キラは自分とアスランの夕食を持って、監禁されている部屋へと向かった。 片手に食事を持ち帰ると、もう片方の手で扉をノックする。 返事が返ってくるはずもないので、艦長に教えてもらったロック解除の番号を入力して扉を開ける。 そこには体を起こして身構えているアスランの姿が目に入った。 視線は厳しく、何者にも気を許さないという雰囲気に、思わず怖くなる。 「・・・食事、持って来たよ?」 相手がキラだと知り、一瞬にして警戒と緊張を解いてしまった。 「・・・食べる?」 「ああ、もらうよ。実はお腹がすいててね。どうしようかと思っていたところ」 にっこりと笑うアスランの笑顔は、昔も今もぜんぜん変わっていなくて。 キラはほっとしていた。 テーブルに食事を置くと、その両サイドにそれぞれ腰をおろした。 カメラで見張っているだろう兵士の目を気にして、一定の距離を保つことを忘れない。 キラが選んできた食事は、昔アスランが好きだったものばかり。 なんとなく選んでいた食事が、気がついたらこうなっていた。 できれば彼に触れて、その存在を確かめたいのに。 こんなに近くにいるのに、その距離はヴェサリウスとアークエンジェルに乗っていたときとなんら変わっていないように感じた。 「キラ、どうかした?」 食事に手をつけないでじーっと自分を見つめてくるキラの顔を覗き込んだ。 「あ、なんでもない」 「もしかして、具合悪いの?」 片手を伸ばして額に触れてくる自分より少し大きな手。 相変わらずの心配性。 変わっていないんだね、君は。 「大丈夫だよ、ちょっと考え事」 「そう?」 「うん」 あまり言葉もかわせずに食事が終わってしまって、キラがこの部屋にいる理由がなくなってしまった。 本当はもと話したいのに。 別れた後のことや、最近のこと。話したいことはたくさんあるのに。 だけど、今の自分たちの状況では、それもできないのだ。
「分かった」 そういうと、アスランの顔を見ずに部屋を出た。 アスランのほうも顔を背けている。 部屋を出ると同時に鍵がかかったのが分かる。 やはり、自分とアスランの間にある壁は大きいのだと、改めて実感したような気がした。
食堂に食器を返しに行こうとすると、フレイの声が聞こえた。 「しかたないじゃないか。艦長が決めたことなんだから。まぁ、バジルール少尉は反対しているらしいけど」 「当然よ!艦長も何を考えているのかしら。コーディネータなんかと一緒の艦にいると思うだけで嫌よ!」 ビクリっ キラの体が震えた。 フレイはこの船の中で一番コーディネータを嫌っている。 ブルーコスモスではないと本人は言っているが、言動はブルーコスモスと酷似しているように感じているのは自分だけではないだろう。 「バジルール少尉は正しいわよ。あんなのがこの船にいると思うだけで嫌!利用できるだけ利用して、殺してしまえばいいんだわ!」 「ちょっと、フレイ、言いすぎよ」 「なんであなた達は平気なの?あんなのと一緒にいるなんて、私は耐えられない!それに、あの子も何を考えているのよ。コーディネータなんかに食事を持っていく?どうして貴重な食料をあんなのになんか分け与えるの!?」 「フレイ・・・・」 「やっぱり、あの子もコーディネータだからかしら。仲間にはお優しいことね。でも、忘れているんじゃないかしら。あの子は裏切り者なのよ?いまさら、コーディネータが受け入れてくれるわけないじゃない」 「フレイ、そんな言い方はないだろう?キラは俺たちを守ってくれるために戦ってくれているんだから」 「サイ、それならあなたは言い切れるの?あの子が絶対に私たちを裏切ってザフトに寝返ったりしないって」 「それ・・・」 「ほら、みなさい。やっぱり、コーディネータなんて信じられるわけじないじゃない。利用できるだけ利用すればいいのよ。でも、信じたら後悔するのは自分なんだから」 キラはそれ以上会話を聞きたくなくて、食事をもったままであったがすぐに自分の部屋に引き返した。
『トリィ、トリィ』 自分の周りをくるくる回りながら飛んでいるトリィの相手をする気にもならない。 ただ、フレイの言葉が頭の中をぐるぐると回っている。 一緒にいるだけで嫌。 利用できるだけ、利用する。 これが、ナチュラルの考え方なのか。 自分がコーディネータだから、みんなの態度がよそよそしくなってきていることは知っている。 でも、さすがに信用されていなかったのはショックだ。 だったら、今までナチュラルである友達を守るために戦ってきた自分はなんだったのか。 アスランの手を拒み、たくさんのコーディネータを殺してきた自分はなんだったのか。 ただ、利用されていただけなのだろうか。 「アスラン・・・・」 名前を言葉に出してしまうと、会いたくて会いたくて、しょうがなくなってきてしまう。 さっきまで会っていたような、あんな感じじゃなくて。 触れて、抱きしめてもらいたい。 アスランの優しい声に、大丈夫だと言ってもらいたい。 「・・・ラン、アスラン・・・、アスランっ」 頭の中がぐちゃぐちゃになって、感情が暴走しているのが自分でもよくわかった。 知らないうちに涙が頬を濡らす。 ぬぐってもぬぐってもぬぐいきれない。涙が次々と溢れ出す。 キラは流れ落ちる涙をそのままに、体を起こすと、信じられないほどの速さでキーボードをたたき始めた。 |