温かい腕・・・。

確かに、この腕のぬくもりをキラは知っている。・・・・・間違える、わけがない・・・。

 

「どう・・・して・・・」

「こうしていれば、お前の顔は見えないから」

だから、後ろから抱きしめた。

強く。強く・・・。

 

 

イザークは、本当はこの部屋から出て行っては居なかった。

なぜだかわからないが、キラをそのまま一人部屋に残して帰ることなど、イザークにはできなかった。

いや、したくなかったのだ。

キラが、何かを心のうちに秘めている。

そう感じたから。

 

『・・でも、・・・いえない・・・もん・・・・』

『・・・僕だけ・・・見、なん・・て・・・、いえない・・もん・・・』

『好き・・・なのに・・・・』

 

自分が部屋に居ないと思われていたときにこぼれた、キラの言葉。

部屋に一人だと思ったからこそ、キラはつぶやきイザークが聞くことができた、恐らくはキラの心の中にある本心。

 

抱きしめてやりたいと思った。

 

普段キラが胸のうちに溜め込み、絶対にイザークに聞かせようとしない言葉。

今までキラがどれだけの思いを耐えてきてくれたのか、イザークには計り知れないのかもしれない。

だからこそ、イザークはキラの体を抱きしめたかった。

今、自分はここにいるのだと。

キラの側に居るのだと、伝えたくて。

「ごめ・・なさ・・・・」

「謝るな、分かっているから。俺のほうこそ何もわかってやれなくて・・・」

すまない、と耳元でつぶやくとキラは頭を横に振ると体を反転させてイザークの胸に顔をうずめた。

イザークの背に腕を回してぎゅっと抱きつくと、イザークもそれに答えるようにキラの体を抱きしめた。

 

 

今は言葉はいらない。

互いのぬくもりだけ、互いの存在がここにあれば、それでよかった。

 

 

「キラ・・・」

イザークはキラの頬に伝う涙をぬぐうように口付けると、そのまま顔のあちこちにキスを降らせた。

頬、額、瞼・・そして最後にキラの唇に自分のそれを重ね合わせた。

すぐにそれは離れ、イザークは顔を上げたキラの表情をじっと見つめた。

泣いてしまったために少し腫れてしまった瞳。

だが、それによって潤んだ瞳がより強くイザークの目を引き、しばし見詰め合った後、互いに引き寄せられるかのようにキスを交わした。

初めは触れるだけだった。

だけど、二人の想いを映し出すかのようにそれは深く重なり、イザークはキラの体を強く抱きしめ、キラもまたイザークの首に腕を回してイザークの体を引き寄せた。

「・・ん・・・・・」

「キラ・・・・キラ・・・・・」

角度を変えるたびにささやかれるキラの名前。

それを聞くたびに、キラは体の奥で燻るような熱い何かを感じていた。

ゆっくりと、イザークがキラの体を横たえる。

キラもそれに抵抗することなく、イザークにすべてを任せていた。

「いいか?」

「ん・・・・。早く・・・」

「ああ・・・」

着ているもののあわせに指を差し入れてゆっくりと解く。

その間も、キスはやむことなく続けられ、キラの唇から飲みきれなかった唾液が筋になって流れてきた。

「・・んっ・・・」

イザークの指がキラの胸の突起へと触れた瞬間、キラの体は大きく跳ねた。

キラの体を知り尽くしているイザークにとっては、キラのどこが感じるのか手に取るように分かる。

「ふ・・・ぁ・・・・・」

ゆっくりと唇を離すと、キラは濡れた瞳でイザークを見上げた。

それにふっと微笑んでやれば、キラも安心したかのように笑う。

キラの腕がもう一度イザークの首へと回された。

それに導かれるように頭を下げ、首筋へとキスを降らす。

その一点をきつく吸い上げれば、赤い花びらが一つ、二つと咲き乱れる。

「んっ・・・・」

むずがゆいようなそんな感触に、キラのうちの熱は次第に燻り始めていく。

そんなキラに気づいたのか、イザークは今まで触れていなかったキラ自身へと手を伸ばした。

「んんっ!?」

いきなり熱に触れられ、反射的に身を引こうとするが、キラを抱き込んでいるイザークの腕がそれを許さない。

イザークはそのままゆっくりとそれを口に含んだ。

「ふぁっ・・・・っ!や・・・、だめぇ・・・・・っ!!」

キラ自身を覆うじんわりと暖かい熱に、キラの体は強すぎる快楽に飲み込まれていく。

その刺激から無意識に逃げようとイザークの頭に手を添えるが、力が入らないそれはイザークの頭をそれに押し付けているようにしか見えない。

根元からねっとりと舐め上げられ、キラのそれは限界を迎えようとしていた。

「・・・ぁ・・・・も・・・・、ィク・・・・っ」

あと少しで、というところでイザークはそれから口を離し、顔を上げた。

「や・・・、どう・・・して・・・?」

中途半端に放っておかれた熱に、キラは頭がおかしくなりそうだった。

そんなキラに軽く口付けると、イザークは胡坐をかいた自分の上にキラの体を抱き起こした。

「っ!?」

「一緒に、な?」

「・・・・・・・うん」

ちゅっと軽い音を立てて額に口付けると、イザークは硬くなった自分のものをキラの後ろへと導いた。

それにびくっと反応したキラだが、イザークが射れやすいようにと力の入らない手でイザークの肩を掴むと自分の体を持ち上げる。

「ゆっくりでいいから、自分でいれてみろ」

「ん・・・」

腰をしっかりと支えられ、恐る恐るゆっくりと腰を落としてイザークのものを飲み込んでいく。

こうして自分で射れる行為は少しずつ慣れてきたとはいえ、キラは少々苦手だった。

ゆっくりになってしまうために、イザークの大きさや形、それが鮮明に伝わってくるからだ。

そして、この体位はイザークを一番奥まで飲み込むことができる。

イザークを強く感じることができるので好きだが、やはりこの射れる瞬間だけは慣れることはない。

「は・・・ぁ・・・・・」

最後まで射れることができて、キラは大きく息を吐いた。

できれば早く動きたい衝動に駆られるイザークだったが、キラの体にかかる負担を考え、キラの呼吸が落ち着くまでその背中をゆっくりとなで、髪を梳く。

そのうち、イザークの肩にかかっていたキラの腕はイザークの背中へと回された。

これは、もう大丈夫だという合図のようなもの。

お互いに背中を抱きしめてよりいっそう強く抱き合う。

まるで、相手の心音と自分の心音を重ねて一つになろうとでもするように。

「キラ・・・」

「ん・・・はや・・・くぅ・・・・」

「ああ」

ゆっくりと腰を動かす。

焦らすつもりなのか、イザークのその動きは微妙にキラの感じるポイントをかすめるようにしか動かなかった。

中途半端な刺激をうけているキラは、次第に自分からも刺激を求めるように動き出す。

「は・・・ぁ・・・、いざー・・・・・・くぅ・・・・」

「キラ・・・、気持ちいいか?」

「う・・ん・・、きもち・・・・いい・・・・」

キラの体は快楽には素直に反応してくれる。

お互いに我慢ができなくなってきたのか、その動きは次第に大きくなっていた。

「ん・・・ね・・ぇ・・・、も・・・・ダメェ・・・・」

「ああ。一緒に、な?」

「ん・・・・」

キラの体をぎゅっと抱きしめると、イザークは今まで以上に大きく動き出した。

キラのピンポイントを正確に刺激するため、その強すぎる刺激にキラの背中は反り返る。

「や・・ぁ・・・、そんな・・・する・・と、壊れ・・・・る・・・・」

「キラ・・・・キラ・・・・」

「あ、・・・・あああああああああ」

「んっ・・・っ」

キラが自分を解放すると同時に、イザークもキラの中へと己を放つ。

その瞬間、キラは自分の意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラはふっと目を覚ました。

目が冷め切らないままぱちぱちと数度瞬きをして、自分が今イザークの腕に抱かれて眠っていたことを思い出した。

行為のあと、気を失おうようにして眠ってしまったらしい。

外の様子からしても、まだあまり時間はたっていないようだ。

月の光が窓から差し込み部屋の中は大分明るい。

とはいえ、まだまだ夜が明ける気配はなく、外は静かなものだ。

キラはイザークを起こさないように体を起こすと、その寝顔を眺めてそっとため息をついた。

こんなに深く眠るイザークはあまり見ない。

おそらく、よほど疲れていたのだろう。だけど自分に会うために来てくれた。

なのに、わがままを言って困らせて。

そんな自分があまりにも情けなかった。

「ごめんね、イザーク・・・」

さらさらと指に心地がよい髪を梳居たとき、ふと自分の左手に光るものに気づいた。

「ゆび・・わ?」

左手の薬指に光るそれは、以前自分が持っていてイザークに返したものとほとんど同じように感じる。

でも大きさがキラの指にぴったりとはまるから、恐らくはあの指輪ではないはず。

ふと思い立ってイザークの左手を確かめれば、彼の指にも昨日と同じ指輪が輝いていた。

「なんで?」

昨日、確かに自分はこんな指輪をつけては居なかった。

とすれば、恐らくは寝ている間にイザークがつけてくれたものなのだろう。

でもなぜ、それも左手の薬指なんかに。

この指に指輪をはめる行為がどういう意味であるかなどは、いくら世に疎いキラでも知っている。

「んん・・・」

「イザーク?」

起こしてしまったかと思いイザークの方を見たが、どうやらそうではないらしく彼の双眸は開かれてはいない。

だが、その左手は何かを探すようにふらふらと空をさまよう。

「?」

どうしたのかと思い少し近づいてみると、その手はキラの体を探しあてそれを強く引き寄せる。

「わっ」

最初、何が起きたか分からなかった。しかし次の瞬間、イザークはキラの腰に腕を回し、膝に頭を乗せた上体で眠っていた。

「えっと・・・・」

動くに動けない状態になってしまったキラはどうしようかと悩んだが、ふと眠るイザークの表情がとても安らかだったことにふっと笑みをもらす。

「おつかれさま、イザーク」

イザークの体に跳ねてしまった掛け布を掛けると、キラにもまた睡魔が襲いそのままゆっくりと眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

目を覚ましたイザークは、必死で今の状態を考えさせられる羽目へとなった。

外から聞こえてくる微かな音に目を覚ましたはいいが、なぜかイザークはキラの膝に頭を預け、その腰へと腕を巻きつけて眠っていた。

キラはといえば、片手をイザークの髪に絡ませて座ったまま眠っている。

行為の後だというのに、こんな風に眠っていたら体中痛くなってしまうのではないか?

そんな疑問を感じながらも、キラの頭を預けて眠るのは心地よくなかなかキラを起こすことはできなかった。

いや、単に今の状態が長く続けばいいと願っているのかもしれない。

「ん・・・・」

キラの起きそうな気配に、思わずイザークは寝た振りを決めてしまった。

「朝・・・?」

キラが微かに身動きする気配が伝わってくる。

しかし、一度寝た振りを決めてしまったのでどうにも起きにくい。

「やっぱり、疲れてるんだ・・・」

キラの手が髪を梳いてくれる。その感触が気持ちよくてもう一度眠りに引き込まれそうになる。

ふと、自分の左手にそっとキラの手が触れる。

指にキラの指とは別のものが触れるのが分かった。恐らくは昨日キラの指につけた指輪だろう。

そういえば、説明も何もしてやってなかったな。

そう思い、イザークはゆっくりと目を開いた。

「キラ」

「イザーク。おはよう、よく眠れた?」

「ああ。キラのおかげでな。でも、どうしてこんな体制で?」

「どうしてって、イザークが昨日自分でしたんじゃない。覚えてないの?」

「・・・・・覚えてない」

「やっぱり寝てたんだね」

そう言ってくすくす笑うキラに、イザークの方が照れてしまう。

ようするに自分は寝ぼけてキラの膝枕を堪能していたわけか。

それは惜しいことをした。

「あの・・ね?それで・・・・」

キラは左手の指輪を触りながら、その話をどう切り出していいか迷っているように感じた。

イザークはキラの左手を取ると、その左手の薬指につけた指輪の上からゆっくりと口付ける。

そのままキラの方を見れば、キラは照れているかのように顔を真っ赤に染めてイザークと指に光る指輪を見つめた。

「これは、イザークが・・・?」

「ああ。この指輪は、キラが俺のものだという証だ。そして・・・・」

イザークは自分の左手をキラへと差し出した。

それをキラは恐る恐る包み込み、イザークの方を見た。

キラはなぜか引き寄せられるかのようにその指と指輪に、そっと口付ける。

「そして、この指輪は俺がお前のものだという証だ」

「イザークが・・・僕の?」

「ああ。指輪を外してみろ」

言われたとおり、指輪を外してみるとそのうち面には二つの名前が彫られている。

 

 

KIRA  YZAK

 

 

「これ・・は?」

「俺達は10歳の誕生日にこのペアリングをもらい受ける。一つは自分の、そしてもう一つは生涯を共にすごすパートナーへと送られるものとして」

「パートナーへと?」

「俺がつけているこの指輪、キラが返してくれたものだ。そうだろう?」

「多分・・・」

「あの日、キラと初めてあった日、俺はこの指輪をしていた」

しかし、家に戻った時にはすでになった。恐らくはどこかで落としたのだろうと思い、必死で探したがどこにも見当たらず、イザークはほとんどあきらめていたのだ。

だが、それはキラの元にあった。

「昔から、決めていたことだ。俺が唯一愛す人に、この指輪を渡そうと」

「それが・・・僕なの?」

「ああ。キラは俺が生涯に愛す、ただ一人の人だ。その証としてこの指輪を送る。・・・受け取ってくれるか?」

そうたずねても、キラからは返事がなかった。

ただじっと、自分の指輪とイザークの指輪を見つめている。

困惑、しているのだと思う。

それも当然だろう、いきなりこんなことを言われて驚かないものなど居ないのだから。

「本当に?」

「ん?」

「本当に、僕でいい?イザークは、僕を選んでくれていいの?」

「・・・・最初に、言っただろう?俺はキラがいいんだ。それ以外は望まないし、何もいらない」

「・・・うん・・・。ありがとう、イザーク」

キラは嬉しくて、それをどうあらわしていいのか分からなかった。

抑えきらない感情が、キラの頬を涙としてゆっくりと流れ落ちる。

そんなキラを胸の中に抱きしめると、イザークはゆっくりとキラの口付けた。

 

 

これが、二人にとってはじめての誓いのキスとなった。