「キラは知っているのか?」
「え?」 アスランとディアッカが食事を運び、キラとニコルは先に席の方に座っていた。 席について食事を始めようとしたところに、アスランがキラにたずねた。 「知っているって?」 「ジュール議員とイザークとの話。フラガ副隊長もなんかイザークに聞いていたし、何かあったのか?」 「何かあるった・・・というか、これからあるというか・・・」 どうにも歯切れの悪い言葉を口にするキラに、アスランたちは顔を見合わせる。 普段、わりと自分の考えを素直に口にするキラとしては珍しい感じだ。 「これからあるってことは、もしかして明日のこと?」 「でももしそうだとしたら、フラガ副隊長があの部屋で言ってもよかったはずです。僕たちの仕事はキラさんの護衛ですから、最後まで一緒に居るわけですし」 「そうだよなぁ」 アスランたちの視線がキラへと集まる。・・・が、キラはといえば明後日の方向に視線をおくり何事も無かったように食事を続けていた。 だがその行動が、アスラン達にはことのほか怪しく見える。 そういえば・・・・ 「キラ、さっき顔赤かったよね。ジュール議員と何を話してたんだ?」 「え!?」 なんのことだ!?とばかりにアスランを見る。 キラ自信も気付かない小さな反応に、アスランは敏感に感知していた。 これも幼馴染ゆえの特技というべきか。 「えっと、たいした話はしてないよ。明日到着する時間とか、誰が出迎えに来るとか」 「それは以前から何度も話していることだろう?同じことを話ていたのか?」 「う、うん。エザリアもパトリックも、僕が到着するの楽しみにしてくれてるみたいで」 えへへ・・と照れたように笑うキラは、ついつい見ている側の人間も知らず知らずのうちに微笑みを浮かべる。 「そういえば、キラってプラントに着いたらどうするんだ?」 「プラントに到着したら疲れがあるだろうからって、エザリアが自分の家に滞在するようにって言ってくれたんだ。あとの手続き等はゆっくりすればいいって」 「手続き?」 「うん。養子縁組」 「養子縁組?」 一体誰と? 初めて聞くことに驚きを隠せないアスランたちだったが、キラは平然と答えた。 「フラガさんが、ぼくと養子縁組してくれることになったの。僕の家族は・・みんな殺されちゃったから。一人でも大丈夫だって言ったんだけど、それじゃダメだって」 「初耳だな」 「だよな。いつ決まったんだ?そんなこと」 「どうして教えてくれなかったんですか?」 「言い損ねただけ・・かな。それに、ちょっと別の問題があって・・・」 「「「問題?」」」 キラはしまったっという風に口をふさいだ。 どうやら、その『別の問題』とやらは、何か複雑な事情があるらしい。 さらに聞き出そうとしたところで、ようやく話を終えたらしいイザークが食堂へと入ってきた。 「お、帰ってきたか。エザリアさん、何の話だったんだ?」 ディアッカの問いかけにも答えないまま、イザークはまっすぐにキラの元へと歩み寄った。 「キラ」 「・・・なに?」 「話は、母上から聞いた。お前は、本当にそれでいいのか?」 「・・・うん。そもそも、僕から言い出したことだもん。話を切り出してくれたのはエザリアだったけど、僕もそうなったら嬉しい。イザークは?イザークは・・嫌じゃないの?」 「まさか、俺としてもこれ以上に嬉しいことは無い。喜んで受けさせてもらうさ」 「ほ、本当に?」 「ああ、本当だ」 キラは信じられないとばかりにイザークを見返し、対するイザークは普段アスランたちには絶対に見せないような、優しい笑みをキラへと向けた。 ここで疎外的になっていたアスランたちは、どうやらキラとイザークの間で何かの話がついたことだけは理解できた。 その話の大元はやはりエザリアさんからの話らしいのだが、それがどんな話だったのかこの会話からは悟ることはできない。 「お〜い。そろそろ説明してほしいんだけどね。二人だけで納得してないのか」 「ん?ああ」 いたのか、とばかりにイザークはディアッカ達の方に視線を向けた。 キラだけを目指してここに入ってきたイザークの目には、キラ以外の何者も目には移っていなかったようだ。 ある程度予想してはいたディアッカだったが、それには本当に脱力してしまう。 アスランとニコルも、あきれてものが言えない。 「で、話の全貌を教えてもらえるとありがたいんだけど」 ディアッカはキラとイザーク両方に視線を送ったのだが、キラは真っ赤になって顔を伏せてしまう。 「ああ」 そんなキラの様子をみて、イザークはキラの隣に腰掛けると、足を組んで先程のエザリアとの話を話そうとした。
そのとき・・・・
「「「「!?」」」」 「きゃっ」 艦が大きく揺れ、その衝撃で大きく傾く。 『総員、第一戦闘配備。繰り返す、総員第一戦闘配備』 艦内に放送が鳴り響く。 「大丈夫か?」 「うん、平気。ありがとうイザーク」 「ああ」 衝撃から守るように抱きしめたキラの体を、イザークが解放する。 だが、キラの表情は不安に染まっていた。 あと一日、たった一日なのだ。 たって一日で、何事も無くプラント本国へ到着することができたというのに。 「イザーク、行くぜっ」 「先にいけ、俺はキラを部屋まで連れてから行く」 「それだったら俺が・・・」 俺が行く、とアスランが完全に口にする前に、イザークはキラをつれて出て行ってしまった。 「ほら、僕達は着替えにいきますよっ」 アスランはニコルに引きずられるかのように慌しい兵士達の間を縫うようにしてパイロット専用更衣室へと入った。 |