「ただいまイザーク」

「・・・・・・戻った」

「あ〜、疲れた」

オルガ達が部屋に戻ってきた。

ソファに腰掛けてオルガに借りた本を読んでいたイザークはすぐに顔を上げた。

「おかえり、オルガ、シャニ、クロト」

微かに微笑むと、イザークは持っていた本をしまい3人にそれぞれ飲み物を差し出した。

オルガはコーヒー。

シャニは紅茶。

クロトは少し甘いココア。

 

 

イザークがこのドミニオンに来てから早くも2週間が経とうとしていた。

初めは自分がなぜここにいるかということを思い出せなくて不安でしかたなかったイザークだったが、しだいにそのこともどうでもよくなってきた。

オルガたちと過ごすうちに、どうでもよくなったというのが正解だろうか。

最近は薬さえきちんと取っていれば胸が急に苦しくなるということもなくなった。

 

 

「あれ、オルガそれ・・・」

コーヒーを手渡すときに、ふと袖から覗いた腕。

そこには確かに今朝までなかったはずの傷ができていた。

しかも、まだ手当てをしていないのか血がにじんでしまっている。

「ああ、これか。さっき怪我したんだけど、ほっときゃ治る」

「だめだ。ちゃんと手当てしよう」

そういうと、イザークはすぐに片付けてあった救急箱を取り出しオルガの袖を捲り上げる。

みると、それはずいぶん痛々しく血がにじんでいる。

イザークはまるで慣れているように消毒液を取り出し、そっとオルガの傷の手当てをする。

「・・・っ」

「我慢」

傷が乾いていないせいでかなり染むらしいが、そんなのを気にしていられない。

黴菌なんかが入ったら大変だと、イザークにもオルガにも分かっているから。

 

と、そのときイザークの背中にずしんと何かが乗ってきた。

だが、イザークは気にした風でもなくオルガの手当てを続けている。

「・・・・・・・重い」

「いいじゃん」

振り返らなくても、誰がいるかなんてイザークにはわかっている。

イザークの首に腕を回して背中にくっついているのはシャニ。

最近、イザークがかまってくれないときはこうして背中にただくっついてくることが多い。

本人いわく、これが好きなのだということなのだが。

イザークにとっては邪魔いがいのなんでもない。

特に、今は手当ての最中なのだ。

「シャニ、あとで遊んでやるから、しばらくあっち行ってろ」

「やだ・・・・・」

「シャニ」

「・・・・・・・・・・オルガばっかり、ずるい・・・・・・」

はた、と手を止めてシャニを振り返れば、少し拗ねたような表情をしている。

オルガの手当てをしているイザークの姿を見て、拗ねているのだろうか。

それに苦笑すると、イザークは首に回っているシャニの手をポンポンと叩く。

「わかったから。大人しくしていろ」

「ん・・・・・」

しかたない、とばかりにイザークはそのままシャニをほうっておくことにした。

ようやくそこでオルガの腕に綺麗に包帯を巻くことができた。

これでおそらく明日になれば傷も癒えるだろう。

「終わりな」

「サンキュ、イザーク」

オルガがニッと笑うと、イザークも微かに笑い返す。

さて、後ろのシャニをどうしようかと思ったところへ

「あ〜!!シャニなにやってんだよ!」

帰ってきてからすぐにゲームに熱中していたはずのクロトがイザークにくっついているシャニの姿を見て声を上げた。

「・・・イザークにくっついている」

「離れろよ!」

「いや」

「は〜な〜れ〜ろ〜!」

そういってクロトが無理やりシャニを引き離そうとする。

が、しかしそう簡単にも離れずに、シャニはイザークにつかまる力を強くする。

いつも、こう。

3人が帰ってくると、こうして騒がしくも楽しく楽しく繰り返される日々。

最初は驚いていたものの、最近ではそれが普通で。

むしろそのほうがほっとできるような気が、イザークはしていた。

時として、ここが戦場ということを忘れてしまうぐらいに。

 

だが、その微かな幸せも、そう長く続くことはなかった・・・・・。