プラント到着まであと1日に迫ったこの日。

司令官室の中にはなにやら考え込むように座ったクルーゼと、壁に寄りかかったままのフラガ。

そして、収集を掛けられた赤の4人がいた。

「あと1日もすればこの艦もプラント本国へと到着する。だが、だからこそ地球軍側が何を仕掛けてくるのかはわからん。気を引き締めて十分警戒を怠らないように」

「「「「はっ」」」」

これについては4人も同じ考えだった。

キラを救いだしてから今日まで、一切地球軍からの攻撃・関与等がないのだ。

彼女は地球軍の中でも重大な機密に関わっていた。それに、以前奪取したMSシリーズのプログラム製作者でもある。

そんなキラの行方不明はとっくに内部に知られているだろうに、まったくそれに関する地球軍側の動きが見られないのだ。

キラの存在が、地球軍にとって軽いわけがない。だからこそ、キラを逃がそうとした両親も殺され、キラ地震はあちこちに監禁されていたのだから。

だが、なぜそんな地球軍がキラの行方をそのままにしておくのかも気になるところだ。

いなくなれば、それはザフトの力が及んだものとわかるだろうに。

「話は以上だ」

「「「「失礼します」」」」

再び敬礼をして部屋を出ようとしたところで、今まで黙っていたフラガがイザークを呼び止めた。

「何か?」

「ジュール議員から、例の話聞いたか?」

「例の話?」

「聞いていない・・か。ならいいわ。ごくろうさん」

「?失礼します」

4人が部屋をでたところで、クルーゼがフラガのほうを向くこともなく言った。

「心配か?」

「まぁね。なんたって話が話だからな。まぁ心配はないとはおもうが、泣かれるのもいやだし」

「気持ちは親、といったところか」

「ま、そんなとこだ」




「なんだったんです?フラガ副隊長」

「なんか言いたげだったよな」

全員の視線がイザークに集まる。

が、イザーク自身もなんのことか分かっていないのに答えられるわけがない。

どちらかといえば、こちらが教えてほしいぐらいだ。

「まぁ、エザリアさんが関わっているらしいし、後で聞けばいいんじゃね?どうせ、明日には来るんだろう?」

「ああ。キラの出迎えは必ずすると、キラ本人にも言っているらしいからな」

これは数日前に聞いたばかり。

何もすることがないキラにとって、訓練の合間にたずねてくれるアスランたちとの話が何より一番の楽しみらしい。

そのため、急に訪ねても喜んで迎え入れてくれ、そのたびにいろいろな話をしてくれるのだ。

地球軍にとらわれている間の、フラガとのいたずら。

幼いころの話や、もちろん最近頻繁に通信連絡を取っていると思われるパトリックやエザリアとのこと。

無理はない程度に、キラは時間の許せる限りいろいろな話をして、そしていろいろな話を聞きたがった。

まるで、失った何かを取り戻すかのように。

「まぁいい。もうすぐ昼食の時間だし、キラを迎えに行こう」

アスランの言葉に、異を唱えるものなどいなかった。





キラの部屋の前に到着した四人は、部屋をノックする。

だがしばらく待っていても返事はまったくなかったのだ。

「これは、もしかして・・・」

「多分、俺かお前の親だろうな」

「だよな」

何度か返事が返ってこない場面に遭遇したことのあるイザークとアスランは、驚くことなく教えてもらっているパスワードを入力して部屋の中へと入った。

案の定、部屋の中にはコンピューターに向かって楽しそうに話をしているキラの姿があった。

今日の相手は、エザリアらしい。

「あ、みんな」

「キラ、そろそろ昼食行こう?」

本来ならば議員との会話をさえぎることは避けなければいけないのだが、こうでもしなければ二人はずっと話し続けて昼食を逃すことになりかねない。

以前終わるのを待っていて結局3時間ほど待たされたのは記憶に新しいところだ。

「母上、キラをお借りします」

『あら、もうそんな時間なの?時間が立つのは早いわねぇ』

はぁ・・・と、ため息をつくエザリア。一体何時間二人で話しこんでいたのだろうか。

というより、こんな時間から仕事はどうしたのだろうか。

「途中でごめんね。また後で連絡するから」

『そうしてくれると嬉しいわ・・。といいたいところだけど、午後はいろいろと準備があるの。ごめんなさい』

「そうなんだ。でも、明日には会えるよね?」

『ええ。ちゃんと出迎えるわ。キラも、それまで元気でね』

「うん」

『イザーク、そこにいるわね』

「はい、母上」

コンピュータから離れたところにいたイザークだったが見える場所に移動して覗き込む。

『話があります。キラ、この場をお借りしてもよろしいかしら?』

「エザリア・・ひょっとしてあの話?」

『ええ。こちらに到着するまえに、ね?』

心なしか、キラの頬が赤い。

傍らに立っていたアスランは、キラのかすかな様子の変化に気を止めたがこの場で問いかけるようなことはしなかった。

「・・・うん、わかった。それじゃイザーク、先行くね」

「すまないな」

その会話が気になるアスランたちを連れて、キラは部屋を出た。

「母上、話というのは?先程フラガ副隊長からも言われましたが・・」

『あら、フラガ副隊長が?やはり心配なのね。』

「一体、なんなのですか?」

『実はね・・・』

エザリアの言葉に、イザークは自分の耳を疑うこととなった。