泣きつかれたのか、キラはイザークにしがみついたまま眠ってしまった。 ぎゅっとイザークの上着を握っている手を外すと、シーツをかけて部屋をでる。 部屋の外には、壁に背をもたれさせたディアッカの姿があった。 「寝た?」 「ああ。今日はキラに何かを問いただすことは無理そうだ。また明日に・・・」 「そんな悠長なこと、言ってられないみたいだぜ」 「なんだと?」 くいっとイザークは窓の外をさす。 そこには一台の車が止まっており、こちらを伺うように見張る男達の姿も見える。 「あれは・・・」 「俺もさっき気がついた。周りを見る限り、全部で3台、人数は10人強ってところだな。どうするよ」 「あいつらの頭は?」 「おそらく、こいつ」 手に持っていた写真をイザークに見せる。 それはエザリアがイザークに持たせてくれた天使族コレクターの写真の一枚だ。 そこに映されているのは・・・・・・
「これは、ムルタ・アズラエル?」 「そ。大手製薬会社の若き社長ってんでこの間雑誌出てたけど、まさかこいつがコレクターとはね」 「その話は隣で。キラが起きるとまずい」 キラが起きたときのために隣室へと移動した。 「見張られている、ということはキラの事がばれたということか?」 「そう考えるのが普通だな」 「だが、外にいるのは本当にムルタ・アズラエルの部下たちなのか?」 「さっきちらっと見えたんだ、ムルタ・アズラエルの秘書がな。この間一緒にテレビ取材出てた奴だし、間違いないだろ。そして、確証はこれだ」 先程イザークに渡した写真をさした。 この写真が何だ?と思ったイザークだったが、ふと写真のすみに握り締めたような痕があることに気付いた。 エザリアからもらってきたときにはこんなものはなかったはずだが・・・。 「これは、キラが?」 「そう思うのが妥当だろうな。キラのあの反応が、その写真を見てということは」 「・・・・そうか」 「で、どうするんだ?」 「本当にみつかったかそうでないか、まだわからない。だが、ここに居ない方がいいのは確かだな」 写真を机に投げ捨ててため息をつく。 一体、どうやってこの場をかぎつけたのか。 その原因は調べる必要があるが、とにかく今はキラの身の安全が第一だから。 「明日、実家に戻る」 「・・・は?」 いきなりのイザークの言葉に、ディアッカはポカンとした顔で見つめた。 「実家って・・・ジュールのか?」 「ああ」 「そりゃまた突然のことで」 「母上にな。コレクターの情報を頼んだ際に全部説明したんだが・・・、キラをつれてくるように言われてな」 エザリアの突発的なわがままには慣れていたつもりだが、これには少々驚いたものだ。 エザリアにいい意味で興味をもたれたのはいいが、今のキラを外に出すつもりはなかったので断った。 今のキラの精神的不安定も理解して、今はまだ仕方ないと納得してはくれたがあきらめてはいない。 「都合いいじゃん」 「ああ。周りの連中には気付かれずにが条件だ、いいな」 「わかってるって」 かくして、キラが知らないところでこの家に着てから初めて外出が決定した。 その頃のキラは、イザークの香りに包まれながら今まだ偽りの幸せの中にで静かに眠っていた。
キラは今、一体何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。 朝、暖かいものに包まれながら起きたとき、目の前にはイザークがいた。 どうしてかなって考えたけど、イザークの腕に包まれているのが気持ちよくてそのままもう一度寝たかった。 けれどその願いむなしく、イザークがセットしたらしいアラームがなってイザークが起きた。 「キラ、起きろ」 そういわれれば起きるしかなかった。 「おはよ・・・」 もう朝だと思ったのに、窓の外はまだ薄暗かった。 イザークがセットする時間を間違えたのかな?って思ったけど、イザークはベッドから降りるとてきぱきといつも以上にせわしなく着替え始めたところから、別に間違いではないことに気付く。 促されてキラも部屋に戻って着替えた。 リビングに行ってみると、そこにはディアッカがいて、イザークとなにやら固い表情で話をしていた。 キラが入ってきたことに気付くと「おはよう」と声をかけてくれたが、すぐにイザークとの会話に戻ってしまう。 なんとなく二人に近づくことができなくてたたずんでいると、朝食を用意してあるから食べるように言われる。 二人は?と尋ねれば、俺たちはいいと返された。 だったら僕も食べなくてもよかったのに。 そういいたかったけど、二人の様子からそうも言えず用意されていたトーストをかじる。 「それじゃ、30分後にな」 「ああ。気をつけろよ」 「わかってる」 それだけ言うと、ディアッカはリビングから出て行ってしまった。 しばらくすると上着を羽織ったディアッカが家を出て行くのが音で分かる。 イザークもそれを見送るとようやくキラの側へと来てくれた。 「何かあったの?」 「いや、キラが心配するようなことは何もないよ」 そういって微笑んでくれるけど、キラはその言葉が嘘だということがすぐにわかった。 だって、優しく微笑んでいるイザークの目の奥には常に警戒を怠らないような鋭い輝きが隠されているのが分かったから。
どうしたの? とか。 秘密にしないで教えて? とか。 いろいろな想いがキラの中を駆けたけれど、結局、それは言葉にされることはなかった。
「キラ、時間だ」 「え?」 朝食を食べてその後片付けをすませると、イザークがキラのストールを持って立っていた。 それはついこの前ディアッカが買ってきてくれたものだ。 わけもわからずイザークとそのストールを見比べていると、困惑しているのがわかったのか、イザークは困ったように微笑んだ。 「大丈夫だ。俺を信じろ」 そう言って、ただそのストールをキラの肩にかけてくれた。 「うん」 どうしてイザークがそんなことを言うのか分からないが、それでもキラはイザークを信じた。 いや、今までだって信じている。 イザークだけが、キラを包み込んでくれる優しい存在だったから。
手を差し伸べられた。 手をつなごうということだというのはわかったけど、キラはなんとなく物足りなくてその差し出された腕に飛びつくように抱きついた。 一瞬驚いたような表情をしたイザークも、微かな笑みを浮かべるだけでキラの頭を撫でてくれた。 そのまま二人でリビングを出る。 てっきり書斎へ行くんだと思っていたのに、イザークが向かった先はこの家の入り口。 そこに向かっていると分かったのはその扉が見えてから。 途端立ち止まったキラを、イザークは分かっていたように促す。 が、どうしてもそこから動けないキラをわかっているように、イザークはキラの前に膝を突いた。 「怖いか?」 「・・・・・・・・」 わからない感覚がキラを襲う。 何もわからなくてただ首を振っていると、キラの頬にそっと手が添えられた。 「俺を信じろ、といっただろう?」 「イザーク・・・」 「大丈夫。俺が守る。何があっても、キラを守るから」 「・・・・・うん」 ぎゅっと、キラはイザークに抱きついた。 ここに来て以来、初めて外に出る。 でも、怖くない。 だって、側にはイザークが居てくれるから・・・・。 |
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