泣きながら眠ってしまったキラを寝室へと運ぶと、イザークはそのままになっていたダイニングの片づけをしていた。 と、家のチャイムが鳴り響く。 「来たか」 そのまま玄関の扉を開けると、目の前には何十にも束ねられた書類の山が現れた。 むっとしたように顔をしかめると、その影から一人の男が顔を出す。 「おっす、イザーク」 「ディアッカ・・・もう少しまとめてくるとか考えないのか、貴様は」 「量が量なだけにな。それよりほら、これ」 器用に片手に書類を持ち直すと、ディアッカは腕に持っていた有名ブランドの紙袋をイザークへと差し出した。ここはイザーク、ディアッカが共に愛用しているブランドだ。 「適当に買ってきた。どうするつもりかは知らないけど、とりあえずは派手過ぎない物にしたからな」 「ああ。すまないな」 「いいって。それよりこれ、書斎でいいのか?」 「頼む」 ディアッカは勝手知ったる他人の家とばかりに、二階にあるイザークの書斎へと向かった。 イザークはその間要求されるであろうコーヒーを入れるべく、キッチンへと向かった。 ディアッカが買ってきた服はキラがおきてから着せてやればいい。 泣きつかれて眠っている少女を、今は思いのまま寝かせてやりたかった・・・。
そう、思っていたのに・・・
「ゃあああああああーーーーーーーっ」 「!?」 いきなり聞こえてきたキラの叫び声に、イザークは驚きすぐにキラの居る寝室へと向かった。 「何事だ!?」 「イザークっ」 部屋に入った途端に胸の中に抱きついてきたのは、体を震わせているキラ。 中を見渡せば別に誰かが侵入した様子はなく、そこには困り顔で頭を掻くディアッカの姿があった。 「何があった?」 「なにって・・・俺にだって分かるかよ」 ディアッカの説明によれば書斎に書類を置いて1階に下りようとしたら、キラが寝室から顔を出したのだという。 こちらに気付くとキラはすぐに怯えた表情を見せ、寝室の中に引っ込んでしまった。 一人暮らしのはずのイザークの家に、しかも寝室から出てきた少女に興味を抱き、寝室内にはいったら・・・。 「あとはお前の知ったとおり」 大きな叫び声を上げられた、ということらしい。 最初は疑わしげにディアッカを見ていたイザークだったが、ディアッカが嘘をついているとは考えにくい。 そう考えて、イザークはいまだにしがみついているキラへと視線を向けた。 「キラ?」 名前を呼んでも、キラは怯えるばかりで首を振り、顔を上げようとはしない。 「ディアッカ、お前は下にいろ」 「へいへい」 いろいろと納得していない部分もあるが、とりあえずこのままの状態では何も変わらない。 ディアッカが寝室を出て行ったのを確認して、改めてイザークはキラの名前を呼んだ。 「キラ」 やはり様子は変わらず、首を降るばかりで何も答えない。 「キラ、どうした?怖い夢でも見たか?」 「あの・・・人・・・誰・・・?」 「ディアッカか?俺の片腕だ。信用できる奴らから、怯える必要はない」 そう言って背中をとんとんと軽く叩けば、ようやくキラが顔を上げる。 よほど怖かったのか、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「イザークの、知り合い・・・なの?」 「ああ」 「そう・・・なんだ・・・・」 ようやく理解したようだが、キラの体はまだ少し震えていてイザークに抱きつく手はいまだにきつく握り締められていた。 もしかしたら、キラは重度の他人恐怖症に陥ってしまっているのかもしれない。 「今日は仕事を休むから、あいつが必要なものを届けてくれたんだ。用事が済んだらすぐに帰すから、それまではこの部屋に・・・」 「いやっ」 「キラ?」 拒否するように叫ぶ。 「もう平気!あの人見ても何も言わないから・・・、だからっ」 明らかにまだ怯えているのに、キラは一緒に来るという。 「別に無理しなくてもいいぞ?」 「無理じゃないもんっ。大丈夫だもんっ」 「・・・・わかった」 何をそんなに無理をしているのかは分からないが、とりあえずイザークはキラをつれて階下に下りた。
ダイニングにはイザークが用意していたコーヒーを飲みながらな新聞を見ているディアッカの姿があった。 「待たせた」 「おう。終わったのか?」 「まぁな」 ディアッカの視線がイザークの背後に張り付くように居るキラへと向けられる。 ディアッカの視線を受け、キラの体がビクッと震えるのがイザークには分かった。 イザークに視線を向けられてディアッカも理解したのか、ため息をついた後視線を新聞へと戻した。 「・・・・・・しばらくの間の休暇届書いとけよ?」 「わかってる」 「ま、お前のサインが絶対いるもん以外はとりあえず俺が処理してやる。なんか、理由があるみたいだしな」 「すまん」 「つっても、それも1週間が限度だ。いいな」 「分かっている。それまでには何らかの情報が入るだろう」 イザークはディアッカの向かいに座り、キラも自分の隣に座らせた。 「情報ねぇ。俺に手伝えることは?」 「天使族をコレクションしている奴の情報を集めてくれ」 「天使族?」 その言葉にディアッカは目を丸くする。 天使族のコレクターとなれば、情報は・・・。 「裏か?」 「だろうな。表で堂々とやっているような馬鹿はいないだろう」 「だよなぁ」 これはちょっと難しいことになりそうだ・・・。 手伝う、といってしまったことを少し後悔したディアッカだったが、どうせこのイザークと関わっている限りいずれ何か協力をすることにはなっただろう。 後悔しても、いまさらなのだ。 「ふ〜ん。で?」 ディアッカがピッと人差し指でキラを指し示した。 「そいつは?」 「・・・っ」 ぎゅっとイザークの腕にしがみつくキラ。 確かに何も言っていない。言っていないが・・・これではどうしようもない。 「キラ、少し落ちつけ」 「落ち着いてるもん」 すぐに答えてくるだけ先程よりは落ち着いているのは分かる。 「ずいぶん嫌われているみたいね、俺」 「事情があってな。少々他人恐怖症気味なんだ。気にするな」
「ふ〜ん。ま、いいけどね。でもどこから拾ってきたわけ?天使族なんてさ」
「・・っ!?」 「・・・・なんでわかった?」 思わずにらみつけるようにしてディアッカを見てしまう。 そんなイザークの視線をものともせずに、ディアッカは肩をすくめた。 「分からないと思う?今の話からして、どこぞのコレクターから逃げてきたんだろう?そこの姫さんは」 「・・・まぁな」 「で、イザークはそいつを突き止めようとしている。まぁ、その様子からして別に引き渡すつもりではないらしいけど」 「当たり前だ」 「お前が誰かに執着を持つなんてめずらしいな」 ディアッカはキラを観察するかのようにじっと見つめる。 だが、キラにはその視線が怖くてたまらなかった。掴んでいたイザークの腕に自分の顔を隠すかのように押し付ける。 そんなキラの様子にイザークもため息をつき、ディアッカのほうも両手を軽く上げて肩をすくめた。 |
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