この2・3日、アークエンジェルには平和なひと時が流れていた。

それは、毎日のようにあったクルーゼ隊からの猛攻撃が、今では嘘のようにありはしなかったからだ。

ストライクのパイロットであるキラは、いつ攻撃されても万全の体調で出撃ができるようにと、与えられた部屋で体を休めていた。

部屋の中をぐるぐるとトリィが飛び回っている。

その様子をボーっと見ていながら、キラが考えているのは敵、ザフト軍のこと。

そして、ザフト軍にいる大切な親友、アスランのこと。

クルーゼ隊はレーダーにもまったく引っかからないらしい。

そのことで、近くにいないということは分かっているのだが、やはり絶対におかしい。

でも、内心アスランと戦うことがなくなったということにキラ自身、ほっとしているという自覚もあった。

「おいで、トリィ」

ゆっくりと旋回しながら自分の差し出した腕に止まる。

『トリィ』

「トリィ、アスランはどうしたのかな?このままもう、攻撃してこないのかな。・・・戦わなくて、すむのかな」

『トリィ、トリィ』

「そんなこと、ないよね。それに、今度会ったら、また戦わなくちゃならないんだよね」

ベッドに倒れこむように横になると、キラはそっとつぶやいた・・・・。

「でも、やっぱり会いたいよ・・・・、アスラン・・・・」

 


『キラ・ヤマトは直ちに格納庫へ。繰り返す・・・』

がばっと体を起こすと、すぐに壁にかけておいた制服を手に取り部屋をでた。

もしかしたら、敵襲が来たのかもしれない。

だが、それにしては外が静か過ぎる。第一戦闘配備の警報も鳴ってはいない。

なにか、マシントラブルでもあったのだろうか。

そんなことを考えながら、キラは急いで格納庫へと向かった。

 


「おう、坊主。こっちだ」

格納庫へと着いたキラに気づいたフラガが、手を振り招きよせる。

その側には複数の船員とマリュー艦長、バジルール少尉がいた。

そして、フラガの前には救命ポットのようなものがおいてある。

「フラガ大尉、これは?」

「いや、外の様子をMAで見て来たんだが、そのときにこれを見つけてな。救命ポットだから、見捨てるわけにもいかないし、とりあえず拾ってきたんだ」

「はぁ」

「まったく、フラガ大尉も面倒な拾い物をしてきましたね」

後ろからのバジルール少尉の声に振り返る。

その顔は明らかに迷惑だ、と語っている。

だが、たかが救命ポットを拾ってきただけなのに、なぜそんなに怒っているのだろう。

今は戦争中、しかも作戦行動中なのは分かっているが、救命ポット見捨てては人道に外れるというものだろう。

「何も私は拾ってきたからいっているわけではないぞ」

キラの顔色を読んだのか、バジルール少尉がポットの一部を指差しながら言った。

その先には、なんとザフトのエンブレムが。

「ザフトの、救命ポット?」

「ま、そういうこと。さすがに俺もまずいかなぁとは思ったんだけどさ、このままほうっておいてこいつに死なれでもしたら後味悪いだろう?」

「そう・・・・ですか。それで、僕が呼ばれた理由は?」

「これに乗っているということはザフト軍であることはまず間違いないでしょう。中の人物が突然暴れだしてもいけないし。それでね」

ようするに、フラガ一人では心配なので、コーディネータである自分も同席して欲しいと。

確かに、この艦の中で相手とまともにやりあえるのはフラガをおいてはキラしかいないだろう。

ポットを前に船員が銃を構えた。

その前に自分とフラガ、その後ろにマリュー艦長、バジルール少尉が並ぶ。

「開けて頂戴」

ポットのすぐ横に控えた兵が開封のスイッチを押すとすぐに後ろに下がった。

フラガとキラは相手が飛び出してきたときのために身構える。

が、それは杞憂に終わった。

相手が飛び出してくるどころか、ポットが開いても何の反応も返ってこない。

「どういうことだ?」

フラガが気の抜けたようにつぶやく。

なkが暗いため、ポットの中がどうなっているのか分からない。

近くにあった懐中電灯を使って中を照らしてみた。

「・・・・・・・っ!!!」

キラは言葉を失った。

そこにはぐったりと気を失っていて、少しも動かないアスランの姿があった。