「キラ・・・ほら、いつまでも泣くな。いい加減目が溶けるぞ」

「わか・・・・てる・・・もん・・・。でも・・・・・」

部屋に戻ってきても、キラはずっとイザークの腕の中で泣き続けた。

もちろん、そのないている理由はイザークにもよく分かっており、だからこそ少々腹ただしくもあるのだ。

ほかの何かで泣いているのなら、イザークだって思い切り泣かせてやってすっきりさせてやりたい。

だが・・・、今回は勝手が違う。



そもそも、キラが泣いている理由が気に入らん。



泣き続けるキラには絶対に見せられないような険しい表情で、イザークはキラに知られないようにそっとため息をついた。

キラが泣き続ける理由・・・。それは、





アスランが、キラとイザークの婚約に反対しているから。





なのだから。

この世で一番愛しいものが泣く姿はある意味非常に胸が痛むのだが、その原因が自分のライバルなのだというからイザークも自然といらいらしてくる。

「・・・・ごめん、も・・・大丈夫・・・・」

ようやく顔を上げたキラは、涙をぬぐうを少しだけ微笑む。

だが、イザークには無理をしているのがよく分かり、どうしようもなくやるせない気持ちになる。

「キラ、アスランの言ったことなどは気にするな」

「うん。・・・・ね、イザーク。僕、本当にイザークの婚約者になっていいのかな?」

一体何をいいだすんだ、という顔でイザークはキラを見つめた。

「アスランが反対しているの、多分僕がイザークにふさわしくないからだ。みんなを裏切っていたのに助けてもらって。でも助けてもらってからも一杯迷惑かけてるから。そんな僕がイザークの婚約者になんか、なっちゃいけないんだ」

自分で言いながらも、キラの目には涙がにじんでくる。

イザークにしてみれば、驚くほど方向違いなかん違いなのだが、キラにしてみれば真剣に考えた結果なのだろう。

「キラは俺のことどう想っている?」

「え?」

「嫌いか?」

「・・・っ、そんなこと、あるわけない!」

「じゃあ、好きか?」

そう問えば、キラの顔はたとえようも泣く真っ赤に染まる。

「ん?」

「・・・好き・・・・・」

恥ずかしがりながらもしっかりと答えてくれるキラに、イザークは微笑む。

「だったら、何も問題はない。俺は世界中の何より誰よりももお前を愛している。そして、おまえも俺を好きで居てくれる」

「うん」

こつりと、イザークはキラの額に自分のそれを触れ合わせる。

「だからこそ、俺はずっとキラと一緒にいたいと願っているんだが」

「僕だって、僕だって一緒だよ。イザークと、ずっと一緒にいたい」

「だったら簡単だ。ずっと一緒にいたいから、その約束をするだけ。二人だけの約束に、どうして他人が口を挟むことができるんだ?」

「二人だけの、約束?」

「そう。ずっと一緒にいようという、約束。まだ公式な発表をしていないとはいえ、お前は俺の大切な婚約者。今更誰に反対されたところで、俺はお前を手放すつもりはない。・・・・・たとえ、キラが俺を嫌いになったとしても」

「そんなこと・・・・っ!そんなこと、絶対にない。ずっと、ずっとイザークと一緒にいたもの」

「ああ」







じっと目線を合わせて、そしてふっと二人同時に微笑む。

誰が反対しようと。

誰が邪魔しようと。

二人だけの約束。

それだけは絶対に変わらない。

ずっと一緒にいようという、約束だから。







「それに、アスランが反対しているとしても、他のやつらまで反対するとは限らないぞ」

「え?」

ちょうどそのとき、タイミングよく部屋の中にディアッカが入ってきた。

「やはり来たか」

「ディアッカ。・・・おかえりなさい。今日は、本当にありがとう・・・」

「どういたしまして。・・・・・・・なんだよ、ここは俺の部屋でもあるんだからな」

じっと自分を見てくるイザークの視線にひるみながらも、ディアッカは言う。

正直、格納庫であんなことがあったからディアッカは部屋に戻るかどうか悩みに悩んだ。

どうせ、イザークが戻ったのは自分の部屋だろうし。つまり、それはディアッカの部屋でもあるわけで。

邪魔をすれば殺されかねないと思いつつ、それでもディアッカもキラの様子が気になっているからそのままどこかで待ったままというのも嫌だ。

で、結論として半殺しぐらいは覚悟の上で戻ってきたわけなのだが。

「別に、それは構わん。それより、お前はどうなんだ?俺とキラとの婚約、貴様も反対か?」

「は?」

いきなり何を言い出すのだろうと思ったが、キラの視線が不安げに自分に向けられていることから、イザークが何を言いたいのか分かった。

「別に、俺は反対する義理ねぇし。キラが嫌じゃないっていうんならいいんじゃないか?」

「ほんとに?本当に反対じゃないの?」

キラが身を乗り出すようにディアッカに尋ねるが、反対にディアッカは素直に自分の意見を述べる。

「俺らぐらいになれば、婚約者なんて親が決めるのが当たり前って感じだからな。でも、婚約なんて本来は本人同士が決めることだし。まぁ、キラがイザークに無理強いされているってんなら、思いっきり反対しますけど?」

ディアッカの言葉に、キラは勢いよく首を横に降る。

その様子がおかしくて、ディアッカもつい苦笑をもらしてしまう。

「なら、別にいいんじゃない?イザークがキラを好きなことは最初っから分かってたことだし。それでキラもイザークが好きなら、俺が反対することじゃないさ」

「うん」

「アスランのこと、気にしているようなら別にそう難しく考えなくてもいいと思うぜ。あいつだっていきなりのことで驚いただけだろうし」

「でも・・・、だって、あんなにはっきり反対!って言ってた・・・」

「だから、驚いただけだって。多分もうすぐ来るはず・・・」




ビーっ




ディアッカの言葉をさえぎるかのように、来訪者を告げるブサーがなる。

「ほらな」

にやり、と笑うとディアッカはロックを解除し扉を開けた。

「あ・・・」

そこにいたのは、どこか気まずそうな表情をしたアスランだった。

「アスラン」

「あの、さっきはごめんな。その・・・いきなりだったからさ、俺も動揺してて」

「ううん」

怒ってない、という風にキラが首を振れば、ようやくアスランもほっとしたかのように息を吐き出す。

「ねぇキラ、一つだけ聞いてもいい?」

「何?」

「キラは、イザークのことが好き?」

座っているキラに目線を合わせるようにかがむと、アスランはキラをまっすぐ捕らえて尋ねた。

真剣なアスランに引きずられるように、キラもまた真剣にアスランに答えた。

「うん、好き。僕、イザークのこと好きだよ」

「なら、俺は何も言わないよ。婚約、おめでとう」

そういって笑ってくれるアスランに、キラは驚きを隠せないというように目を見開いた。

「許して、くれるの?」

「うん。っていうか、俺が許す許さないの問題じゃないし。ね?」

「アスラン!」

キラは喜びのあまりアスランにぎゅっと抱きついた。

そんなキラに、アスランはその背を軽く抱き寄せると、それまでとまったく違う表情でイザークを睨みつけた。

「キラのこと、泣かせたりしたら容赦なく俺はキラを奪い返すからな」

「貴様に言われるまでもない」

イザークは気に入らないとばかりに、キラをアスランから引き離した。

いきなり引き離されたキラはどうしたの?という風にイザークとアスランを見たが、二人はそんなキラをわき目に互いを睨みあっていた。




「たった今プラント圏内に入りました。すでにポート内に議員の方々が出迎えに見えているようですよ」




ニコルが報告を伴って部屋に飛び込んできた。

「行くか」

「行こうか」

「行きましょう」

「行こうぜ」

イザーク。アスラン。ニコル。ディアッカ。

みんながキラを迎えてくれる。






「うん!」






大切な人たちに囲まれながら。

キラは生まれて初めて自分が望むべき場所へと降り立った。






キラの未来は、これから始まる。











<あとがき>

ながかった女神シリーズもようやく幕を下ろすことができそうです。

恐らくは連載を始めてから丸1年以上・・・。お付き合いしていただいた皆様、本当にありがとうございます。

・・・・・といいつつ、何か物足りない気がするのは私だけでしょうか?

ようやくプラントに到着したキラ。

これから評議会のメンバーとしての、そしてザフト・プラントの女神としての活躍。

また、イザークという婚約者を得たキラの物語はまだまだ続くでしょう。

これから彼女の待つ未来が幸福なものであることを願って。





ここでちょっとお知らせを一つ。

2月末まで。

この女神シリーズの番外編リクエストを募集いたします。

時期的にプラント到着してからのキラを中心とした話をいくつか書いていこうと思います。(移動中の話は完結したものといたしますので、これはNG)

こんなものが見たい!という方はメールでお知らせください。

リクエストの中から、いくつか選択して掲載していこうと思います。

UPは恐らく3月以降。

また、その際は感想も一緒にお願いします。

(このお知らせは締め切った直後に削除いたします)