「イザーク・・・」 「ん?あ、ああ。キラ、どうかしたか?」 エザリアとの対面も無事に済み、小さな歓迎会のような晩餐を終えてキラとイザークは用意されていた部屋へと戻っていた。 最初、二人を別の部屋にと考えていたエザリアだったが、ほかならぬキラがイザークと同じ部屋を望み、そしてイザークもそれを了承したのであえてそれに反対はしなかった。 だが、夕食を終えてからイザークは何かを深く考え込んでいて、ずっと窓際に寄りかかったまま外を見ていた。 そういうときのイザークは考え事を邪魔されるのが嫌いなのをキラも知っていたので、最初は気にしていなかった。 だがそれが何分、何時間と経過してくると、無性に寂しくなる。
まるで、自分がここに居てはいけないような気がして・・・。
「キラ、どうした?」 自分に声をかけたキラはイザークを見上げてきたまま何も言ってこようとはせず、ただじっとイザークのほうを見つめていた。 ふと時計を見れば、キラと共に部屋に戻ってきてから数時間が経過していたことに気付き、自分でも驚く。 敵とのことに意識を持って行き過ぎていたか・・・。 「イザーク、大丈夫かなって思って」 「俺は大丈夫だ。キラが心配するようなことは何もないから」 「でも、イザーク疲れてるよ?」 何気なく言われた一言だったが、イザークは驚いた。 キラの小さな、でも暖かな手がイザークの頬に心配そうに触れられる。 あまり意識しないようにしていたが、この数日のイザークのスケジュールはほとんど休息を許さなかった。 あくまで意識しないようにと行動していたようだが、キラにはわかってしまったらしい。 そしてそれを考えてしまえば、ここ数日間の疲れが一気に押し寄せてくる。 「そう・・だな。少し疲れた。今日はそろそろ休もうか」 「僕、一緒に居ていいの?」 「キラ?」 「邪魔じゃない?」 「・・・邪魔じゃないさ。ほら、そんなこと考えてないで、ベッドに入れ」 「うん」 イザークはキラをベッドに促してから、先程までの思考を追い出すかのように首を振った。
『気をつけなさい。彼らが、動き始めているわ』
エザリアに言われた、奴らが動き出している、と。 それが本当のことならば、この場を発見されるのももはや時間の問題である。 いくらジュール家の敷地内の警戒態勢は万全だといっても絶対ではない。
イザークがベッドに近づくと、いろいろあったために疲れていたのか、キラはすでに小さな寝息を立てて眠っていた。 そっと抱き寄せれば、イザークの体温に擦り寄るようにしがみついてくる。
この小さな存在を、絶対に守りたい。
それから数日、イザークの思慮とは別に外見的には何も変化はなかった。 おかげで、キラはすっかり怯えた様子を見せなくなり、屋敷の中でならどこでも自由に行動するようになり周りの人間とも少しずつ打ち解けるようになった。 イザークとしても本宅に戻ってきたこともあり、以前よりも少しずつ仕事が増えていてキラと一緒に居られる時間は少なくなった。 それでも時間ができればキラの下に足を向け、夜は必ずキラの横で眠りに付いた。 「イザーク、入ってもいい?」 「ああ、おいで」 ひょこっと顔を覗かせるキラに、イザークは仕事の手を休めるとこちらに来るように手招きした。 邪魔をしたのではないかと危惧していたキラは、そのイザークの誘いに断るわけもなくすぐに部屋に入ってきた。 共に仕事を片付けていたディアッカも、キラが来たのならば休憩という認識をもっており、お茶の準備にかかった。 「どうしたんだ?キラがこの部屋に来るなんてめずらしいな」 「えっとね、これ」 キラが差し出した手にはたくさんの野の花が咲いていた。 「コスモス・・だな」 「うん、そうなんだ。お庭にたくさん咲いていて綺麗だったから、イザークに見せたくて」 「そうか。ありがとう」 「うん」 膝に乗せて頭を撫でてくれるイザークに、キラは嬉しそうに微笑む。 「イザーク、コーヒー入ったぞ。キラにはココアな」 「ああ、もらおう」 「いただきま〜す」 イザークに褒めてもらったのがよほど嬉しかったのか、キラは上機嫌でディアッカの差し出してくれたアイスココアを口にした。 ディアッカはコーヒーとは別に水の入ったコップをイザークに差し出した。 「なんだ?」 「花。そのまま持っていると枯れるぜ?」 確かに。 イザークはディアッカの持っているそれに丁寧に花を差し入れると、そのコップを受け取って机の隅においた。 何もなかった空間に、ただコスモスの花が加わっただけなのに途端に鮮やかに見える。 「今日は天気よかったし、外は気持ちよかっただろう」 「うん。庭師の人のお手伝いしたんだよ!」 「ああ、だからか。キラが着ている服朝と違うの。もしかして転んだ?」 「ち、違うよ!」 慌てて否定はしているが、顔が真っ赤なところからみてどうやら図星らしい。
こんな平和な日々が、いつまでも続いてくれたら・・・。
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