一番最初に目に映ったのは、見慣れぬ天井だった。
頭がボーっとしている。 何かを考えることすら拒むように、働いてくれない。 「気がついたか?」 周りに視線をあちこち動かしていると、ふと聞こえた声。 その声の主は・・・。
「イザーク・・・」
「大丈夫か?・・・・ああ、まだ少し熱があるな」 そういって額にかかる前髪をかきあげてくれる。 イザークの手はひんやりとしていて気持ちがよくて・・・。 思わず目を閉じた。 「僕、なんで・・・?」 「・・・倒れたんだ、ブリッチで。キラが目覚めるまで俺が側にいることができるようにと、隊長が配慮してくださった」 「倒れた?」 なんで倒れたのか、キラは覚えていなかった。 というよりも、思い出すのを拒否しているような、そんな感じ。 「確か・・地球軍の艦隊が攻めてきて、僕の身の引渡しを要求してきて・・・」 「キラ、無理に思い出すな」 なぜそんなことをいうのか、イザークの言葉を不思議に思いながらも、キラは自分の身に何が起こったのかを順に思い出していった。 「みんなが、僕はここに居ていいって言ってくれて・・・、そして・・・ニコルが・・・・」 急激に、キラの頭によみがえる、記憶・・・。
「あ・・・・・ぁあ・・・・・ぃ・・・や・・・・・・」
みるみるうちに冷や汗をかき、体を震え始めたキラにイザークが触れる。 と、キラは逆にイザークの肩を掴んで。 「ムウさん・・・っ!ムウさんは!?ねぇ、イザーク!ムウさん、無事なの!?」 「キラ、熱が上がる、興奮するな」 「答えてよ、ねぇ!ムウさん、無事なんだよね!?答えてよ!」 「落ち着け、キラ」 それが何よりの、答えだった。今、この場所にフラガはいない。 震えるキラの体をゆっくりと抱きしめて、イザークはその背中を撫でた。 それで少しは落ち着いたのか、キラの体の震えは少しずつ収まったが、代わりにキラの両目からはポロポロと涙があふれ出てきた。 「う・・ぇ・・・・、や・・だぁ・・・・・、やだよぉ・・・・・」 「キラ」 「やだ・・・・、一人に、しないって・・・言ったじゃない・・・・」 「キラ、俺がいるから」 「帰って、来るって・・・・・言ったじゃないか・・・・・・」 胸がキラの涙で濡れるのもかまわず、イザークはキラの体を抱きしめていた。 部屋の中には、キラの泣き声だけが、響いていた・・・・。
「僕の、せいだよね」 「キラ?」 ポツリ、とキラがこぼれした声。 「僕がいなかったら・・・、誰も怪我しなくて、誰も死ななくて・・・」 「キラ!」 イザークがキラの体を引き離して、イザークがキラの目を見て言った。 「だったらお前は、今まで会ったすべての人間を・・・・俺を否定するのか?」 「イザ・・・ク?」 「お前が自分の存在を否定するということは、今までお前を守るために戦った俺たちの意思を、気持ちを否定することなんだぞ?わかっているのか?」 「あ・・・・」 「みんな、お前を守りたいと思った。願った。そして自分の意思で、戦った。それを、お前はすべて否定するのか?」 「・・・・違う」 違う、とキラは首を降る。 イザークの言うとおりだった。 みんな、自分のために戦ってくれたのだから。 「それに、まだあきらめるのは早いぞ?」 「え?」 どういうこと?という顔でキラはイザークを見た。 涙で濡れたキラの頬を拭いながら、イザークは話した。 「今、すべてのパイロット達がフラガ副隊長を探しに出ている」 「どういう・・・こと?」 「クルーゼ隊長がおっしゃった。・・・・フラガ副隊長は生きていると」 イザークの言葉に、キラが息を呑む。
ムウさんが、生きている・・・?
「クルーゼ隊長が断言なされた。フラガ副隊長はまだ生きていると。正直、探しに出た者はみんな半信半疑だ。あの爆発で、生きているとは思えない」 わかるな?とさとすように言われれば、キラもうなづくしかない。 「だがな、誰かが信じて、信じて、そして祈れば。それは、現実のものになるんじゃないか?人の想いというものは、そういうものだと俺は信じる。・・・・・信じたい」 「・・・・・・・」 「キラは、どうだ?」 「信じるよ・・・」
信じることしかできないのなら。 それが力となるのなら。 僕は信じ、祈りたい。 それが、現実となるように・・・・・ |
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