キラとニコルはフラガを見送った後、改めてブリッツの様子を見に行った。

近くには数人の整備兵の姿があり、注意深くブリッツの修繕作業に入っている。

派手に壊れているために、下手にいじればそれが原因で爆発が起こる、ということも考えられなくはない。

今は戦闘中のため、艦が大きく揺れるという原因もあるが、思い切ってのブリッツの修理作業にかかれないのには、この場にいるほとんどのものがブリッツのプログラムを操作できないという点が原因でもあった。

だからニコルとキラの姿が現れると、たとえようもなくほっとした安心感がその場に漂った。

「どうですか?」

「幸い大きなものは手足の損傷だけのようですが、コックピット付近も狙われていたらしいですね、銃口がいくつか見つかっています」

「そうですか」

渡された資料を手に、キラはブリッツのコックピットへと近づく。

それに続くニコルも同様の資料を手に移動して、キラが到着するよりも早くブリッツにたどり着き、コックピットへと体を滑り込ませる。

「思ったよりも損傷がひどいね。でも直らないほどのものじゃない。ここじゃ無理でもしっかりとした施設なら直すこともできるよ」

「すいません。僕の腕が未熟なばっかりに」

「ニコルは何も悪くないよ。それにニコルだって、この子だって、がんばったんだ。だれもあなたたちを責めることはできないよ。だからニコルも気にしないの。いい?」

「・・・はい」

キラの言葉に、ニコルは微笑む。



不思議な人だ。



手にした資料とブリッツのプログラムを見比べているキラの横顔を見つつ、ニコルは思った。



戦争に巻き込まれて両親も居場所も無くしたというのに、キラはそれに負けなかった。

一度すべてをあきらめたことはあったのかもしれないが、それでも今は前をみて進んでいる。

そして、キラの言葉はすべてを許して・・・癒してくれるかのような、そんな不思議な感じがする。

多分。

恐らく、それが彼女の強さなのだろう。

そして、それが彼女の魅力・・・



「ニコル?」

「え、ああ。すいません、なんですか?」

「何って、とりあえずここは終わったからブリッチに戻らない?って言ったんだけど」

どうやら、ニコルはずっとキラの顔を凝視していたようだ。

自覚がなかっただけに、曖昧に笑みを浮かべることしかできない。

「それじゃ、そろそろ戻りましょう。戦闘状態も気になります。・・・・まぁ、あのメンバーだったら大丈夫ですよ」

徐々に暗くなっていくキラの表情に、ニコルは慌てて付け足した。

キラの悲しい顔はどうしても見たくない。

「そうだよ・・・ね。信じなきゃ・・・」



みんなを・・・。



キラは、ただ祈るかのように両手を握り締めた。






















「なに、これ・・・」

ブリッチに到着したキラは、目の前に広がる信じられない光景に驚きを隠せない。

キラとニコルが戻ってきたことに気付いたクルーゼは二人を招き寄せる。

「ブリッツの様子は?」

「今の状態では修理は・・・。本国に戻ってから修理をすることになります」

「そうか」

ニコルとクルーゼが話している間も、キラの視線は外部映像へと釘付けになっていた。



なぜか?



あれほど多かった敵の数が、明らかに減っているからだ。

「クルーゼ隊長・・どういうことですか?」

「ムウの奴が、だいぶ暴れていまして。どうやら、大分鬱憤が溜まっていたようですね」

「それだけで説明・・・つくんですか?」

さっきブリッチを出たときいた、あの大量の機体の数々が今は数えるほどしかいない。

しかも、8艦あったはずの敵の艦隊も、今では6艦だけになっている。

「すごい・・」

ニコルは初めて見るフラガの戦闘姿に、唖然としている。

フラガは地球軍・ザフト軍の両軍でも実力は知らぬものはいないといわれたほどの実力者だ。

一度戦ったことがあるとはいえ、客観的に見てもどれほどすごい相手なのかがよく分かる。

「ムウさん、楽しそうですね・・・」

「楽しいというよりは、今までと気構えが違いますからね。あなたを守るという思いは、今までの何よりも強い力となっている」

「・・・ええ」














「大変です!」



このままなんとか地球軍を退けられるかもしれない、という雰囲気が漂い始めた頃、叫び声にも近い声が響いた。

「何事だ!?」

「正面敵艦主砲、本艦に向けられています!」

「何!?急いで回避を!」

「はい!」

急いで回避行動に出ているが、敵の主砲はすでにエネルギー充填を完了させていた。


避けられない!


目の前が危険な光で包まれる。

「キラさん!」

ニコルに抱き込まれながら、キラはぎゅっと目を瞑る。




ドォーーーーーーーーーン




だが、予想をしていたような痛みや衝撃は何もなく、ただ爆音だけが響いた。




「?」

恐る恐るキラが目を開くと、目の前には信じられない光景があった。





「ムウ・・・・さん?」

目の前にいるのは、ストライク。確かにフラガが乗り込んだ機体だった。

『悪い、あと・・・頼む』

騒音で聞き取りにくいが、確かにその一言、ブリッチの中に響いた。

その直後・・・。






ドォーーーーーン






激しい閃光が、再び艦を包む。

まぶしい光が収まり、再び目を開けば・・・・・・・。

目に入ったのは、たくさんの残骸。



ストライクの、残骸。



「ムウ・・さん?ぃや・・・・・いやぁああああああああああああああ」






「キラさん!」

その叫び声と共に、キラの意識は途絶えた・・・。








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