「と、こういうわけだよ」 すべてを話し終わると、キラは冷めてしまった紅茶に再び口をつけた。 話始めてから、かれこれ2時間以上が経過していた。 それだけの重みが、この話の中にあったとは思う。 簡単にできるだけ明るく話すように勤めていたのだろう。でも、キラが味わった不安や迷い、そしてさびしかった気持ちが伝わってくるようだった。 でもそれはすべてじゃない。 キラの苦しみをすべて分かるなんて、そんなことできるわけないから。 「どうしたの、みんな。暗いよ?」 「まぁ・・・ちょっとね」 「大丈夫。今は一人じゃない。ムウさんもいてくれるし、みんなだっている。・・・・寂しくなんて、ないよ?」 「そう、だね」 アスランがキラに笑いかけると、それにつられたようにイザークたちにも笑顔が広がっていく。
「でも、キラさんの好きな人って副隊長なんですね」
ふとしたニコルの言葉に固まるアスランとイザーク。 この二人がキラに恋心を抱いているのは周知の事実・・・。それを自覚してか否か、ニコルの言葉は二人の心に深く突き刺さった。
「うん、ムウさんは好きだよ。優しくて、お兄さんみたい」
が、どうやらニコルの思惑は外れているようだ。 「え?」 「お兄さん、ですか?」 「そうだよ?あったかくてやさしくて。一緒にいるとほっとする家族みたいな人」 えへへ、と照れたように笑うキラ。 きっとそれは、フラガだけがキラに与えることができた感情なのだろう。 「でもさ、キラって好きな人居るっていってなかったか?」 「えっ!?」 「なに?」 「どういうことだ、ディアッカ」 キラは真っ赤になってディアッカの方を向き、アスランとイザークがディアッカに詰め寄った。 「少し前かな、隊長と副隊長と話してただろう?」 「あ、あそこにディアッカいたの!?」 「いたって言うか、とおりすぎた。相手までは聞こえなかったけど、真っ赤になって副隊長と話してたじゃないか」 「・・・っ」 真っ赤になってうつむいてしまったキラだったが、それはディアッカの言葉を肯定するには十分だった。 「で、キラの好きな人って誰なんだ?」 「い、言えるわけないでしょ!」 「どうして?幼馴染の俺にもいえないの?」 「あ、アスランには特に絶対にいえないのっ」 そう叫ぶように言い放つと、キラは逃げるように部屋を出て行ってしまった。 残された4人はキラが出て行った扉をじっと見つめる。 「あ〜あ、行っちゃいましたね、キラさん」 「アスランがいじめるからだ」」 「お、俺は別にいじめてない。どっちかといえばディアッカ、お前の方がキラをからかったりしたから」 「俺のせいかぁ?」
「なんだ、やっぱりお前らか」
といきなり部屋に入ってきたのはいつもどおり軍服を着崩しているフラガだった。 すぐに立ち上がって敬礼をするが、フラガはそんなアスランたちをいなして側に寄ってくる。 「あの、やっぱり・・・とは?」 「キラが真っ赤になってこの部屋から飛び出してきたからよ。大方、お前らがキラをからかったりしたんだろう?」 「別にからかっていたわけではありません」 イザークがそっぽ向くように答える。 「実はキラさんにフラガ副隊長とのことを聞いていて」 「ああ、聞いたのか。ご感想は?」 それぞれが顔を見合わせたが、答えたのはアスランだった。 「キラを助けたのがクルーゼ隊長だったとは、驚きました」 「俺と組めるのはラウぐらいだからな。適当な奴回されて失敗するわけにもいかないし。特務隊の奴でもよかったけどなんかなぁ・・・」 そういいながら笑うフラガだが、クルーゼ隊のトップ二人が内密に動いてこそ成功していたことなのだろう。 フラガの言葉ではないが、半端なコーディネーターがこの作戦に参加したところで足を引っ張るだけ。 この二人だからこそ。 そう考えれば、この二人の実力は計り知れないものがあった。 「そういえば、キラはどうしたんです?」 「ラウが連れてったぜ。それにしても、お前ら一体なんていってからかってたんだ?あのキラが真っ赤になるなんて珍しいこともあるもんだとは思ったが」 「そういえば、フラガ副隊長は知ってるんですよね?キラの好きな人」 「もちろんだが・・。ああ、それでキラがあれか」 フラガが納得したようにうなづく。 「あいつも初恋らしくてなぁ、いろいろ戸惑ったみたいだ。でも、結構意識しているらしいぞ」 「初恋って・・・」がっくりとアスランが肩を落とす。 アスランにとっての初恋は、キラそのものだったのだから。 「意識って・・・この艦に乗っているんですか?」 「さてね。それは俺が答えることじゃない。お前らで突き止めな」 飄々と答えてフラガはまたどこかへ行ってしまった。 そう簡単に知りえることではないとは分かっていても、アスランたちにはキラの好きな人というのがとても気になってしかたがなかった。
〜 あとがき 〜 ようやく終わりました、女神3. |