「ところで諸君。クルーゼ隊の名簿に変更があったのは知っているかな?」 「変更・・・ですか?」 いきなり話題を変えられて、なんだという風にイザークが言った。 キラの処分がどうなるかという時に、名簿がなんだというのだろうか。 それに、自分たちが入隊してから戦死した兵以外の兵の増減があったなどということは聞いてはいない。 「ニコル、それでクルーゼ隊の名簿を出してみてくれ」 「あ、はい」 ニコルは近くにあったコンピュータを操作し、すぐに名簿をディスプレイに表示させる。 そこには見慣れた名前の一覧が表示されている。 一番上がラウ・ル・クルーゼ。 そのすぐ下にムウ・ラ・フラガ と、すぐにクルーゼの言っていた変更という意味が分かった。 エリートである自分たちGパイロット4名は比較的上の方に名前が書かれている。 問題はニコルの下。 今まで書かれていなかったはずの場所になにやら文字が書かれている。 だが、シークレットセキュリティが作動されているようで、そのままでは判別不可能な文字が並べられているだけだ。 「隊長、これは一体?」 「これがシークレットセキュリティの解除番号だ」 そういってフラガが差し出した紙に書いてあるデータを入力していく。 「「「「「!!!!」」」」」 現れた名前を見て、アスラン達とキラは息を呑んだ。 そこに現れた名前とは・・・・
それも、敵軍のGであったはずのストライクの名前まで掲載されている。 「隊長、これは一体・・・」 「キラ・ヤマトはザフト軍の特務でムウと一緒にアークエンジェルに潜入。敵軍を欺くために地球軍のパイロットという形で我々と戦ってきただけということになっている」 「なっている、といっても・・・」 アスラン達がキラを振り返ると、そこには状況をよく飲み込めず、呆然としているキラの姿があった。 あたりまえか。 コーディネータの裏切り者として今まで自分を責め続けてきたキラが、本当はザフト軍の兵士であり、特務でアークエンジェルに乗っていたなどと。 この様子では、キラ自身も寝耳に水の事態に違いない。 「隊長、どういうことか、最初から説明していただけませんか?」 さすがのイザークも混乱しているようだ。 横では同じくディアッカ、ニコルもうなづいている。 「それは、ムウに聞くのがいいだろう」 「キラを初めて見たとき、すぐにコーディネータだと分かったんだ。なぜGに乗って地球軍に味方をするのかって最初は思っていたけど、どうも利用されているだけだって思ってね。だからといって、表立ってキラをストライクのパイロットからはずすわけにもいかないし、あの状況じゃ、キラを逃がしてやることもできない」 だから、自分の所属しているクルーゼ隊に入隊させることを思いついた。 あれだけ有能なパイロットであるなら、クルーゼ隊にいたとしても変に思われることはない。 アークエンジェルの内情を探るという特務を持っていたということにしておけば、後々問題になることもない。 それは一緒にアークエンジェルの潜入していたフラガ自身が証明するといこともできる。 「んで、これをラウに持ちかけて手続きやらなんやら、全部済ませてもらったってわけだ。本当はもう少し時間を置くつもりだったんだが、キラが衰弱しているのが目に見えてわかったからなぁ。何も知らないお前さん達に落とされても困るんで、急遽予定を変更して昨日、作戦結構にいたったというわけだ」 「ならば、どうしてそのことを我々にも教えてはくれなかったのです!」 そうすれば、キラを傷つけずにすんだかもしれないのに。 キラを恨むことも、悩むこともなかったのに。 「君達に教えてしまっては、その態度でナチュラルに気づかれる場合もあるだろう。そのときは、ムウとキラ・ヤマトの身柄が危険になる」 「それは・・・」 ありえないとは、いいきれない。 「さて、ところでキラ・ヤマト。今の話を聞いてわかるように、君は今ザフト軍、クルーゼ隊のメンバーだ。だが、それはこちらで勝手にしたこと。君さえよければこのままクルーゼ隊に残ってもらいたい。パイロットが嫌でもプログラミングの腕が相当たつということはムウから聞いているだが、戦争にかかわるのはもう嫌だというのなら、このままプラント本土でもオーブにでも送り届け、向こうでの生活も保障しよう」 どうするかね? いきなりこんなことを言われても。というか、いろいろなことを一度に知りすぎて、かなり頭が混乱してきているキラ。 どう返事をしていいかわからずに、思わずアスランに助けを求めてしまう。 「隊長、キラはかなり混乱している状態です。返事はまた後ほど、というわけにはいかないでしょうか?」 「ああ、かまわない。ゆっくり考えてみたまえ。クルーゼ隊は明朝1000にて本土に出発する。Gパイロットはそれまで体を休めておくように」 「了解しました」 クルーゼとフラガに再敬礼をすると、5人はそのまま作戦室を後にした。 「おまえはどうみる?」 「ん?キラか?」 「こちらに着くと思うか?」 「まぁ、間違いなくね。アスラン・ザラがこの隊にいる限りな。まぁ、ストライクに乗ることは拒否するかもしれないけどな。でも、あいつのプログラミングの腕は完璧に近い。艦の仕事だけでも十分使える逸材だよ」 「ずいぶん認めているんだな、キラ・ヤマトのことを」 「あいつをずっと近くで見続けてきたのは俺だぜ?苦悩やら精神的苦痛やら、一番感じ取れているさ」 アークエンジェルにいて、キラの精神がどれだけもろくなっていたのか。 今のキラには、近くにいて精神的にもすべてを預けられるだけの人間が必要だ。 それは、あの幼馴染の少年でしか、ありえないのだ。
「大丈夫?キラ」 「うん、ちょっと混乱しているけど」 無理もない。 いきなりあんな情報をもらたされた、自分達でさえ混乱しているのだ。 当の本人であるキラが、混乱しないはずはない。 「で、結局どうするんだ?このままクルーゼ隊に所属し続けるのか?」 だいたい頭の整理がついたイザークがキラに問いかける。 今まではどこかキラのことを地球軍に味方してストライクを操縦していたコーディネータとしてみていたが、それはクルーゼが認知し、フラガが管理していたとなれば別段問題もない。 ようするに、自分達には知らされていなかった極秘任務だったと解釈して、頭の整理をつけてしまった。 「いまさら、戦争に無関係なんて言ってられないの分かるから。プログラミングを任せられるならそれをする。でも、ストライクに乗るのは・・・」 まだ、決断がつかない。 あれに乗って、多くのコーディネータを傷つけてきたのだ。 だから、ストライクには乗りたくないという思いが強い。 「でも、そうも我侭言っていられない。戦わなければ、また誰かが傷つくんだ。だから、もし戦わなければならないのなら、僕はストライクに乗るよ。戦争を一刻もはやく終わらせるために」 それが、自分が殺してきたザフト兵に対する、せめてもの償いになればいい。 |