「んん・・・・」

アスランが目を覚ますと、まず白い天井が映し出された。

「気がついたようね」

はっとしたように起き上がり、反射的に身構えたアスラン。

そこには銃を構えた艦長とバジルール少尉。

その後ろには腕を組んだフラガと、心配そうな目をしているキラの姿が目に入った。

(・・・・・アスラン)

(キラ)

目が合った拍子に名前を呼びそうになったのを、2人は必死で抑えた。

ここで自分たちが知り合いだと知れるのは非常にまずい展開になりかねない。

「あなたは、ザフト軍兵士ね」

「だったらどうした」

「私はアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス。あなたの名前を教えていただこうかしら?」

「敵に名乗るほどの馬鹿だと思うか?」

「そうでしょうね。さすが、エリート軍人なだけあるわね、アスラン・ザラ君」

艦長の口から自分の名前がでたことに驚きを隠せない。

キラがしゃべるということはありえなくもないが、キラの様子からそうでないことは分かる。

どうして、こいつらは自分のことを知っているのか。

「なぜ知っているか?お前のことを知らない地球軍兵がいると思うのか?パトリック・ザラの息子ともあろうものが」

「・・・・なるほど、そういうことか。結構な有名人なんだな、俺も」

ベッドに腰掛けたまま、くつくつと笑う。

そんな様子が気に入らなかったのか、バジルール少尉は声を荒げた。

「何がおかしい!」

「いや、立派な情報だよ、地球軍のみなさん。それで?俺をどうするつもりだ?」

「別にあなたをどうこうするつもりはないわ。ただ、このままザフト軍に帰すわけにもいかない。しばらくは同行してもらうわ」

「何を言っているんですか、艦長!こいつはあのパトリック・ザラの息子です!この兵士さえいればプラントの評議会を相手にすることも不可能ではないのですよ!」

「ナタル、この子はまだ子供よ。そんなことはできないわ」

「いくら子供でもザフトに属している限りは軍人です。それに、こいつらコーディネータに、一体何人のナチュラルが殺されてきたと思っているんですか!」

「でも・・・・」

「くくっ」

アスランがまたくつくつとおかしそうに笑い出した。

それが気に障ったのか、バジルール少尉はアスランを壁に押さえつけ、拳銃を突き刺した。

「何がおかしい!」

「いや、失敬。実にナチュラルらしい発想だったもので、ついね」

「なんだとっ」

今にも殴りつけそうなバジルール少尉をフラガが引き離す。

地球軍では捕虜への暴行は禁止されている。それは階級を持っている自分たちでも変わらない。

乱れた首元を元通りきっちり直すと、アスランはバジルール少尉へと向き直った。

「言いたければ、言えばいい。だが、俺の名前をだしたところで、何も変わりはしないさ」

「どういうことかしら?」

「俺とプラントの市民、どちらが重要かは父がよく知っているということさ。たとえ、俺を殺すと脅したところで、父は動いたりはしないということさ」

「親は、そこまで子供に冷酷になれるものではないはずよ」

「なれるさ。父は冷静な判断を下せる方だ。何を優先すべきか、何をするべきかをよくわかっている」

平然と言って返すアスランに、艦長は眉をひそめた。

これが、本当に子供なのか。

この間に乗っているあの少年たちとは比べ物にならないぐらい大人びている。

これも、コーディネータたるゆえんなのか。

それとも、軍人として教育を受けているためなのか。

自分が捕虜にされているということに対する不安を微塵も感じさせていない。

それどころか、拳銃を構えている地球軍の自分たち相手にこの余裕だ。

「それで、結局はどうするんですか?足つきの艦長。そちらの方のいうとおり、僕を人質に評議会へコンタクトをとりますか?」

「・・・いえ、しばらくはこのままこの間にいてもらいます。その間、この部屋からは絶対にでないように。こちらの指示に従っている限り、あなたの身の安全は保障します」

「もし、脱走を試みようとしたら?」

「そのときは、こちらもあなたの命の保障はできかねます。いいですね」

そういうと艦長とキラたちは部屋を出て、しっかりと鍵をかけた。

 


それからすぐに艦長室に戻った4人はそれぞれに椅子に腰を下ろした。

誰も口を開かない。

バジルール少尉はいらだったような顔をして。

フラガ、艦長はなにやら考え事をしているような顔をして。

キラはそんな3人の顔をそれぞれ眺めながら、アスランのことを考え込んで。

どうしてアスランが救命ポットなどにのって宇宙を漂流していたのだろう。

なにか、ザフト軍の中で起こっているのだろうか。

だが、それにしたってアスランのあの余裕はなんだったのだろう。

自分が知っているアスランと、意志の強さは同じのようだけれど、何かが違っているように思えた。

これが、長年離れていた自分とアスランの距離の表れなのだろうか。

「・・・・君、キラ・ヤマト!」

「あ、はい!」

いつのまにか、3人が自分に注目していた。考え事に集中しすぎてまったく気づいていなかった。

「そういうわけで、アスラン・ザラの世話はあなたに頼みます」

「え?」

「聞いていなかったのか。フラガ大尉も私も艦長も艦の仕事がある。だが、君は敵襲がない限り部屋にいるだけだろう?一般兵にあれの世話をさせるには、何があるか分からないが、同じコーディネータの君ならその心配もないだろう」

コーディネータ。

やはり、それがつきまとうのか。

「嫌ならいいのよ?なんとか仕事の調整をしてフラガ大尉に頼むから」

「いえ、僕がやります」

「いいのか?無理をしなくても、俺が時間見つけてやるぞ?」

「いえ・・・、僕にできることといえば、それくらいしかないですから」

どんなことであれ、アスランの側に行くことができるのなら。

「では、お願いします。何かあったら、必ず報告してください」

「はい」