「どういうことだ!」

「わかりません、急遽レーダーに反応!すぐ横にヴェサリウス、艦に接続、侵入されます!」

「全速前進!至急切り離せ!」

「だめです、すでにザフト兵、艦に進入!」

「なんだと!」


 

突然の、ことだった。

 

今まで何もないはずだった空間に、急遽ヴェサリウスが現れた。

それも、アークエンジェルのすぐ真横に。

気づいたときには、すでに接続の準備がされ、ザフト兵がアークエンジェル内に侵入してきていた。

「どういうことなの、これは!」

「全員動くな!死にたくなければ抵抗しないことだ!」

アスランが着ているものと同じ、ダークレッドの制服に身を包んだ銀髪と金髪の少年兵を筆頭に、ブリッチにザフト兵がなだれ込んでくる。

地球軍、アークエンジェルの船員たちは、抵抗する余裕もないまま、全員が拘束されることとなった。

 


「どうやら、始まったようだね」

「アスラン」

本当に大丈夫なの?と目で訴えてくるキラに微笑むと、部屋にかけられているロックを無理矢理はずし、アスランとキラは部屋の外へと出た。

このまま悠長に部屋にとどまっていては、アスランを人質にとり、自分だけでも助かろうと考える馬鹿なナチュラルが押しかけてくるだろう。

その前に、この部屋を出て仲間たちと合流をはたさなければならない。

部屋から出てブリッチの方向に移動すると、すぐに前方から何名かの船員が駆けつけてきていた。

見つかっても騒ぎが大きくなるだけなので、キラを引っ張り暗闇へと身を潜めた。

『おい、いないぞ!』

『どういうことだ!』

やはりアスランを探しに来たのだろ。部屋の中に捕虜であったはずのアスランの姿がないので騒ぎたてている。

「行くよ、キラ」

「う、うん」

 


キラとアスランがブリッチへ着いたときには、すでにすべてが終わっていた。

ブリッチにいたナチュラルはすでに全員が取り押さえられ、拘束されている。

その中には、艦長、バジルール少尉、そして、サイ、ミリアリア、トール、フレイの姿もあった。

「遅いぞアスラン、何をしていた」

「ま、ナチュラルなんか相手なら、俺たちだけで十分なんだけど」

「よかった、無事だったんですね、アスラン」

中心にそろっていた3人が次々にアスランに声をかけてきた。

「すべて作戦通り終了したわけだな」

周りの様子をぐるりと見回して、アスランはそうつぶやいた。

「当たり前だ。俺たちクルーゼ隊に失敗などありえるものか」

「確かにな」

銀髪の少年の言葉に、アスランはうなづく。

「アスラン、その地球軍兵はどうして拘束しない?」

金髪の少年が、キラを睨みながらアスランに問いかける。

その迫力にキラはおびえ、アスランの背中に隠れるようにして相手を見る。その手はかすかに震えていて、アスランの制服の端を握っていた。

「そう睨むなディアッカ。そのことで話がある。ここじゃなんだから、別室でな」

アスランは部屋にいるザフト兵に捕虜たちの監視を頼むと、3人とキラを引き連れてブリッジを出ようとした。

そのとき・・・・、

「やっぱりコーディネータなんじゃない」

その言葉に、キラはビクリと反応して立ち止まる。

恐る恐るその声の下方向を見ると、オーブにいたときの友達が全員拘束されていた。

「あ・・・」

「やっぱり、コーディネータよね。私たちを守るなんていっておきながら、結局はザフトなんかの味方をしているんだから」

フレイが厳しく言い放つ。

よく見てみると、ブリッジにいる全てのナチュラルの視線が自分に集中していた。

艦長は心配そうな目で。

そのほかのナチュラルはやっぱりコーディネータだったんだという、さげずんだ目でキラを見ていた。

「僕は・・・」

「できもしないこと、言わないでよね。最初っから裏切るつもりだったくせに」

「・・・・・」

やっぱり、信じてもらえていなかったんだ。

キラは、本当に、この艦と船員たちを守るために、必死で戦い続けてきた。

親友だったアスランに刃を向けてまでして。

それほど、友達だと思っていたナチュラルのみんなが、大切だったのに。


ガン!


いきなりの音に、キラはうつむいていた顔を上げた。

その音は、アスランが壁を思い切り殴った音だった。

彼の顔には、明らかに恐ろしいほどの怒りが読み取れた。

それにはザフト軍の仲間も驚いている。普段、あれほど冷静で、怒りという感情をなかなか表に出さない彼が、人目をはばからず、明らかな怒りをナチュラルに向けている。

「それ以上、一言でもキラを侮辱してみろ・・・・。殺してやる」

殺気のこもった声に、フレイはおびえて腰を抜かし、座り込んでしまう。

「行くよ」

キラの手を引くと、アスランはブリッチを出た。それに続き、3人も後を追う。

 

アスランが向かった先は、自分が監禁されていた部屋。

監禁部屋といっても、少尉以上の兵が使う個人部屋なので、ある程度は広い。

いらだった様子でベッドに腰掛けるアスランの横に、その様子を心配そうに眺めるキラが座った。

「おい、アスラン。いい加減話せ、こいつが誰なのか」

「ああ、すまない」

顔を上げたアスランは、いつもの冷静沈着な彼へと戻っていた。

「キラ・ヤマト。ストライクのパイロットだ」

「な・・・、」

「なんだと!」

「どういうことですか、アスラン!」

さすがに驚いたのだろう。3人はまさかという顔でキラを見た。

「キラ、彼がイザーク・ジュール、デュエルのパイロット。その隣にいるのがディアッカ・エルスマン、バスターのパイロットで、彼がニコル・アマルフィ、ブリッツのパイロットだ」

そんな3人の反応をよそに、アスランはキラに3人の紹介をしていく。

「おい。アスラン」

「なんだ?」

「嘘もたいがいにしておけよ?」

「嘘?」

「こんなやつがストライクのパイロットなわけないだろう。いくつかは知らんが、ニコルよりも小柄だぞ」

そういうと、イザークはキラの腕をぐいっと掴んでニコルのほうに突き飛ばした。

「わっ」

「っ、危ない」

転びそうになったキラをニコルが支える。

その体が思った以上に軽かったので、ニコルにはキラがどれだけ細身なのかが分かった。

「大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがと・・・」

「イザーク、乱暴はやめてください!」

「あ、いや・・・・、すまない」

「いえ・・・・」

ニコルの言葉に、イザークらしくもなく謝ってしまう。

イザークは、別にアスランが本気で嘘を言っていると思ったわけではなく、ほとんどキラの行動を観察するためにとった行動だった。

いきなりであっても、軍人としての鍛錬を受けているものならば、どれほどの細身であっても抵抗なりなんなりするはずだ。

だが、返ってきたのはこの反応で。

「お前、本当に細いなぁ。ちゃんと食うもん食ってるのか?」

ディアッカが立ち上がってキラの横に立つ。

2人の身長は10cm近く違うので、自然、ディアッカが見下ろし、キラが見上げるかたちになる。

「お前、いくつだ?」

「16ですけど」

「あっ?」

「「え?」」

キラの言葉に、またまたイザーク、ディアッカ、ニコルは言葉をなくす。

3人とも、ニコルよりは年下、よくて同い年だと思っていたのだが。

この少年が、アスランと同い年、なのか?

「キラは俺の幼年学校時代の親友だ。今まではヘリオポリスにいた民間人だったんだ」

「民間人って・・・、ではなぜあのストライクに?」

「地球軍の連中に無理やり乗せられていたんだよ」

そうだよね?とキラに笑いかける。

「あのGを訓練もなしに動かしただと!?」

イザークの大声に、キラは返事をするのも忘れて側にいたニコルにすがった。

「大丈夫ですよ、キラさん。何もされませんから」

「う、うん」

「俺たちでさえあれだけの訓練を受けて、ようやくGのパイロットにまで昇りつめたんだ。それを・・・!」

「いまさら言ってもしょうがないんじゃない?事実、こいつは俺たち4機を相手にしながら落ちなかったわけだし。どれだけ優秀なパイロットかは俺たちが一番よく知ってる」

「うるさい!」

ディアッカの言葉に、イザークは怒鳴り返すと、そのまま黙ってソファーにどさりと座り込んでしまった。

自分に対して起こっているのは明白で、どうしようかと思っているキラだが、イザークの癇癪はいつものことなので、ザフト3名は動じてもいなかった。

「それより、キラさんはコーディネータなんですよね」

「うん」

「なら、どうして最初からザフトに来なかったんですか?」

「・・・・・友達が、いたから」

「友達?」

「さっきのやつらか?」

ブリッチでキラに「裏切り者」と言っていた、自分たちとそう年齢が変わらない地球軍兵。

制服は着ているが、明らかに軍人ではないと見ただけで分かる。

「でも、友達だと思っていたのは・・・、僕だけだったみたい・・・」

「・・・・・・」

4人は、何も言わずにキラの言葉を聞いた。

「守りたかった。ヘリオポリスにいたときは、本当に仲がよかったんだ。でも、この艦に乗ってから、みんなは僕をコーディネータとしか見なくなったんだ」

ストライクに乗るたびに、よそよそしくなる友達。

自分と一線をおくようにして、以前のように接してはくれなくなってしまった人々。

「それでも、僕は守りたかったんだ・・・、彼らを、みんなを・・・・・。でも・・・」

僕はただ、利用されていただけだったみたいだね。

「で、ですが、あなたは必要とされていたんでしょう?」

「わからない?必要とされているのは自分たちを守ってくれる裏切り者のコーディネータだよ」

自分では・・・、キラ・ヤマトという人間ではない。

そういって、もはやすべてをあきらめたように笑うキラに、4人は胸が苦しくなるような気がした。

まるで、キラの中にある苦しみが、自分たちへと流れ込んできているような。

「キラ・・・」

アスランがキラの頭をそっと撫でると、キラは引き寄せられるまま、肩口に顔をうずめて抱きつく。

泣き声を押し殺して涙を流すキラを、4人はただ呆然と見つめていた。