泣き疲れて眠ってしまったキラをベッドに横たわらせると、アスランは想いため息をついた。

キラがここまで自分を追い詰めていたとは。

自分に泣きついてきたときのキラは、確かに様子がおかしかった。

あのときのキラの言葉と、今のキラの様子からして、大体の様子はさっすることができる。

それに、さっきのナチュラルたちの言葉。

あれが、今のキラを一番苦しめているのかもしれない・・・・。

「おい、アスラン」

「なんだ?」

「本当に、こいつはストライクのパイロットなのか?」

「・・・・そうだ。だからといって、キラをどうするつもりだ?」

キラを傷つけることは許さない。と、アスランの瞳が語っている。

だが、イザークにもこれほどまでに精神的に傷ついているキラを、これ以上、同じコーディネータの自分が傷つけるつもりはさらさらなかった。

いつもの自分ならば、なんであろうと裏切り者は決して許さないはずなのに、だ。

ストライクのパイロットには、今まで怒りと憎しみの情しか抱いていなかった。

だが、今はただ純粋に、ストライクに乗っていたこのパイロット、キラに興味がわいた。

「キラさんは、どんな方なんですか?」

眠っているキラを思ってか、ニコルは心持ち声を落として聞く。

「昔から、お人よしだったな。人に頼まれれば嫌だとはいえなくて。他人に傷つけられても、相手を傷つくことを何よりも嫌っていて。その癖、泣き虫で。プログラミングの才能は飛び出ていたのに、それを鼻にかけるようなこともしなくて」

アークエンジェルの中で会って、話して、接して。

キラが、自分の知っている幼いころと少しも変わっていなかったことがよくわかった。

いきなりこんな戦争に巻き込まれて、嫌だったはずなのにあんなものに乗って。

傷ついていただろうに、心のよりどころがなくて、泣くこともできなくて。

そんなキラが、かわいそうで、胸が痛くなる。

「一体、どれほどまでに傷ついているのか、今の俺には推し量ることもできない。ただ、側にいて慰めてやることしか・・・・、いや、慰めることすらできないのかもしれないな」

そういいながら、キラの額にかかった前髪をやさしく掻き上げる。

「クルーゼ隊長はこのことを知っているのか?」

「知っている。最初にキラに会ったとき、そう伝えた。ストライクのパイロットはコーディネータだと。そして、あの人からもクルーゼ隊長の方に報告がなされているはずだ」

「キラさん、どうなるんでしょうか」

「分からない。だが、これ以上傷つけさせはしないさ。俺が守ると、約束したから・・・」

 



キラが起きたとき、目の前にはアスランの寝顔があった。

いきなりでびっくりしたが、アスランの眠りを妨げないように声を必死で抑える。

すぐに、昨日あったことを全て思い出した。

そうか、アークエンジェルはザフト軍に。

そっと体を起こして部屋の中を見てみると、向かいのソファベッドには座りながら寝ているディアッカと、その膝に頭を乗せて眠っているニコルの姿があった。

ふと気づけば、アスランの片手が自分の手をしっかりと握ってくれている。

この手のおかげかもしれない、自分がぐっすりと眠れたのは。

最近、まったく眠れていなかったのに。

昨日と今日と、ぐっすり眠ったせいか、おとといまで体に溜まっていた疲労が嘘のようにとれている。

感謝するように、アスランの手を両手で包み込んで、そっとキスをした。

「・・・・・起きたのか」

扉が開いて入ったきたのは、イザークだった。

「あの、えっと・・・・、イザークさん、でしたっけ?」

「そうだが?ストライクのパイロット」

「・・・・・その呼び方、やめてください」

「なら、なんと呼べと?裏切り者のコーディネータか?」

そうイザークが薄く笑いながら言った瞬間、キラは泣きそうな顔で目をそらした。

「・・・・・・冗談だ、キラ。そんな顔をするもんじゃない」

そんなキラの様子に内心あせりながらも、イザークは表面上なんでもないそぶりで話を続ける。

「わかっています。僕は、裏切り者なんだから」

そうつぶやくキラの目からは今にも涙が零れ落ちそうだ。

泣かれたくない、泣かせたくない。

そんな、わけの分からない感情が、イザークの中にはあった。

「冗談だ、といったはずだ。今のお前を見て、好きで裏切ったわけではないと分からないやつはいないだろうしな。それより、これからどうするつもりだ?」

わけがわからず、首をかしげる。

「どう、って?」

「明日、クルーゼ隊長がこの間に到着する。・・・・ああ、もう今日か。そのときにお前の処分は決まると思うが。おまえ自身はどうしたいんだ?」

「僕?」

「ザフトに来て、またストライクに乗るのか?」

「それは・・・・」

もう人を傷つけたくはない。

戦いたくはない。

でも、戦争ではそんなことはただの我侭、きれいごとだ。

いままで、ストライクに乗ってきて、ザフト軍と戦ってきた自分には、それがよくわかっている。

でも、戦いたくないからといって、いまさらストライクに乗らなくていい、なんてことが本当にありえるのだろうか。

「お前はヘリオポリスの民間人だったのだろう?ならば、このままザフトに保護されて、プラントで民間人として暮らすことも、オーヴの両親の元へ帰ることもできるだろう」

キラの考えを読み取ったのか、イザークが言う。

「そんなことが許されるのでしょうか」

「なぜだ?」

「僕はたくさんの人を、コーディネータを殺してきました。ストライクに乗って、たくさんの軍人を殺してきたんです」

「好きでやってきたわけじゃないのだろう?それに、撃たなければ撃たれる。それが戦争だ。俺たち軍人は、それをよく心得ている」

「だけど・・・」

「それに、いまさら気にしてもしかたないだろう?・・・・もう、すんだことなんだ」

アークエンジェルがこうして拘束され、ストライクのパイロットであるキラがザフト軍にいるということは、事実、地球軍には大きな打撃となっているだろう。

もしもまた、地球軍がしかけてくるようなことがあっても、地球軍にストライクがいない今、あちらの戦力はたかがしれている。

G4体を持つクルーゼ隊だけでも、地球軍を壊滅させることも、不可能ではない。

『Gパイロット4名はただちに作戦室に集合せよ。繰り返す・・・・・』

沈黙を破るようにして鳴り響く放送に、アスランたち、眠っていた3人はすぐに目を覚ました。

「隊長が到着したか」

「この艦の作戦室は?キラ」

緩めていた襟をきっちり直すと、アスランは立ち上がった。

今まで眠っていた人物とは思えないほど、きりきりとした動きだ。

みると、イザーク、ディアッカ、ニコルもすでに準備を整えている。

「えっと、こっちだよ」