「キラ、入るよ?」

ノックを繰り返すが、返事はない。

起床時間はとっくに過ぎており、キラはよほどのことがない限り寝坊などはしない。むしろ、アスランたちよりも早く起きていることのほうが多いのだ。

だからいつまでたっても食堂に現れないキラを心配してたずねてきたアスランとイザークだが、部屋をノックしても返答はない。

「部屋にいないのかな?」

「こんな早くからどこへ行くというんだ?」

「・・・あの人のところとか?」

「フラガ氏ならば先ほど隊長に呼ばれて廊下を歩いているのを見たぞ」

フラガの元ではない。

ということは、こんな朝早くからどこへ行ったというのだろうか。

 

「・・・・」

 

「聞こえたか?」

「ああ。中から確かにキラの声が・・・それに、誰かと話しているように聞こえる」

もう一度ノックを繰り返すが、やはり反応は返ってこない。

何か起こっているのかもしれない。

そう考えると居ても立ってもいられなくなり、アスランとイザークは顔を見合わせるとどちらともなくうなづいてキラのドアロックを外す。

何かあったときのためにと、解除パスワードを聞いていてよかった。

 

「あはは。それで、どうしたの?」

『もちろん、きちんと片付けましたよ。そのままにしておくこともできないでしょう?』

「確かにそうだね」

 

部屋に入った途端に聞こえてきた声。

一つはキラの声、そしてキラが向かい合っているパソコンの画面に映るのは・・・

「母上!?」

後ろから突然聞こえてきた声に、キラは振り向いた。

「イザークにアスラン。おはよう、どうしたの?」

「それはこっちのせりふだよ、キラ。起床時間はとっくに過ぎているのにいつまでたっても食堂に来ないから」

「え?もうそんな時間なの?」

まるで今気付いたかのように目を丸くして慌てて時計を確認している。

どうやら、本当に気付いていなかったようだ。

『イザーク、おはよう』

「母上、おはようございます。お久しぶりですが、お変わりありませんか?」

『ええ、大丈夫よ。そちらも変わったことはなくて?』

「はい、順調に移動をしておりますので、あと10日ほどでそちらに到着することができるかと思います」

『そう。キラがこちらに来るのが今から楽しみだわ。他の議員も、みな同じ気持ちよ』

「僕もだよ。それじゃ、もうそろそろ切るね。また連絡するよ」

『きっとよ』

そう言って連絡は切られた。

ノックをしても気付かなかったのは、エザリアと話していたからなのか。

「ごめんね、気付かなくって」

「いや。俺たちこそ邪魔したようで悪かった」

「かまわないよ」

そう言って微笑むと、食事を取るべくキラたちは部屋を後にした。

 

その日の夕刻。

その日の日程を終え、パイロットスーツから赤服へと着替えていた。

疑問を持ったのはニコル。

そのきっかけを話したのは、アスランだった。

 

キラがフラガの元へ行ってしまってから、何気なくアスランが今朝のエザリアとの会話についてそのときに居なかったディアッカとニコルに話していたとき。

「どうして、キラさんはジュール議員と知り合いになったんでしょうか。ジュール議員だけじゃありません、ザラ議長や他の議員達も。僕の父もキラさんのことは知っているような口ぶりでしたし」

そう言ったからだ。

「そういえば、キラはずっとオーブにいてその後地球軍の連中に捕まったんだろう?だったらプラントの議員達と知り合いになることはできないだろうし、その上最年少の議員になんてなれないんじゃねぇ?」

よっぽどのことが無い限りは。

今まで考えもしなかったが、そう考えると確かにおかしいことがいくつかある。

先日キラとフラガの出会いのことを聞いて驚いたが、まだほかにキラには秘密がありそうだった。

「一度父上に聞いてみようか」

一応議会のトップなのだから、詳しい情報を持っていそうな気がする。

こそこそキラを調べているようで気が退けないことも無いが、これは重要な問題である。

あくまで、アスランたちにとっては、だが。

まだまだ、彼らの知らないキラはいるのだ。

 

 

「そんなに知りたいのか?」

 

 

 

ふと聞こえて来た声に、4人ははっと振り向いた。

そこにはアスランたちと同じようにパイロットスーツに身を包んだフラガの姿があった。

いつからここにいたのだろう、まったくわからなかった。

「副隊長」

「一体いつからそこに」

「ニコルの『どうしてキラさんは・・・』からだけど」

「副隊長ともあろうものが、盗み聞きか」

「あのね、俺は着替えに来ただけなの。そっちこそ赤服エリートが4人もそろって人の気配も読めないのかよ」

フラガの言葉に、反論できるものなどいない。

話に夢中になっていたとはいえ、まったく気付かなかったのだから。

フラガはそのまま自分のロッカーまで行くとパイロットスーツを着替えにかかった。

「・・・で?知りたいわけ?」

「何を、ですか?」

「お前らさっきまで話していただろうが、キラと議員達のきっかけだよ」

確かに知りたい。

知りたいは知りたいのだが、・・・・・どうしても彼に聞いてみたいとは思えなかった。

どうせ聞くのならば、キラから直接聞きたい。

「まぁすべてを話すのはキラの役目だからな。お前らも、うだうだ悩んでないでキラに聞いた方がすっきりするぜ。あいつは素直に答えてくれる」

「はぁ・・・・」

おそらくはちゃんと答えてはくれるだろう。

別段躊躇する必要も無いはずなのに、どうしてだか踏み出すことができない。

何か、大きな壁があるような気がして。

「まぁ、きっかけぐらいなら教えてやるよ」

「きっかけ、ですか?」

「ああ。キラがジュール議員やザラ議長、他の議員達と知り合ったきっかけは、おまえだったんだよ」

「俺、ですか?」

おまえ、といわれて指差されたのは、なんとアスランだった。

それにはニコルやイザーク、ディアッカも驚くが、一番驚いたのはアスランだろう。

フラガはそれ以上はやはり語る気はないらしく、着替えを終えて部屋を出て行ってしまった。

 

「これ以上は、キラに聞くんだな」

 

その一言だけを残して。

 

 

 

 

☆あとがき☆

やっと再開することができました、女神3!

ここではエザリアやパトリック達の、キラとの初対面の話を書いていきます。

時期的には過去、フラガが傷を負ったあとからの続きになります。女神2を読んでいない方は、まずはそちらからどぞ♪

現在スランプ真っ只中ですが、がんばって更新していきたいと思います!