次の日も、その次の日もディアッカはジュール家を訪ねてきた。

その時間帯はいつも決まって昼前。

イザークとの仕事の打ち合わせをしたあと昼食を食べてから仕事場に戻ることが多かった。

限られた時間の中でディアッカとイザークは仕事の話、お互いが調べた天使族コレクターの情報交換など、やることはたくさんあった。

その頃キラといえば、自分に洗えられた部屋から一歩も出てくることは無く、ディアッカが帰ったころにようやく部屋の外に出てくる。

今日も、キラはディアッカが来ている間一切出てくることなく、ディアッカが帰ったことを察知して部屋から出てきた。













書斎に行くとイザークが書類を処理していた。

「イザーク」

「キラ」

おいで、と伸ばされる手を素直に取り、イザークの隣へと座る。

目の前の机にはたくさんの書類が積み上げられていた。

「すごい、いっぱい」

「あいつめ、人の足元を見やがって。仕事押し付けているな」

中の数枚を手に取りながらため息をつく。

キラも日に日にイザークの処理するが手にする書類が増えてきていることは気付いている。

それでも、文句をこぼしながらこの書類の山をすべて片付けていることをキラは知っている。

「そうだ。ほら、キラ」

「?なぁに?」

イザークから渡されたのは品のいいストール。

淡い若草色のそれは軽く、まとえばキラの小さな方をすっぽりと覆ってしまうほど大きかった。

「綺麗・・・」

「気に入ったか?」

「うんv」

嬉しそうにストールを撫でているキラを見て、イザークも笑みをこぼす。

「どうしたの?」

「いや、これでおまえが風邪を引く心配をしなくてもすむなと思ってな」

そういわれて、キラの頬がかすかに染まる。

キラはイザークの横で本を読みながらうたた寝をすることが多かった。ふと目が覚めてまた本を読んでもすぐに寝入ってしまうのだ。

そのたびにイザークはキラに掛け布を掛けてやっていた。

「これ、イザークが選んでくれたの?」

「いや、ディアッカが持ってきた」

さらりと仕事をしながら言ってのけるイザークだが、反対にキラはディアッカという言葉に固まってしまった。

それに気がついたイザークだったが、何も言わずにただ手元の書類を片付けていく。

一方キラはというと、このストールを持ってきたのがディアッカだと聞いてどうしていいかわからなくなってしまっていた。

そもそも、どうしてディアッカがこんなものを持ってきたのか、それがキラには分からなかった。

この二日ほどの態度で、キラがディアッカを嫌う・・・まではいかなくても、苦手としていることぐらい分かるはずだ。

それなのに、なぜ彼は優しくしてくれるのだろうか。

ディアッカがこの二日で自分の身の回りの物をいろいろと買い込んでくれているのも知っている。イザークが出かけるのを、外に出ることを拒否しているキラが拒んでいるからだ。

ディアッカにいい印象など、持ってもらえるはずがないのだ。

「イザーク・・・これ・・・」

「どうした?気に入らんか?」

そう聞けばキラは首が千切れるかと思うほど振る。

「ならばもらっておけ。あいつなりにお前が気に入るものを持ってこようといろいろ探しているようだしね」

「なんで・・・?」

「別に考える必要はない。ディアッカがしてやりたいと思うからやっていることだろう?キラは好意だけもらって、もし気に入ったら着てやればいい」

そう言っても納得していそうにない表情のキラ。

「何かしなければと思うのなら、そのストールやあいつが選んで来た服を着たところを見せてやれ」

「それだけで、いいの?」

「ああ」

そういわれて、キラは考え込むようにしてまとっているストールを撫でる。

正直なところ、イザークとしてもディアッカがなぜこんなにもキラにあれこれしてやっているのか分かりかねていた。

イザークほどではないにしろ、ディアッカも自分が気に入った相手に対してでなければこんなプレゼントを毎日用意してきたりしないだろう。

キラに必要なものをそろえるように言ったのは確かにイザークだが、それにしたってディアッカの態度には不可解な点が多い。

まして、その選んで来たものすべてがキラが気に入る品ばかりだというのも気に障る。

本当ならばイザーク自身が外に選びに出かけたいのに、自分が外に出ようとすればキラは泣いてすがってくるのだ。






『一人にしないで・・・っ』






あんな風に泣きながら叫ばれては、キラを一人置いてなど出かけられるはずがない。

それに家の中にいながらの情報収集は何かと骨が折れる。

情報源が無くなることはないが、情報が集まりにくいのは確かだ。

だからというべきか、この二日間での収穫はほとんどないに等しい。

まぁそれはディアッカとて一緒らしいのだが。

「明日・・・」

「ん?」

「明日、お礼言う・・・」

「そうか」

あのディアッカがどんな顔をするか。

それを考えるだけで、このうっとうしいほどの書類の山もなかなか楽しいものに思えた。




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