「僕も探しに行く!」

「ダメだ」

数分前から繰り返されているこの会話。

場所は変わらず部屋の中なのだが、さきほどからイザークとキラの言い合いが繰り返されている。


つまり、キラはフラガを探しに行くという。

そして、イザークはダメだという。


先程から、二人の間で変わらぬ言い合いが続けられている。

「どうして行っちゃいけないの!?僕だって、ムウさんを探しに行きたいよ。みんなががんばっているのに、僕だけなにもしないなんてできないもん」

「だから、待つことも必要なんだ。お前は副隊長が帰ってきたら笑って出迎えてやればいいんだ」

「それだけじゃやだ!」

「っ、いい加減にしろ!人にはそれぞれ役割というものがある。それがわからないのか!」

ついに切れたのか、痺れを切らしたイザークがキラに向かって怒鳴った。

イザークに初めて怒鳴られたキラは、びくりと体を竦ませた。



はっと気付いた時にはすでに遅し。



キラの両目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。



「なんで?なんで怒るの・・・?僕がムウさんを探しに行きたいと思うのは、いけないことなの?」

「・・・・・違う、そうじゃない」

「なら・・・」

イザークはキラの体を抱きしめてその柔らかい髪をすきながら、言った。

「お前は、副隊長に待っていると言ったのだろう?だったら、キラはどこにも行かないで帰ってくるのを待った方がいいんじゃないかといっているんだ。帰ってきたら一番に会いたいだろう?」

「・・・・うん」

「じゃあ、分かるな?」

「でも・・・・・・」

それでもなお渋るキラに、イザークは最後の手段とばかりにこういった。

「それに、探しに行こうにもその手段がないぞ?」

「え?」

「言っただろう?すべてのパイロットが捜索に出ていると。それはつまり、すべての機体が出払っているということだ」

「でも・・・イザークのデュエルがあるじゃない」

「残念だが、今はない。ニコルが乗っていったからな」

ブリッツがそれ以上行動できないためにその場に残るしかなかったはずなのだが、イザークがキラの側につくことをクルーゼに言いつけられると共に、ニコルがデュエルの操縦許可を求めたのだ。

もちろんパイロットであるイザークは渋ったのだが、クルーゼが許可を出した上に、それが嫌ならばイザークが捜索に参加し、キラの側にはニコルがつくとまでいわれた。

何より、今はキラの側に居てやりたいイザークにとっては、どちらを選ばなければならないのかは明白で。

「わかったら大人しくしていろ。いいな」

「・・・・・・・は〜い」

「よし。なら、食堂行くか。そろそろ腹が減ったからな」




















腹が減った、と言って食堂に連れ出してきたイザークだったが、やはりキラもイザークもフラガの安否が気になって何かを食べるというような余裕は無かった。

しかたなく、談話室で飲み物を購入してただひたすら連絡が入るのを待っていた。



そのとき・・・・。



「おい、クルーゼ隊長が帰ってきたぜ!」

にわかに騒がしくなる艦内。

それを聞いてキラがはっとイザークの方を向くと、イザークもしっかりとうなづいてくれた。

「行くぞ」

「うん!」

慌しく移動する兵士達の隙間をぬって、イザークとキラは格納庫へと移動した。

「ムウさん、みつかったのかな」

「隊長が帰ってらしたということは、そいうことだろう。・・・・・・大丈夫だ、副隊長はきっと無事だから」

不安そうなキラの肩を抱き寄せ、言い聞かせるようにささやく。

キラもそんなイザークの気持ちを知ってか、蒼白な表情をしながらもわずかに微笑み返すことができた。







きっと、大丈夫。

だって、約束したんだもん。

きっと、帰ってくるって・・・・。









キラ達が格納庫に着くと、ちょうどクルーゼがジンから降りてくるところだった。

「クルーゼ隊長!」

すぐに駆け寄ってくるキラにクルーゼも気にしたらしく、機体を整備班に任せると彼もキラの方へと近づいた。

「どうしました?ここまでこなくても今からそちらに報告をと思っていたところです」

「じっとなんかしていられません!それで・・・ムウさん・・・は?」

格納庫のどこにもフラガの姿は見当たらない。

懸命に回りを見渡すキラの表情から、顔色が次第に引いていくのが誰の目にもわかる。

思わず倒れてしまいそうなキラの体を、イザークが後ろから支える。

「落ち着け」

「落ち着いてる・・・もん。クルーゼ隊長、どう・・・だったんですか?」

クルーゼは無言のままキラを見つめる。

それがキラをどんどん不幸のどん底へと突き落としていく。

が、ふっとクルーゼは微笑むと、自らのジンの方向を指差した。






そこには・・・・・






「いってぇなぁ・・・。ったく、ラウの奴無茶しやがって、人のことなんだと思ってんだ、あいつ」






間違いなく。

キラが望んだ姿がそこにあった。






ムウ・ラ・フラガの姿が。






「お、よかった。無事だったな、キラ」

フラガもキラの存在に気付いたらしく、こちらに近づいてくる。

だたキラの様子に変化はなく、ただじっとフラガの顔を見上げていた。

「・・・どうした?キラ?」

何の反応も示さないキラに、後ろから支えているイザークが疑問の声を上げた。

だが、フラガとクルーゼはその意味が分かっているらしく、黙ってキラの行動を待った。

ふらりと、キラの体が動く。

キラの伸ばされた腕が、フラガの体に触れる。

「あったかい。・・・・ここに、いる?」

「ああ。ここに、俺はいるよ」

フラガの手がくしゃくしゃとキラの髪をかき回す。

と、キラはふっとうつむくと、フラガに触れていた手を握り締めた。


ドンっ


キラは力いっぱい、その手でフラガの胸を叩いた。

最初は驚いた表情を見せていたフラガだったが、しかたないとため息をつくとキラの好きなようにさせた。

何度も、何度も。

キラはフラガの胸を叩いた。

「心配・・・したんだから・・・・・」

「すまなかった」

「無事に帰ってくるって、そういったのに。・・・・・なんで、そんなに傷だらけで・・・・」

「平気だって。どれもかすり傷だ」

「一人にしないって、言った・・・」

「約束、ちゃんと守ったろう?」

「・・・・・・・・・ふぇ・・・・・・・・・・」

なんとか耐えていた涙も、ついに抑えることができなくなったのか。キラはフラガの胸のすがって大声を上げて泣きだした。

それを分かっているというように、フラガはキラを抱き寄せて背中をあやすように撫でる。

フラガのぬくもりが、確かに彼がここに生き、存在していることを教えてくれて、それがなおさらキラの涙を抑えてくれなかった。

格納庫の中に、キラの泣き声がこだまする。

だが、それを不思議に思う人間はいるはずもなく。

ただ、皆穏やかな表情でフラガとキラのことを見守っていた。

何より、今日無事に生きていることを実感するかのように。








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