「僕の、選んだ道は・・・」

一呼吸、キラが言葉をとぎらせると、顔を上げて、はっきりとフラガに向かって告げた。

「生きることです」

「それだけか?」

「はい」

「なら、どこにいても一緒だろう?お前は、ここで生きていけばいい」

「ここにいても、僕は利用されているだけ。それは、僕が思う生きている意味ではないんです。命があっても、死んでいるのと変わらない。僕が望んでいるのは、自分の意思で生きていける場所です」

キラの瞳に迷いはない。

不思議なほどに澄んだ、しかし強い意志の感じることができる瞳でフラガを見つめていた。

「お前自身に、迷いはないのか」

「ありますよ。自分だけの力じゃ、到底適うことなんかできないくらい大変な道を選んだことも分かります。だけど、僕は自分の本当の望みに気付いてしまったんです」

にっこりと、キラは微笑んだ。

「気付かせてくれたのは、あなたですよ。フラガ大尉」

キラは微笑んだまま、フラガの言葉を待った。

フラガが望んでいる自分の選ぶべき道を、キラはしらない。

彼がどんなことを望んでいるのかなんて、キラには知る術がなかったからだ。

それだけ、彼には秘密が多かった。

唐突に、がしっとキラの両肩をフラガの両手が掴んだ。

驚いた目でフラガを見つめるキラだったが、フラガはうつむいたきり顔を上げようとはしない。

「フラガ大尉?」

「よかった〜っ」

「はい?」

いきなりのことに、キラは何を言われたのか分からなかった。

だが顔を上げたフラガの表情は明るく、笑っていた。

「もし、お前が自由になるを選んでくれなかったら、どうしようかと思ってたんだよ」

「どういうことですか?大尉」

「お前は何も心配しなくていい。俺にすべてまかせておけって」

そう言って、フラガは笑う。

だが、キラはそれがどういうことかさっぱり分からなかった。

「さて、と。なんかそれ聞いたら腹減ったなぁ・・。なんか食いに行こうぜ」

そういって部屋を出て行こうとするフラガをキラは呼び止めた。

「待ってください、大尉っ」

「ん?どうした?」

「あなたの望んだ僕の選ぶ道は、なんだったんですか?」

「んなの、簡単だ」

フラガは振り返ると、キラと目線をあわせた。

「俺の望みはな、お前を生かすことだ」

「僕・・・を?」

「そう。たとえ、お前がこのままの状態を望んでも、・・・・死を望んでも・・な。俺はお前を生かす。それが俺の望み、俺の願い」

フラガがこういってくれるなんて、正直キラは考えてなかった。

どんなに自分に優しくしてくれていたとしても、彼は地球軍の大尉なのだ。

絶対に、この道を選んでしまったキラを許してくれないと思っていたから。

「・・・まったく、泣き虫だよな、おまえ」

そう言って、フラガはキラを抱き寄せた。

自分でも自覚はなかったのだが、キラの目からはいくつもの涙が零れ落ちてきた。

「ふぅ・・・・ひ・・っく・・・」

「大丈夫。お前は俺が守ってやるよ。だから、お前はお前の望む道を、そのまま進め」

そう言ってくれるフラガに、キラは何度もうなづいた。














あれから、1週間が経過した。

あの日から、フラガは別段何かをキラに伝えてくることはない。

何かをしているような様子もない。

普段から何を考えているのか分からない部分もあるのは確かなのだが、それでも任せておけ、というフラガの言葉をキラはただ信じていた。

だが、それも今日まで。

キラの身柄がオーブのヘリオポリスへと移動される日がついに来てしまったのだ。

「キラ・ヤマト。これからこの艦で君をある場所へと移動させる。移動中、艦内を動き回ることは許可しない。部屋でじっとしていることだ、いいね」

ヘリオポリスに移動させられるということを、この司令官は伝えなかった。

キラに教えてくれたフラガは、これは軍上層部にしか伝わっていない秘密ごとだといっていたのを思い出した。

「はい・・・」

キラは不安で、不安で、しょうがなかった。

なぜなら、ここには彼が・・・フラガがいなかったからだ。

「あ、あのっ」

「なんだね?」

言うことはすべて伝えたとばかりに去ろうとする司令官を、キラは引き止めた。

「彼は・・フラガ大尉は?」

「フラガ大尉は、昨日付けで君の護衛の任から解かれている。ヘリオポリスに着き次第、新しい護衛官がつくことだろう」

もう話すことはない、とばかりに司令官は部屋から出て行ってしまった。

キラはといえば、その言葉に、目の前が真っ暗になる。

「どう・・して・・・」

分かっていた、ことだった。

フラガは地球軍大尉。上からの命令は絶対で、護衛の任から外されれば自分の側にはいられなくなるということは。

だからって、何も言わずに居なくなることないじゃないか・・・っ

わけも分からない憤りに、キラはその場にうずくまる。

「守ってくれるって、言ったのに・・・・。嘘つき・・・・」

涙が溢れてくる。




「誰が嘘つきだって?」




聞き覚えのある声に、はっとキラは顔を上げた。

信じられない。

だって、この艦には乗っていないって、司令官が今言っていったばかりなのに。

きっと、幻なんだ。

彼の姿を望むばかりに、自分の想いが描き出した幻。

触れれば消える、それだけの存在。

「お〜い、キラ?目を開けたまま寝てるのか?」

その手がキラの頭に触れる。

暖かい・・・。

そのぬくもりが、彼が確かにキラの目の前に、この部屋に居ることを教えてくれた。

「どうして・・・大尉が?だって、さっき司令官の人が・・・」

「おう。だから俺は密航してるんだわ」

「密航って・・・」

自分の味方の船に密航・・・。信じられないものを聞くかのように、キラは頭が痛くなった。

「とにかくだ、キラ。時間がないから手短に話す。全部頭に叩き込めよ」

「何を?一体、何をなさる気なんですか?」

「それはな・・・」

フラガの口から聞かされる話に、キラは目を丸くした。