、行って来い。がんばってな」 『ありがとう。じゃ、イザークまたね』 『行ってきますね』 『また連絡くれよ』 「ああ」 通信を切ったイザークはおもむろにため息をついた。 今回の通信だって、本当はディアッカの顔を一目見たかったからのものだったのに。 それなのに、ディアッカはいなくて。 どこかに行くときは、必ず自分のところに連絡を入れてくれていた。 仕事で離れている時だって、きちんと連絡を入れてくれていたのに。 なのに、どうして今回はこうも何も知らせてはくれないのだろうか。 本当に、嫌われてしまったのかもしれない。 「ふ・・・・・うぇ・・・・・・」 一人だということに心の栓も外れたのか、自然と涙があふれてくる。 ぬぐってもぬぐってもあふれてくる涙に、イザークはどうしていいか分からなかった。 イザークが泣いたときは、決まって涙を止めてくれるのはいつもディアッカだったから。 「ディアッカ・・・・・ディア・・・・。・・・・・会いたいよ・・・・」
幻聴かと思うような言葉とともに、イザークの体を包んでくれる大きな腕がそばにあった。 イザークは、この腕のぬくもりを知っている。 でも、振り向いたとたんに消えてなくなってしまったらという思いが、イザークの体を硬直させた。 「イザ?どうした?」 耳元でささやかれる言葉に、恐る恐る振り向く。 「・・・・・・っ!」 そこには、ずっと会いたかった人が・・・・、ディアッカが、いた。 「あ〜あ、またこんなに泣いて。目が腫れるぞ?ほら、泣き止めって」 そういって抱きしめながらイザークの涙をぬぐう。 その間、イザークはじっとディアッカの顔を凝視していた。 「どうしたんだよ、ボーっとして」 「・・・・・・ディアッカ?」 「ん?」 「・・・・・ほんとうに、ディアッカなのか?」 「それ以外の何に見えるんだよ、この俺が」 こんな言葉で自分に向かってしゃべるのは、確かにディアッカしかいなくて。 イザークはまた涙をながした。 「また泣く」 ディアッカの胸に顔をうずめると、イザークはぎゅっとしがみついて声を上げて泣き始めた。 ディアッカも分かっているとでも言うように、しっかりとイザークを抱きしめた。
「落ち着いたか?」 コクリとうなづくイザークはいまだにディアッカにしっかりと抱きついている。 でも、もう涙は流れていなかった。 「それで、どうして泣いていたんだよ」 「・・・・・・」 「もしかして、俺に会えなくて寂しかったとか?」 そんなわけないだろう!と返ってくる言葉を想像していたのとは裏腹に、イザークは顔を真っ赤に染めてうつむいた。 「・・・・かった」 「何?」 「寂しかったし、つらかった!おま・・・おまえ連絡の一つもよこさないし、俺がメール送っても返してくれないし、もしかしたら嫌われたんじゃないかと・・・・俺は!俺は・・・・・」 イザークの言葉に少し驚いたが、ふっと笑うと同時にイザークの体を再び抱きしめた。 「会いたかったし、声も聞きたかった・・・。けど、おまえ連絡くれないし、さっきだって、ディアッカは出かけたってみんな言ってたし、もう、嫌われたんだと俺は・・・・・」 「嫌いなわけないじゃんか。馬鹿だな、イザークは」 「俺より、お前の方が馬鹿だ!」 「ああ、そうだな。馬鹿は俺だよ。ごめんな」 優しい、いつもと変わらないディアッカの態度に、イザークの頬をまた涙が流れる。 いつから、自分はこんなにも涙もろくなってしまったのだろうか。 それもこれも、全部ディアッカのせいだ! 「だから泣くなって」 そういってイザークの目元にディアッカは唇を近づけて涙をそっとぬぐう。 そのまま頬をなぞり、唇へとたどり着く。 「ん・・・・・」 最初は軽く触れるだけだったキスが、しだいに深いものへと変わる。 ディアッカの舌がイザークの舌に触れる。 「っ!ディアッカ・・・っ!」 そのとき、今まで大人しかったイザークの体が大きく振るえ、力を込めてディアッカとの体の距離を離そうする。 今まで従順だったのに、いきなり抵抗されてディアッカは思わず唇を離した。 「イザーク?」 「あ・・・・・」 そこで初めて自分の行動が分かったのか、イザークはディアッカの体を押している自分の腕とディアッカの顔を見比べる。 「わりぃ、嫌だったか?」 「ち、違う!」 ディアッカに触れられて嬉しかった。 すごく久しぶりにされたキスは、本当に心地よくて。 でも、ディアッカが中に入ってきた瞬間、なぜか体がおかしくなってしまったような気がした。 「イザーク?」 「なんか・・・変なんだ。嬉しいのに、体がおかしい。キスされてると、体が苦しくなるみたいな感じがして・・・・」 「体が?」 「うん・・・・」 「もしかして、感じている?」 「ば・・・・・っ!」 イザークの顔が一瞬にして朱に染まる。 そんなイザークがおかしくてかわいくて。 ディアッカは再びイザークを抱きしめると、そのままキスを落とした。 「おかしくなればいい。俺がここにいるんだからな」 「ディア・・・・、んん・・・・・っ」 必死に体を離そうとするイザークの力をものともせずに、ディアッカはイザークにキスを繰り返す。 と、ふと抱きしめているイザークの体に変化があることに気づいた。 (ん?) 抱いている感触が、どんどん変化しているような感じがする。 そっと目を開けて見ると、イザークの顔に特に変化はなく、ただ力の入らない手でディアッカの服を掴み、キスに夢中になって瞳を閉じている。 でも、そうしているうちにもどんどんイザークの変わっているような感じがする。 (もしかしたら・・・・) ディアッカはある予測にたどり着くと、それまで以上にイザークを強く抱きしめた。
どれぐらいそうしていただろうか。 イザークの体の変化が止まったと思ったところで、そっと唇を離した。 「ん・・・・・・」 力の抜け切ったイザークはそのままディアッカにくてっとよりかかる。 息の上がっている肩も、朱に染まっている頬も非常に魅力的なのだが、ディアッカはイザークの体の変化に気づいていた。 「イザーク」 「な・・・に?」 「よかったな」 「なに・・・が?」 「体。元、戻っているぞ」 「え!?」 イザークはすぐに自分の体をパタパタと触る。 確かに、筋肉の付きかたが変わっているような気がする。 それに、決定的なのは、さっきまであった胸のふくらみがなくなっている。 「戻った・・・のか?」 「ああ。よかったな、イザーク」 「で、でも・・なんで?」 「さあ。まぁ、お姫様の魔法を解くのは王子様の役目ってことじゃないの?」 「誰が姫で誰が王子なんだよ」 「さてね」 そうつぶやくと、ディアッカはそっとイザークの体を抱きしめた。 イザークも安心するように体を預け、背中に腕を回す。 久しぶりの、イザークの抱き心地。 女の体は確かに心地よかったかもしれないが、こちらの方が馴染む。 やっと、イザークが自分のところに帰ってきてくれたと思えた。
・・・・・後日。 ヴェサリウスの一室でなにやら一人資料を見ている人物がいた。 「なるほど、あの薬の効き目は愛する者とのキスで切れるということか。・・・ふむ、やはりイザークで試したのは正解だったようだな」 くるくると怪しげな小瓶を手に取る。 「それにしても、仮面を外しただけで私がわからないとは。なんというものかな。まぁそれがイザークのかわいいところなのかもしれないがな」 そう一人で笑う、今回の黒幕だった。
〜あとがき〜 ディアイザ、イザ女の子になっちゃいました!?です。 |