「女神?」 知らない人達にそういわれ、キラは首をかしげる。 やっと見つけた、と彼らは言う。 だが、少なくともキラは彼らのことを知らない。ということは、彼らが探しているのはフラガということだろうか。 「あの、あなたたちは一体・・・」 『失礼、その前にこちらと信号をあわせていただけるだろうか。××△○・○×□・×××』 「は、はい」 とりあえず言われたとおりにアクセスポイントをあわせる。 すると、ノイズだらけでうまく繋がっていなかった画面が綺麗に写るようになり、そこには見知らぬ大人たちが4人並んでいた。 「あの、あなたたちはどなたです?フラガ大尉に、御用のある方ですか?」 『私たちが捜し求めていたのは、あなたですよ』 そういって、4人の中の唯一の女性がキラに向かって微笑んだ。 その優しそうな表情に、ふっとキラの心もほぐれるように思う。 懐かしい、その表情。どこかで見たことがあると考えれば、それは亡くなった母がいつもキラに向けてくれていた笑顔にとてもよく似ているように感じた。 「私?」 『そう。よろしければ、名前を教えていただけますか?』 「キラ・・、キラ・ヤマトです。・・・あなたたちは、どなたですか?」 『私はユーリ・アマルフィですよ、女神』 『タッド・エルスマンだ』 『エザリア・ジュールと申します』 『そして、私はパトリック・ザラ。我々はプラント最高評議会の議員を勤めている。・・・・我らが女神よ。やっと見つけることができた』 「っ!?」 最後のパトリックから聞かされた言葉に、キラは目を見開く。 ここは地球軍基地内。それなのにどうしてプラントの、しかも評議会議員たちがここに、しかも地球軍大尉の部屋に通信をつなげてくるのだろうか。 自分以外が見つければ、・・・フラガが見つければ大変な騒ぎとなるはずなのに。 『失礼だが、お聞きしたい。先日、ヤキン・ドゥーエへの攻撃があると知らせてくれたのは、君だね?』 「え・・・・」 『あの時、通信を受けたのが私だ』 「あなた・・・が?」 『君の通信を聞きつけ、ヤキンの防衛網を強化することができ、犠牲を最小限で抑えることができた。すべて、君のおかげだよ。感謝申し上げる、我らが女神よ』 「僕は・・・何もしていません。それに、女神って・・・」 先程から、彼らは自分のことを『女神』と呼ぶ。 だが、こんなに罪深い自分が女神などというはずは無い。自分のせいで多くの人間が命を無くし、強制されているとはいえキラの知識で生み出されたものが、また多くの犠牲を生み出す。 まるで、死神のような、この身。 それでも、生きたいと願う。浅ましいと分かっていても、この世に生まれ出た命をあきらめることができない。 『あなたの一言が、たくさんのコーディネーターを救ってくれました。それが無ければ、たくさんの人の命が散り、多くのものを失っていたでしょう。あなたは、私たちにとって勝利の、そして栄光の女神に他なりません』 「僕は、女神なんかじゃない。コーディネーターなのに、地球軍にいる。裏切り者のコーディネーターだ。あなたたちだってわかっているでしょう?通信先ぐらい、分かるはずだ」 つぶやき、キラは泣きたくなった。 好きでここにいるわけが無い。 でも、この地球軍の中にはキラをこう呼ぶものが居る『裏切り者のコーディネーター』だと。 自分達が監禁しているくせに。キラに選択肢を用意してなど、決してないくせに。 『情報は入ってきています。君は昔地球軍に拉致され、そしてその能力の高さから監禁されている。そうだね?』 ユーリがさとすようにたずねると、キラははっと顔を上げた。 どうして、彼らがそれを知っているのか。 『地球軍に潜入しているザフト兵が、君の事を報告してきた。我々は君を助け出したい。君がプラントの市民、ザフトの兵士達を守ってくれたように。我々もまた、君を助けたいんだ』 パトリックがそう伝えると、キラは画面に映る4人をゆっくりと見回し・・・・、そして、ただ首を横に振った。 『なぜだ?』 低く、重みのある声で、タッドがキラに一言たずねる。 「あなたたちが思っているような人間では、僕は決してありません。僕を助け出すとあなたたちは言うけれど、それには恐らく多くの犠牲が出る。僕はもう、誰かを犠牲になんて・・・したくない」 一筋の涙が、キラの頬を流れる。 一度キラを助けてくれるといったのも、ザフトの兵士だった。 そのころの自分はまだ幼く、ただこんなところにいるのが嫌で連れ出してくれると言われてとても嬉しくて・・・。 自由になりたい。ただその願いのためにたくさんの人々が死に、きっとたくさんの人を傷つけた。 もう、あんな犠牲を出すのは、たくさんだ。 『あの時、君は私に向かって『アスラン』と叫んでいたね?それは、君の知り合いか?』 「アスランは、月の幼年学校時代の幼馴染で・・・大切な親友でした」 『月の?では・・・君はヤマト夫妻のご息女なのか?』 その言葉に、キラは目を見開いた。 どうして、彼は知っているのだろうか。 「どうして・・・」 『レノア・ザラを、知っているか?』 「アスランの・・お母さんで、僕の母の親友でもあった人です」 『レノア・ザラは私の妻。そして・・・・アスラン・ザラは私の息子だ。アスランはあの地球軍の攻撃の時、ヤキンの基地の中にいた』 「っ!?」 キラは言葉を失った。 どうして、アスランがヤキン・ドゥーエなどにいるんだ? あそこはザフトの軍事要塞だと聞いている。一般市民がそこに立ち入ることなどできないはずだ。 『レノアは、『血のバレンタイン』で命を落としている。アスランは、そのときに軍に入ることを決意し、あのときアスランの所属する隊はヤキンに待機していた』 「レノアさんが、亡くなっている?」 信じられないその事実に、キラは体が震えだすのが分かった。 脳裏に優しかったあの人の笑顔がよぎる。娘の居ない彼女は、アスランと共に自分を娘のようにかわいがってくれていた。母と居る時の彼女は、とても楽しそうで笑顔を絶やさない人だったのに。 その彼女が、もうすでにこの世にいない? 『アスランだけではありません。私の息子も、そしてこの二人の息子も『血のバレンタイン』で軍に入隊することを決意し、ヤキンの防衛軍の中に居ました。あなたは、ほかならぬ私たちの大切な子供達の命も、救ってくれたのです。そのことに、私はあなたに感謝しても仕切れないわ』 彼らの子供も、恐らくは自分と同じくらいの年齢のはず。 なのに、そんな子供までもつらい戦争という海の中に身を浸しているのか。 いつまで、こんな悲しみの連鎖が続くのだろう。 どうしたら、この連鎖を断ち切ることができるのだろうか。 『だから、我々はあなたを救いたい。それがひいては、必ずこのプラントのためになると、我々は信じて居ます』 「でも、だからといって私が救い出してもらえる理由がない。ただ民間人一人を助け出すために軍を動かすことは、いくらあなたたちでもできないでしょう?」 そう、できるわけがない。 いくら評議会の決定だといっても、地球軍にとらわれているコーディネーターだといっても。 キラは、ただの一般市民でしかありえないのだ。 そのために軍を動かせるわけが無い。 『そのことならば、もうとっくに解決している』 「どういう、ことですか?」 『キラ、君を最高評議会議員の一人として迎えいれる』 「!?」 最高評議会議員!? 突拍子も無い提案をしてきた彼をキラは凝視した。評議会議員というのはプラントの、そしてザフトのトップ集団といっても過言ではない。 それなのに、そこにキラを迎え入れる? 「一体なにを・・・」 『不可能なことではない。最近、評議会議員の一人が欠員している。その後継として我々は君を推薦する、ただそれだけのことだ』 「それだけって」 『だから君を受け入れる準備は万全整えてある。キラは安心して、こちらに来てくれればいい』 「・・・・・・少し、考えさせてください」 頭が混乱しているのが、わかる。 最良の選択がなんなのか、キラ自身わからなくなっていた。 |