確か、今オルガとクロトが解毒剤はないといわなかったか?

アスランは、手の中に納まった小さな筒を見た。

中を開けてみると、小さなカプセルが二つ、入っていた。

一見ただの風邪薬のようだが、これが解毒剤?

 

 

「おい、シャニ!お前あれまだ持っていたのか?」

「そうそう。とっくの昔に試したんじゃなかったの?」

「オルガとクロト、苦しそうだったし・・・・やめた」

「「はぁ〜〜?」」

アスランは手の中のものと3人を交互にみる。

そんなアスランに気づいたのか、シャニが口を開いた。

「それをイザークに飲ませれば、上手くすれば治る・・・・・はず」

「はずって・・・。さっきは解毒剤はないっていわなかったか?」

「俺たちは持っていないって意味だ。ずっと昔、一度だけ解毒剤を開発できた奴がいて・・。内緒で俺たちにくれたんだ。俺たちを、解放するためにな」

まだ持っていたのか、オルガは言った。

ということは、これは以前に3人共がもらったのだろうか。

そして、言葉からしてオルガとクロトはすぐに使ってしまったのだろう。

だが、そうなるとシャニはどうしてこれを使わなかったのだろうか。

 

 

 

「でも、一つ注意・・・」

「なんだ?」

「それ使ったら短くて1週間、長くて2週間はそれが与える激痛から耐えなくちゃならない」

「激痛?」

シャニの言葉に、オルガとクロトが付け加えた。

「薬の副作用・・・ってか、体の中にある薬の影響を全て取り除いているときは、信じられないほどの激痛が起こる」

「そうそう。俺とオルガもだけど、その激痛に耐えられなくて結局今もこのまんま。他にも試して死んだ奴もいるって聞いたし」

「それじゃ・・・それを見て、あなたは飲むのをやめたんですか?」

今まで黙って話を聞いていたニコルが、シャニに向かって聞いた。

ちらっとニコルを見ると、シャニは俯いてこういった。

「それもある・・・けど、これはリンの形見だったから・・・・」

「「「リン?」」」

「コレ作ったの・・・・リンだから」

そのあまりにも悲しそうな声と表情に、アスラン達は顔を見合わせた。

それきりシャニは何も話そうとはしないので、アスランは視線をオルガの方に向けた。

オルガは一つため息をすると、

「リンはシャニの妹だよ」

「妹の形見・・・なのか?これが」

アスランの手元を覗き込みながら、ディアッカは言った。

「リンは薬の開発チームの一人だった。いや、開発チームというのも少し変なのかもしれない。この薬はリンの頭脳なしでは完成しなかったと言われていたものだったから」

「薬の開発者が、解毒剤も一緒にくれたということか?」

「それも違う。リンはもともと、この薬は医療関係で使われると言われて作っていたんだ。それが、利用されたのは戦争。しかも、実の兄貴に使用された。それがショックだったリンはすぐに解毒剤を秘密で作り始めた」

「でも・・・・それまで。リン、解毒剤を完成させて俺たちにくれた途端、軍の奴らに殺されたから・・・」

「なっ!?」

「俺たちに解毒剤渡したのがばれて、連合の奴らに殺されちまったらしい。詳しいことは何も教えちゃもらえなかったが、殺されたことだけしかわかっていない」

だから、シャニはずっとこの薬をリンの形見として持っていた。

最後に、会い見えた時にもらったものだから。

元に戻ることが、リンの最後の願いだったから・・・・。

 

 

 

「そんなものを、もらってもいいのか?」

解毒剤は確かに欲しい。イザークを元に戻すために。

だが、こういう話を聞いてしまった普通に受け取ることもできない。

大切な品ということも分かるから。

「いいよ・・・。俺は、持っていても使えないから。だから、イザークに使ってあげて」

自分の作った薬を人々の役に立てることが、リンのずっと昔からの願いだったから。

たとえシャニ自身に使わなくても、その薬で一人の人を助けることができるのならばリンも納得してくれると思うから。

「これは、二つとも飲ませなければならないのか?」

「いや、一つでいいだろう。もともとが強い薬だから、下手に量を飲むと逆に悪い」

「そうか」

そういうと、アスランはきびすを返して部屋を出て行こうとした。

が、入り口のところでふと、筒をニコルのほうへ放った。

「え、アスラン?」

中を覗けば、薬のカプセルは一つだけ、中に残されていた。

もう一つは、アスランの手の中に。

「医療班に届けておいてくれ。時間はかかってもきっと薬の解読を成すことができるだろう。・・・・そうすれば、そのリンという人の願いも、叶うから」

「は、はい!」

それだけいうと、アスランは本当に部屋から出て行った。

アスランの言葉に呆然としているシャニ・オルガ・クロトを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イザークが眠る部屋に戻れば、イザークはいまだに眠りについていた。

が、時折苦しそうに顔をしかめているのが分かる。

それが、とてもつらそうで。

助けを求めるように伸ばされた手を、アスランはゆっくりと握って逆の手で頬にかかっている髪をかきあげた。

そうしてやれば、少しほっとしたような表情になったと思うのは、気のせいだろうか。

 

 

苦しいかもしれないけど。

でも、早く戻ってきて欲しいから・・・。

以前のイザークにまた会いたいから。

 

アスランは解毒剤を口の中に含むと、眠っているイザークにそっとキスをした。

 

早くイザークが戻ってくるように。

それだけを、願いながら。