地球軍との戦いは熾烈を極めた。

いくらこちらに優秀なMSがあったとしても、所詮こちらは艦1隻。地球軍は艦隊1つ。

誰からみても勝敗は明らかなものだった。

だけど、誰も自分達の敗北を容認しようとは思わない。



自分の勝利をひたすら信じる。



「キラ、部屋に居た方がよくないか?」

クルーゼ・フラガと共に目の前の戦場を見つめるキラの表情は蒼白だった。

今にも倒れてしまいそうなほど儚く、握り締められている手は震えていた。

「大丈夫です。僕だけ、逃げられませんから」

そう答えて、キラは微笑む。

それを見たものは、もはや何もいえなかった。

キラの痛いほどの覚悟を見せ付けられるような気がして。




と、そのとき。




ドーン




激しい爆発音と共に、艦が大きく揺れる。

「どの方角からだ!」

「右後方からですっ」

「映像をまわせ!」

正面スクリーンに映し出された映像を見て、キラは息を呑む。




「ニコル!」




映し出されたのは、右腕と左足を失ったブリッツの機体・・・ニコルの姿だった。

「ニコル、無事なの!」

『たいしたことはありません、このまま戦闘を続けますっ』

なんでもない、というニコルだが、その様子はとても戦闘を続けられる様子ではない。

「ダメ、戻ってニコル!そのままじゃブリッツの機体が持たない・・・っ。危険だよ!」

『今、戦闘人数を減らすべきではないです。分かってください、キラさん』

「ニコルっ」

「ニコル、お前は戻って来い」

キラの言葉を妨げるように、フラガが告げた。

『しかし・・・』

「いいから、戻れ。命令だ」

『・・・・分かりました』

ぶつり、と通信が切れる。

フラガはそれを確認すると、クルーゼへと向き直った。

「俺が出る」

「いいのか?」

「この状態じゃ、しかたない。俺が出るしかないだろ」

「だが機体はどうするんだ?メビウス・ゼロで出るのか?」

「まぁそれも考えたんだけどな。キラ、以前頼んでおいたもの、できてるか?」

フラガがキラにたずねると、キラはフラガが何をしようとしているのか想像がついた。

「ムウさん、まさか・・・」

「せっかくあるんだ。こんなときに使わなきゃな」

「・・・・わかりました。着替えてきてください。その間に、最終チェックをしておきます」

「OK」

キラは飛び出すようにブリッチを出て行った。

それを見送ったクルーゼはなにやらたくらんでいる様子のフラガに尋ねる。

「で、何をするつもりだ?」

「ん?あ〜・・・以前キラにストライクのプログラムみてもらったんだ。あの状態じゃ俺にも扱えない。だが、キラが手を加えれば俺でも扱えることがわかってな。以前内密に頼んでおいたってわけ」

「まったく、それならそうと一言言っておけ」

「言ったら反対しただろう、おまえ」

「さぁな」

しばしにらみ合うようにしていた二人だが、ふっと笑うと、手を合わせた。

「ここは頼むぞ」

「お前もな、戦場のパイロット達を頼む」

「まかせろ」
















「ニコル!」

「?キラさん!どうしてここに!?」

格納庫に現れたキラに驚きながらも、ブリッツを側に居る整備士に任せてキラの元へとむかった。

キラもニコルの元に行くと、その体に怪我がないか必死で調べた。

が、思ったような外傷はなく機体がひどいだけでニコル自身はなんともなかったようだ。

「よかった・・・」

「ええ。ブリッツのおかげですよ」

そういって二人でブリッツを見上げる。

損傷してしまっているが、再起不能とまではいっていない。

「えらかったね。必ず、直してあげるから・・・」

まるで自分の子供に接するかのように声を掛けるキラ。たとえ戦争に使われるだけの道具とはいえ、キラにとってはかけがえのないものであることにかわりはない。

キラはブリッツから目を離すと、その奥をじっとにらみつけるように見つめた。







そこには、まだ誰も触れたことはない。

ストライクが、いる。






「キラ、さん?」

「ニコル、手伝って」

「え?」

わけがわからず、キラに促されるまま移動する。

だが次第に、ニコルにもキラがどこに向かっているのかが分かる。

「キラさん・・・」

「ストライクを、出すよ」

「・・・・はい」







眠りし戦士を、今、呼び覚ます・・・。