キラが地球軍のザフトへの攻撃のことを知ってから、今日で1週間が経過していた。 だからといってキラの周りの流れが変わっていくわけではなく、いつもどおりキラは何げなしにすごす毎日だった。 だが、見ただけで確実に軍内部の兵士の数が減ったことがわかる。 それだけヤキン・ドゥーエへの攻撃に参加する地球軍兵が多いということだろう。
「はぁ〜・・・」
はたして自分の声はプラントの人々に届いたのだろうか。 あの時は相手が『ザラ』というだけでアスランだと思い込み、必死で言葉をつないだ。 だけど、本当にあれはアスランだったのだろうか。『ザラ』という苗字は珍しいとは思うが、もしかしたらプラントにアスランとは別の人がいるかもしれない。
「はぁ〜・・・」
知っていても何もできない。そんな自分が情けなかった。 「15回目」 「え?」 いつの間にそこにいたのだろうか、椅子に腰掛けたフラガがじっとこちらを見つめていた。 「フラガ大尉、戻ってらしたんですか?」 「ついさっきな」 つい先日医師から完治の報告をもらってから、フラガは以前のようにいろいろな訓練に参加するようになった。 まだまだ無茶はできないということだが、加減することを覚えればそれなりのことは大丈夫らしい。 「で、何悩んでるんだ?」 「え?」 「え、じゃないでしょ。俺が戻ってきてからだけでも数えて15回。そうじゃなくても最近のキラはため息多いぞ」 「そう・・ですか?」 「そうですよ」 あまり自分でも自覚があったわけではないが、重い気持ちは表へと出ていたらしい。 だが今の気持ちをどう大尉に説明したらいいのだろう。 攻撃されるプラントの人々が心配だとでも言えと? コーディネーターなのだから、プラントのことを考えるのは当たり前だと捕らえられるかもしれないが、どんなに優しくても彼は地球軍兵士、その中でも大尉という位を授かる人物なのだ。 話していい、わけがない。 「別に、なんでもないですよ?」 「なんでもないって風には、見えないんだけどね」 「大丈夫です」 そう笑っても、フラガは納得しかねるとでもいう風にじっとこちらを見つめてきた。 「・・・まぁ、言いたくないなら無理強いはできないけどな。それじゃ、落ちついたところで行くぞ」 「行くって、どこにですか?」 何か聞いていただろうかと聞き返すと、フラガはおもむろにため息をついて額を押さえた。 「サザーランド大佐が呼んでいるから後で連れて行くって、確か俺言ったよな?」 「・・・・・すいません、聞いていませんでした」 というか、いつそんなことを聞いたのだろうか。まぁフラガが帰ってきたことにも気付いていなかったのだから、恐らくそのときだったのだろう。 だが、サザーランド大佐が一体何のようなのだろうか。 いや、事実キラをこの地球軍基地に幽閉しているのは彼なのだから、おかしくは無い。事実、ここのトップはサザーランド大佐なのだと聞いたことがあるから。 そこまで考えて、キラは少し怖くなって来た。 彼が、一体何の用で自分を呼びつけるのか。 また、何か新兵器の開発を手伝わされるのだろうか。 人を殺すための、武器を・・・・。 「キラ?」 突然黙ってしまったキラを不振に思ってか、フラガはキラの顔を覗き込んだ。 「あ・・すいません」 「大丈夫だ。俺もついていくんだからな」 そういって髪をぐしゃぐしゃにかき回しながら微笑んでくれる。 「・・・・・・はい」 この人が居る限り、自分は大丈夫だ。 なぜか、そう思った。
キラがつれてこられたのは、何度かキラが来たことがある場所だ。 軍法会議室。 かつてこの部屋につれてこられたのは、2回。 一度はキラが地球軍につかまったとき、両親と共に・・・。 二度目はキラが脱出に失敗したとき、脅しの意味で。そのときもはや、隣に両親は居なかった。 「さて、今日君にここに来てもらったのは他でもない。君に聞きたいことがあるからなのだよ」 「聞きたいこと、ですか?」 サザーランド大佐のきつい目がキラの体を射抜く。 「何を・・ですか?」 無意識に、声が震える。 「君は最近、どこか外部に連絡をしたことがあるかね?」 「外部・・」 心臓が高鳴る。せわしく早い心臓の音がこの場に居る地球軍の重鎮達に聞こえはしないだろうかとそればかりが気になった。 「どういう、ことですか?」 まさか、この間の通信が、ばれた? 「正確には1週間前から5日前だ。君はその間、通信を取ったことがあるのかね?」 「お言葉ですが、大佐。それは一体どういうことなのですか?」 後ろに控えていたフラガがたずねる。 「5日前のザフト基地への攻撃、君は聞いているかね?」 「話だけは。私は怪我を負っていましたので参戦はいたしませんでしたが」 「そのときの映像が、これだ」 室内の明かりが落とされ、正面のディスプレイに映像が流れる。 地球軍側からとった映像なのだろう。正面にはたくさんの軍艦、機体がありこちら側と退治している。 ということはあの背後にあるのがザフト軍基地である、ヤキン・ドゥーエなのだろうか。 「これは・・」 「我々の極秘情報がどこからか洩れたのだろう。内密に進めてきたヤキン・ドゥーエへの総攻撃を行うはずだったが厳重に警戒されていて、逆にこちらが痛手を強いられた」 しばしお互いに動くことなかったが、地球軍の端の軍艦がザフト軍の中に突撃していった。 それを境に、一斉に戦いの火蓋が気って落とされた。 お互いが攻撃を仕掛け、一糸乱れぬ攻防戦が開始される。 たくさんの・・・命が・・・・・・。 「・・・っっ」 これ以上見ていたくなくて、キラは目をぎゅっと閉じて耳をふさぐ。 たくさんの命が消えていく。 こんなにも、簡単に。 どうして、こんなことになってしまったんだろう。ただ、誰にも争ってほしくなくて、死んでほしくなくて・・・。 「このようなことがあれば、誰かがザフトに密告したとしか考えられない」 「つまり、大佐はキラがザフトに密告したと?」 フラガがキラの側に来てその肩を支える。 「そうとしか考えられないだろう」 「お言葉ですが、大佐。キラは1週間前から5日前となると、ほとんどの時間を私と過ごしております。怪我の看病のためですので、ドクターに確認を取っていただければそれは確かなものかと」 「それは本当かね?」 「はい。それにプラント側に密告でもなんでも通信すればその記録が残るはず。あったんですか?」 「それが無かったから、我々は彼を疑ったのだよ。そんなプログラムを瞬時に行えるのは、この基地内では彼しかいないからね」 下がっていい、といわれて、キラはフラガに支えられながらゆっくりと立ち上がった。 重鎮達に悟られないように必死だったキラの体の震えも、恐らくはフラガには知られてしまっただろう。 でも、彼は何も言わない。何も聞かない。
「キラ、大丈夫か?」 「・・・はい」 そう返事をしながらも、キラの体の震えは止まらなかった。 自分が誰かにあのことを伝えたから、あんなに多くの犠牲がでたのか? でも、つたえなければいけないと思ったんだ。もし伝えてなかったらきっとたくさんのザフトの人々、プラントの住人が殺されてしまうと思ったから。 自分のしたことが、間違いではないと思いたい。 「キラ」 「大尉?」 うつむいて体を震わせていたキラを、フラガがぎゅっと抱きしめてくれる。 背中に回した腕で、キラの背をなでて落ち着かせようとする。 普段とは違う、彼の優しいしぐさに、キラは最初戸惑ってしまったが、その体温の心地よさに、ふっと体の力を抜いた。 おずおずと彼の背中に腕を回すと、いっそう強い力で抱きしめてくれる。 そのすべてが、今のキラには癒しとなった。 「大尉・・・・」 ありがとう、ございます。 そうつぶやいたキラに、フラガは、ああ、とだけ答えてそのままキラを抱きしめていた。 いつのまにか、キラの体の震えは、止まっていた。 |