作戦室。

そこは、キラは普段からあまり近寄りたくない場所だった。

なぜなら、ここに来ると次は必ず戦場へいかなければならなかったから。

アスランと、戦わなければならなかったから。

「ここ・・・・」

「ありがとう、キラ。クルーゼ隊アスラン・ザラ、入ります」

「同じく、ニコル・アマルフィ入ります」

「イザーク・ジュール、入ります」

「ディアッカ・エルスマン、入ります」

中に入ると、そこにはクルーゼと拘束されたマリュー艦長とバジルール少尉、そして見張りのためのザフト兵が何人か部屋に入っていた。

「クルーゼ隊、そろいました」

クルーゼに向かって敬礼をとると、クルーゼもそれに返す。

だが、すぐに4人の後ろに隠れるようにしていたキラに気づいた。

「後ろにいるのは、キラ・ヤマトかね?」

「はい、ストライクパイロット、キラ・ヤマトです」

「そうか。君も入ってきなさい」

「で、でも・・・」

初めて会うザフトの、アスラン達の上官に、キラはさすがに緊張する。

イザークはこの隊長が自分の処分を決めるだろうといっていた。

それが、キラには怖かったのかもしれない。

自分でさえまだ分からない道を、勝手に決められてしまいそうで。

「キラ、大丈夫だから、おいで」

アスランが手を差し出すと、それをおずおずと取る。

そのまま部屋に入ると、クルーゼは満足したようにうなづいて、今度は艦長たちの方へと向いた。

「さて、アークエンジェル艦長と少尉どの。この艦は我がヴェサリウスがプラントへと連行する。貴殿らにも、一緒に来ていただくことになるだろう」

「お断りします、と言ったら?」

「死んでいただくほかはあるまい」

「こちらに選択の余地はない、ということですわね」

「頭のよい方で、嬉しい限り」

艦長の毅然とした態度も、クルーゼの前ではただの負け惜しみにしか見えない。

アークエンジェルがヴェサリウスに侵入されている時点で、地球軍はもう負けているのも同じ状況なのだから。

「それより、一つお聞きしたいことがあります」

「何かな?」

「フラガ大尉をどうなされました?私たちが監禁されている場所にも姿がみえませんでした。まさか・・・」

殺したのではないでしょうね、とクルーゼを睨みつける艦長に、クルーゼは苦笑しながら入り口を指す。

「それだったら、もうすぐこちらに来るさ」

クルーゼがそういうと同時に、挨拶もなくいきなり作戦室のドアが開いた。

その入ってきた人物を見て、キラは目を丸くした。

入ってきたのは、今話していた当人のムウ・ラ・フラガ。

だが、その姿は・・・・

「フラガ、大尉・・・」

キラと艦長は同時につぶやく。

それも当然のことだ。

フラガは拘束もされていなければ、見張りもいない。

それに、彼が今来ている制服だ。

今までの地球軍大尉としての制服を着ていた彼が今身に着けているものは、目の前にいるクルーゼと同じ服で。

「おう、遅れてすまなかったな」

「遅いぞ、ムウ」

「だからすまなかったって。久しぶりにこの制服着るから、堅苦しくてよ」

そういって襟を緩めるフラガに向かって、アスラン達は敬礼をとった。

「フラガ副隊長、長期の任務、ご苦労様でした」

「おう、お前らも今回の任務、成功おめでとう」

そういって敬礼を返す姿は間違いなくザフトの軍人にしか見えなくて。

「フラガ大尉・・・・」

そんなフラガを、キラは呆然と見つめた。

「よう坊主、無事だったな」

いつもどおりに微笑むフラガに対し、キラは困惑した顔を向けた。

「どういうこと、なんですか?これは・・・・」

「ああ、自己紹介がまだだったか。クルーゼ隊、副隊長ムウ・ラ・フラガだ」

そういって、キラと艦長、バジルール少尉に向かって敬礼をする。

「どうして・・・・」

「俺は最初からザフト軍のスパイとして地球軍にいたんでね。ま、そのことに関しては誰一人として怪しむやつなんかいなかったんだけど」

「裏切ったのですか、フラガ大尉!」

「裏切るも何も、俺は元からザフトの人間なんだって。気づかなかったのは艦長の落ち度でしょ」

艦長は怒りのあまり体を震えさせる。

「それに、アークエンジェル内にだれかザフト軍の協力者がいなけりゃヴェサリウスが近づいてレーダーに反応しないなんてことがあるわけないだろう」

そう。

最近レーダーに感知しなかったのは、フラガがずっと情報を操作していたから。

本当はずっとアークエンジェルの背後にいたのだ、ヴェサリウスは。

「さて、2人にはこれ以上話すこともない。別室で静かにしていただきましょうか」

クルーゼがそういうと、控えていた兵士に艦長と少尉を元の監禁部屋へと連れて行かせた。

「それで、あの二人の処分はどうするつもりなんだ?ラウ?」

「私では決定事項は出せないのでな。アークエンジェル以下、その兵士はプラント評議会にかけられることになるだろう」

「あっそ。ということは、これから本国へ帰還か?」

「そうなるな」

「んじゃ、それまではゆっくりできるな。どうせ、評議会へのお前の同行は俺なんだろう?」

「あたりまえだ」

「隊長、キラの処分はどうなるのでしょうか・・・」

クルーゼとフラガの会話に割り込んで、アスランが問う。

「処分というのは?アスラン」

「キラが地球軍のGパイロットだったことはご存知でしょう。ですが、これは本人の意思によるものではありません。それに、もともとキラは民間人なんです。これ以上、戦争に巻き込みたくはありません」

アスランの必死の言葉に、クルーゼとフラガは顔を見合わせてふっと笑った。

「いや、キラは本人の意志であのストライクにのり、地球軍のGパイロットになっていた」

「フラガ副隊長!?」

「本人の意思なくして、あれを動かすことは不可能だろう」

ということは、キラは地球軍兵士として処分されることになるのか?

最悪の事態がアスランの頭をよぎり、考えたくもない結論に達してしまう。

キラも同じことを思ったのか、アスランの手をギュっと握っている。

このままでは、キラは裏切り者の汚名を着せられたまま、殺されてしまうかもしれない。

どうにかしなければならない。

軍人としての自分の言葉が通らないというのならば、ザラ家の名前を使ってでも