「でも、本当に今頃ですね」

「今だからだろう」

ニコルの疑問に、アスランは即座に答える。

その行動は手早く、すでにパイロットスーツを着込み手袋を手に取っていた。

「というと?」

「あと1日たてば、キラはプラントへたどり着く。だが、そうすれば地球軍は二度とキラを手に入れることができなくなるといってもいいだろう。だから、この機を逃すはずがない」

「なるほど。ようするにこれまでは地球軍にとったら様子見だったってことか。到着寸前なら気を抜いていると思ったってとこだろうな」

「ああ。だが、そんなことで油断するほどクルーゼ隊はあまくない。・・・キラを、渡してなるもんか」

アスランがぎゅっとこぶしを握り締める。

それにはアスランの決意が込められているが、それはニコル・ディアッカにとっても同じだった。

キラを二度と悲しませたくないと思った。・・・・悲しませないと、誓った。

それは己の中での誓いだけれど、違えるつもりなど、ありはしない。

「まだいたのか」

そのときキラを送ってきたイザークが戻ってきた。

「キラの様子、どうだ?」

「やはり、怯えているな。フラガ大尉がこの艦に乗船されたときを境に敵の襲来はなかったからな。安心しきっていたところでこれだ」

ぎゅっと手袋を止める。

イザークの頭から、自分を見送った時のキラの不安げな表情が離れない。

これ以上、キラの表情を曇らせてたまるものか。

数瞬目を閉じて精神統一をすると、キッとした視線を上げる。

「キラを守る」

「ええ」

「もちろんだ」

「必ず、守りきってみせる」







第一撃の衝撃以来、これといった大きな衝撃で艦が揺れることはなかった。

もしかしたら敵が来たという情報は間違っていて、何かがぶつかっただけじゃないのかもしれないというかすかな希望がが浮かぶ。

が、なかなか戻ってこないアスランやイザークたちにその希望も小さくなってしまっていた。

もし本当に間違いならば、アスランかイザークが必ずキラの元に戻ってきてくれるはずだから。

「みんな・・・どうか、無事で・・・」

キラはただ、祈ることしかできない。

祈るしか、今のキラにできる術はないのだから。

『どういうことだよ』

部屋の外から、誰かの声が聞こえる。

声からして、恐らくは自分を見張っている誰かだろうか。

何か話を聞けるかもしれないと外に出ようとしたが、案の定ドアはロックされていて出ることができなかった。

おそらくはイザークの仕業なのだろう。

キラは急遽外に出るのをあきらめ、外の会話に耳を傾けることにした。

『第一撃依頼、まったく攻撃をしかけてこないらしい』

『それじゃ、地球軍じゃないのか?』

『いや、それはない。まだ戦闘にならないだけで地球軍には間違いない。その証拠に、敵艦8、この艦を取り囲んでいるよ』

艦が取り囲まれてる!?

居ても立っても居られなくなったキラは、部屋にかけられていたロックを無理やり解除して部屋の外へと出た。

「キラさま!?」

自分を引き止める声を無視して廊下を進もうとするのを、表に立っていた二人が立ちはだかる。

「いけません、お部屋にお戻りください」

「艦は今、第一戦闘配備中です。危険ですのでお部屋での待機を」

「ですが、今この艦は囲まれているのでしょう!?」

よもや、キラが自分達の会話を聞いていたとは思わない二人は、キラの言葉に驚き顔を見合わせる。

そんな二人を無視して、キラはまっすぐにブリッジへと向かう。

「お、お待ちくださいっ」

追いかけてくるが、キラはそれを気にすることなく突き進んだ。