「ヤマトさま、到着いたしました。今からお部屋へとご案内します」

「わかりました」

キラはその言葉に従うように部屋から出た。

部屋の外に居たのは地球軍の兵士が三人。

恐らくはこのうちの誰かがキラの護衛にと選ばれた軍人なのだろう。

「無駄な抵抗はなきように。・・・まぁ、わかっているでしょうね。あなたは、裏切り者のコーディネーターなのですから」

「なんとでも、おっしゃればいいでしょう」

小刻みにキラの手が震える。

そのまま回りを囲まれるようにしてキラは移動する。

艦から下ろされたところで、キラはフラガに渡された腕時計を盗み見る。

計画実行まで、あと1分・・・。

キラは腕にはめている時計を上からぎゅっと握り締める。

あと少しで、キラの運命が決まる。

失敗は、許されない。



あと、50秒・・・・



「ここはヘリオポリスの一角です。ヘリオポリスはご存知のとおりオーブのコロニーの一つ。ザフトの連中がここを察知することはまずないでしょうな」



あと、40秒・・・・



「以前のように誰かが助けてくれるなどとは考えない方がよろしかろう。万に一つも、可能性はない」



あと、30秒・・・・



「以前の基地では、あなたはコーディネーターなのにずいぶんいい待遇をされていたようですが」



あと、20秒・・・



「この基地の司令官は大層立派なお方だ。以前のような待遇は期待されない方がいいですよ」



あと、10秒・・・



「まぁ、筆頭がこの私です。あなたの護衛官を任されたからには、しっかりとあなたを見張らせていただきます」



あと、5秒・・・



「私は他の奴らのように、甘くは・・・・」



作戦、開始!



ドーン     ドーン



大きな爆発音と共に、激しいゆれが地球軍基地を襲った。

「な、なにごとだ!」

「何があった、誰か報告を!」

周りの三人のうち二人が慌しく辺りを見回し、側を通った兵士を捕まえて状況確認をしている。

「ヤマトさま、こちらへ」

「はい」

キラの後ろに控えていた人物がキラの手を取ると、他の二人に悟られないようにその場を離れ、一気に走り出した。

「お、おい貴様!何をしている!」

遠くでこちらに向かいながらさっきのべらべらとしゃべっていた兵士が怒鳴っている。

それを振り返りながら走っているキラに、その手を引く兵士が叫ぶ。

「気にしている暇はありません、お早く!」

「は、はいっ」

基地全体が混乱しているさなか、キラはある格納庫の裏手につれてこられた。

いきなり長距離を走ったキラの息は荒く、壁に背を預けて息を整える。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫・・です」

「もう少しですから、がんばってください」

「ええ」

「では、いきますっ」

人の波を抜けようやくすり抜けた先は、何かの倉庫のような建物だった。

「ここは?」

「この基地の一番南にある倉庫です。爆発が起きたのは一番北の格納庫でしたので、ひとまずここに」

「そう・・ですか」

確かにこの辺りには兵士の姿はまったく見えない。

普段からあまり使われていない倉庫なのか、中に入っている物資も少なくあまり必要のないものばかりが粗雑においてある。

「あの、あなたは?」

「ああ、名乗るのが遅れましたね。ラウ・ル・クルーゼと申します」

「クルーゼさん?」

「ええ」


「俺の上司だよ」


ふと後ろから聞こえてきた声に振り向く。

「フラガ大尉!」

「よう、無事だったな」

「フラガ大尉こそ・・・。でも、上司って・・・?」

この人も地球軍の人なのだろうか。

目元を覆う仮面は異質の物のように思うが、不思議とその仮面は怖いとは思わなかった。

「私はザフトでクルーゼ隊の隊長をつとめています」

「ザフト・・ですって!?」

ということは・・・

はっと、フラガの方を振り向く。

「あれ?言ってなかったか?俺ザフトの兵士なんだ」

「言ってないです!」

「わりぃわりぃ」

ようやく話をまともに聞けば、フラガは元々ザフトの兵士、コーディネーターだという。

クルーゼ隊の副隊長という役職を持っていたが、以前ザフト内で地球軍への潜入という話が浮き上がりそのうちの一人として地球軍へと侵入してきたのだという。

「どうりで・・・」

フラガの部屋から何度となく評議会の議員達と話しができたわけだ。

恐らくはフラガが前もって設定などをしておいたのだろう。

単純に考えてみれば分かったことなのかもしれない。

だがあのときのキラはそこまで気にしている余裕がほとんどなかったのだ。

「んで?手はずは整ってるのか?」

「もちろんだ。滞在先もそろえた。当分の護衛は評議会直属の特務隊のメンバーが数名着くことになっている」

「確かな人物なんだろうな」

「ザラ議長とジュール議員直々に選出されたメンバーだ。間違いはないだろう」

「そうか。それじゃキラ、ここでお別れだ」

「え?」

いきなりの言葉に、キラは思わず聞き返してしまった。

お別れ・・・?

「これからお前にはしばらくこのコロニーで潜伏していてもらう。今ここから脱出すればすぐに地球軍の追っ手がかかるだろう。それじゃ都合がわるいんでな」

「で、でもっ」

「大丈夫、護衛も付くし安全は保障する」

「護衛って・・・だったらフラガ大尉がいるじゃないですか」

どうしてお別れだなんて・・・。

「俺はまだ仕事が残ってる。それに、俺は今本当はここにいないんだぜ?」

「それは・・・そうですけど・・・」

「大丈夫だって、これっきり会えないわけじゃないんだから。な?」

「は・・・い・・・」

思い切り納得していないような声でうなづくキラに、フラガは苦笑しながらもその頭をくしゃくしゃにかき回した。

「何暗い顔してるんだよ。何もこれから一生会えなくなるわけじゃないんだぜ?」

「わかってる・・・けど・・・」

「大丈夫、そう遠くないぜ俺たちがまた会える日も。だから、しばらくの我慢だ」

な?と笑うフラガの顔に偽りはなくて・・・。

つられるように、キラもフラガに笑いかけた。

「プラントに戻ったら、一番にキラに会いにいくよ」

「約束、ですよ?」

「ああ。約束な」