薬の副作用による激痛は、アスランの考えを大きく裏切るほどのものだった。

眠っている間はほとんどなんの異変もない。

だが、一度眼を覚ませばすさまじい激痛と朦朧とした意識に見舞われるようだ。

アスランは、薬を飲ませたあの日からずっとイザークに付き添っている。

最初ニコルやディアッカが変わると言ってくれていたのだが、アスラン自身が側を離れるのが嫌で断っている。

だが、アスラン自身も食事や入浴、睡眠を取らなければ倒れてしまう!という2人の説得もあって、ごく短い時間だけ変わってもらう。

イザーク自身といえば、おきているときはほとんど回りが見えていない。

眼がうつろになっているせいか、目の前に人がいてもまったく気づかないのだ。

そして、激痛から逃れるために、シーツや枕にしがみつく。

それがあまりにもつらそうなので、アスランはイザークを抱きしめる。

自分の体に必死にすがり付いてくるイザークをアスランはいつもやさしく抱きとめ、落ち着くまで決して離そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

イザークが薬を飲んでから、早1週間がたとうとしていた。

最近では、起きている時間よりも眠りにつく時間の方が多くなっている。

「アスラン、イザークの様子はどうだ?」

「ディアッカ」

ディアッカがなにやら手に持って部屋の中へと入ってきた。

それを手近なテーブルに置くと、ディアッカは眠っているイザークの顔を覗き込んだ。

「どれぐらい経つ?」

「大体5時間ぐらいかな」

「そうか。俺がしばらく変わるから、アスラン食事してこいよ」

「いや、いいよ。別に腹が減っているわけじゃない」

「そういって、ここ最近あんまり飯食ってないじゃないか。イザークが元に戻った途端にお前が倒れたんじゃ、元もこもないだろうが」

いつもはへらへらとしているくせに、こういうときに限って年上の顔をする。

そんなディアッカに苦笑しながらも、アスランはその場を離れるのを断った。

おそらく、もうすぐイザークが目覚めると思うから。

発作が起こって苦しい思いをしているときは、必ず側にいてやりたい。

ディアッカはあきれたようにため息をつくと、持ってきたものをアスランに差し出した。

「ほら」

「なに?」

中身を確認すると、そこにはサンドイッチが入っていた。

「少しだけど、ちゃんと全部食えよ。残したら殴るからな」

そういい残して、ディアッカはそのまま部屋を出て行ってしまった。

そんなディアッカにまたもや笑みをこぼしながら、アスランはサンドイッチを一つ手にとって口に運ぶ。

なかなかイザークの側を離れない自分を何かと気遣ってくれる、ニコルとディアッカ。

そんな二人がいるからこそ、自分はまだがんばれる。

・・・・・がんばって、イザークを取り戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・・・・・・」

ふと、アスランは自分が眠っていたことに気づいた。

ディアッカが持ってきてくれたサンドイッチでおなかが膨れたこともあり、眠気が襲ってきたのだろう。

いけないと思い頭を振る。

ふと、イザークの方を見た。

 

・・・・・・・イザークの瞳が、開かれていた。

 

いつから、起きていたのだろうか。

イザークのぼんやりとした視線と、アスランの不安気な視線が絡み合う。

起きているというのに、イザークは別段苦しそうではない。

そんなことにほっとしている間も、イザークはアスランをじっと見つめていた。

「イザーク?」

「・・・・・・・・ラン」

「え?」

 

確かに、確かに今、俺の名前を呼んだ?

 

「い、イザーク?」

「アスラン・・・・」

「イザ・・・・・・・」

そっと頬に手を伸ばせば、それにイザークの手が重なり合う。

なぜだか分からないけど、涙がこぼれた。

 

嬉しくて。

イザークが自分を見てくれたのが、自分を認識してくれたのがとても嬉しくて・・・・。

 

一瞬驚いたように開かれたイザークの瞳は、ふっと笑いをこぼすともう片方の手をアスランに伸ばして涙を拭いた。

「泣き虫」

「・・・・だれの、せいだと・・・・」

「俺のせい?」

「・・・・・ばか」

アスランは涙をこぼしたまま、体を横たえたままのイザークを抱きしめた。

今この腕の中にある存在を、離したくなくて。

確かに、ここにいるのだということを必死で確かめた。

イザークはそんなアスランの背中をポンポンとあやすようになでながら、必死で抱きついてくるアスランを静かに抱きしめた。

 

 

 

 

「体、大丈夫?」

「ああ」

「つらいところとか、ない?」

「ああ」

「・・・・・・俺のこと、わかる?」

「ああ」

イザークは今まで着ていた寝着からいつもの赤服へと着替えていた。

いきなり動いてはダメだと言っているのに、イザークは平気だと言ってさっさとクローゼットから赤服を取り出した。

着替えている、アスランはイザークに何度も同じ質問を繰り返す。

 

自分を・・・覚えているのかと。

 

着替え終わったイザークは、ベッドに腰掛けているアスランの横に座った。

と、同時にアスランの体を抱きしめる。

「イザ・・・?」

「ごめんな、アスラン。いろいろ迷惑を掛けた」

「・・・・・・イザーク・・・・」

このぬくもりが、イザークが間違いなくここにいると教えてくれる。

「俺は、お前をちゃんと覚えているから。だから、大丈夫だ」

「もしかして、覚えて・・?」

「記憶を失っている間のことも、ぼんやりとだけど覚えている。胸が苦しくなるたびに、抱きしめてくれたこの腕の感触も、な」

そういうと、イザークはそっとアスランの唇に自分のそれを重ね合わせた。

久しぶりのキスは、とても甘くて。

とても安心することができて・・・。

触れるだけだったキスは、いつのまにか深いものへと代わっていった。

気がついたら、アスランはイザークの体をベッドへと押し倒していた。

「・・・・かった」

「・・・・」

「怖かった・・。イザークが、もしかしたら本当に俺のことを忘れてしまったままなんじゃないかって。そう思ったら・・・・、すごく怖かった」

「大丈夫だ。俺は、ここにいる。お前の側に、ずっといるから・・・・」

「ん・・・・・・」

アスランとイザークは、そばにあるぬくもりを確認しあうように、ずっと抱き合っていた。

 

 

 

 

☆ あとがき ☆

未奈珂さまからいただきましたリクエスト小説、完成しましたv

2〜3話で仕上げるはずが、ずいぶん長くなってしまいましたが、いかがでしょうか?

自分的には連合とイザの絡みが結構気に入っていたりします。

 

お持ち帰りは未奈珂さまのみOKとさせていただきます。

では、感想、お待ちしております。