たくさんの兵士の視線が、ブリッジ内のすべてのコーディネーターの視線がキラへと集まった。 だが、キラは自分の体を抱きしめたままうつむいていた。 長めの髪がキラの表情を多い、その顔を見ることができるものはいない。 フラガもクルーゼも、黙ったまま動かなくなったキラを見つめていた。 一部の者は心配そうにキラを見ていたが。 ある一部の者は違った。 「おい、今の本当なのかよ・・・」 「キラ様が、裏切り者のコーディネーター?」 信じられない、という思いやまさか、と息を呑む声。 いろいろな言葉がキラの耳に届く。 でも、そのすべては否定できない、自分の犯した過ち。 隠すことも、消すこともできない、過去の自分が行ってきたこと。
「じゃあ、今俺たちが囲まれてるのって、あいつ一人のせいなのか?」
ああ・・・、これまで・・だね。
キラの中に、諦めとも落胆とも取れない複雑な感情が浮かんだ。 実は、キラの素性は「評議会の最年少議員」ということしかほとんどの兵士には伝えられては居なかった。 すべての真実を知っているのはクルーゼとフラガ、そして赤の4人だけだった。 キラの素性やこれまでのこと。 両親の死やキラが今まで監禁されてきた年月を聞けば、同情をするものもキラを必ず助けたいと望むものもいるだろう。 だが、逆もいるのだ。 誇り高いコーディネーターの癖に、地球軍に与した奴と、キラのことを思う兵士も中には居るかもしれない。 不安因子は削除しなければならない。 特にプラントに到着するまでは。 そのはずだったのに、今事実はすべての兵士達へと伝わってしまった。
裏切り者の、コーディネーターと。
長くうつむいていた顔を上げたキラの頬には、不思議と涙は流れていなかった。 「クルーゼ隊長」 「・・・・」 「ここまで、ありがとうございました」 「おい、キラ!」 横から静止の声を上げるフラガを片手でさえぎると、キラはうっすらと微笑んでクルーゼを見た。 その笑みは、笑っているのに、泣いている。 そんな、悲しい表情だった。 「どういう意味だね?」 「僕は、甘えすぎていた。助けてくれるって、地球軍から解放されるという事実だけに素直に喜んでいた。・・・でも、それで過去が消えるわけじゃない」 キラはゆっくりと、だがしっかりと自分の言葉を紡いだ。 「最初から、きちんと知るべきだったんです。僕の居場所は、どこにもないんだって」
たとえどんなにキラが過去を悔やんでも。 アスランたちが普通に自分に接してくれても。 エザリアやパトリックが自分を迎えてくれると言っても。 すべての人が、許してくれるわけじゃないのに。
「この1週間、僕は本当に幸せだった。みんなと一緒にすごせたこと、笑ったり、怒ったり、なんでもないことを話したり。そんなたわいもないことだけど、本当に楽しかった。・・・・・・・もう、十分です」
「だから、僕を地球軍に・・・・・」
「「「「ダメだ(です)!!」」」」
キラの言葉は、通信によってさえぎられた。 驚いてそちらを見れば、ディスプレイにはサザーランドではなくアスランやイザーク、ディアッカ、ニコルの映像が映し出されていた。 「どうして!どうしてそんなこと言うんですか!キラさんは裏切り者なんかじゃありません!過去に、何があったって、キラさんはキラさんです!僕らの、仲間じゃないですか!」 「ニコル・・・」 「居場所だって、あるじゃないか。もし居場所が無ければ作ればいいんだって。俺たちは、いつだってお前の居場所になってやれるぞ」 「ディアッカ・・・・」 「大切な幼馴染をのこのこと奪われるほど、俺は馬鹿じゃない!過去に罪を犯したからなんだっていうんだ。罪を犯したなら、生きて償えばいい!生きていれば、なんだってできるじゃないか!」 「アスラン・・・」
3人の必死の声が、キラの心に響く。 本当に、自分はここにいてもいいのか? 過去の罪は、償えるの?
「キラ」 「イザーク・・・」
しばし見つめあった二人。 イザークはふっと微笑むと、キラに言った。 「お前は、俺の婚約者だろう?だったら何も迷うことはない。お前の居場所は、常にここにある」 ここにある、と自分の胸を指すイザーク。 それを見た瞬間、キラの目からは堪えようも無く幾筋もの涙があふれ出た。
「なんだと!」 「どういうことですか、イザーク!」 「あら〜、いつの間にそういうことになってたんだ?」 アスランたちがイザークを問いつめているようだが、それはキラの耳には届いていなかった。 ただみんなの言葉が、どうしようもなく嬉しかった。 「キラ、わかったろ?お前は一人なんかじゃねぇんだよ」 フラガの言葉に、キラは何度もうなづいた。 クルーゼがキラにハンカチを差し出し、フラガがキラの髪をぐちゃぐちゃにかき回した。 「子供は余計なこと考えずに、守られときゃいいの」 「でも・・」 「でもじゃない。すべては大人にまかせとけ」 そういうと、フラガはクルーゼにうなづいて見せた。 クルーゼもうなづくと、アナウンスを取り艦内すべてに言い放った。 「これより、我が隊は地球軍艦隊と戦闘になる。が、この戦闘に反対なものは速やかに退艦を命ずる。これによって退艦者が咎められることはない。時間がないから速やかに行動せよ」
そう艦内アナウンスを流しても、持ち場を離れようとする兵士は一人とて居なかった。
「命知らずだねぇ、この艦隊相手に本気で喧嘩売ろうとしているんだから」 「なんだムウ、勝つ自信がないのか?」 「冗談。あんな奴らに負けてたまるかよ。とっととおっぱじめようぜ!」 「ああ」
今度はクルーゼから地球軍へと通信を入れる。 『やっと決心なされたか。では、渡していただけるのだね? 』 「渡すも何も、この艦に裏切り者など乗ってはいない。いるのはただのコーディネーター・・・。私たちの仲間だけだ」 『もっと、利口な生き物かと思っていたがね、君たちは。よかろう。ならば・・・』
『実力で、奪うまでだ』
戦いの火蓋は、切って落とされた。 |